地下牢からの脱出
地下牢には、桃太郎と、ユリカ、それにユリカの父マイソンが閉じ込められていた。
犬や猿とは強制的に引き離された。
桃太郎は、その時サスケに向かって叫んだ。
『俺は大丈夫だ。お前は皆を連れて森へ帰れ。また後で会おう』
その声を聞いて、サスケは心配顔で頷いていた。
ここ地下牢では、どうやって脱出するかを思案していた。
「さて、困ったぞ。さっき大きな爆発音が聞こえたが出口を破壊されたようだ」
マイソンが、気落ちした声で言った。
「えっ、お父さん、それじゃあ私たちは生き埋めにされちゃったの?」
ユリカもまた心配そうに聞いた。
「ああ、その通りだ」
二人はガックリと肩を落とした。
桃太郎は、腕を組んで考え込んでいる。
「いいや、最後まで希望は捨てないぞ」
彼は、自分に言い聞かせるように言った。
「桃太郎さん、私たちの武器は全て没収されてしまったわ。あの剣も取られてしまったのに」
「ユリカ、そう悲観するな。俺達はまだ生きているんだ。それに飛雄はどうしたんだ?」
「えっ、ああそうそう。私たちが捕まる直前に何処かへ飛び去ったわ」
「そうだ、飛雄には予知能力も備わっているからな」、マイソンが話に割って入ってきた。
「そうね、きっと私たちを救おうとしているに違いないわ」
微かではあるが、ユリカにも元気が出てきた。
「ユリカ、武器は全部取られたが、まだ残っているものもある」桃太郎が、ある覚悟を持って語る。
「桃太郎さん、気功を使う気なの。でもそれは相当に体力を使うんでしょう」
「ああそうだが、飛雄だけではここを突破して来るには難しいだろう。こちらからも何とかしなければな!」
「無理しないでよ」
心配するユリカに向かって、Vサインすると、桃太郎は意識を集中し始めた。
目をつむり、丹田呼吸をし、気を体内に取り込んでいく。
やがて、集めた気を腕に集中させていく。
充分気を集めた所で、腰を低くして構え、その状態で両腕を水平にあげ、手のひらを垂直にする。
桃太郎の気合いとともに、手のひらから強力な気が放出された。
すると、前方にあるドアが破壊され、その向こうにある、爆破により崩された土や岩石なども吹き飛ばされていく。
凄まじい土埃りが舞い上がる。
やがて、少しずつ視界が晴れていく。
数メートル先まで、穴が開いたようだ。
「桃太郎さん、凄いわ」
「ああ、だがまだまだだ」
桃太郎は、続けて二度三度四度、気功を試す。
かなりの距離の穴が開く。
だが、まだ穴は貫通しない。
桃太郎も、かなり息が上がっている。
「桃太郎さん、大丈夫? 少し休んだ方がいいわ」
「いいや、まだ大丈夫だ。やらせてくれ」
再び気功を放つ。
だが、まだ貫通しない。
「くそっ、まだなのか!」
さしもの桃太郎も、息が上がり、大粒の汗が吹き出してくる。立っているのもやっとという状態だ。
「桃太郎君、休むんだ」マイソンが、強い口調で言う。
「そうよ、あなたが倒れたら希望が無くなるわ」
その時、何かが猛スピードで飛び込んで来た。
小さな隙間から入ってきたのは、飛雄であった。
「まあ、飛雄じゃあないの」
「と言うことは、もう少しで脱出出来るぞ」
マイソンも弾んだ声で言う。
だが、桃太郎の方を見ると、土の壁にもたれ掛かり目を閉じていた。
ユリカが、駆け寄り「桃太郎さん、大丈夫なの」と、叫ぶ。
桃太郎は、動かない。
「桃太郎さん、もう少しなのよ」、ユリカは今にも泣き出しそうであった。
マイソンは、冷静に桃太郎を見ていたが、深刻な表情が笑みに変わった。
「ユリカ、桃太郎は大丈夫だ。疲れきって眠っているだけだ。少し休ませてやろう」
それを聞いて、ユリカもホッとした。
その時、唐突に飛雄が喋りだした「ゾーンが、乱心した。彼は軍の体制を整え、武力を持って人類の制圧に乗り出そうとしている。あまり時間は残っていない」
「何だって、ディアボロスが破壊された今、彼らに残った最後の手段なのだろう。これを阻止するには、ペルシカ星に連絡し平和維持軍を呼ぶしかないぞ!」マイソンは、いつの間にか深刻な顔に戻っていた。
「そう、それならどうしても早く通信設備エリアまで行かなければならないわね」ユリカは、そう言いつつ桃太郎の顔を見る。
しかし、桃太郎は簡単には起きてくれそうもなかった。
沈黙したまま、貴重な時間が過ぎていく。
暫くすると、ユリカの背後から足音が響いてくる。
ユリカが振り返るとそこに、背の高い若者が歩いて来ている。
「あなたは誰? 通路が塞がっているのにどうやってここに来たの?」
ユリカは警戒した。何故なら彼はネビロン人の研究員の服装をしていたからだ。
「心配しなくていい。あなた方を助けに来ました」
彼は、ニコニコしながら語った。どう見ても危害を加えるような雰囲気は無い。
「私はサイモンと言います。地求人の彦一とは友人です。彼らは特殊実験室を抜け出し、今ごろ氷の橋を渡っているでしょう」
ユリカは、その青年の誠実そうなしゃべり方に安心した。
「本当なのね。ああ良かった。なら母さんも大丈夫ね」
「勿論です」
「おい、君はサイモンというのかね?」マイソンが懐かしがるような顔をして聞いてきた。
「はい、そうですが。私を知っているんですか?」
「君のお母さんは、マイヤーじゃあないのかな?」
「ああ、そうです」驚きの顔をマイソンに向けた。
「やはりそうか。かつて我々とネビロン人が親しく付き合っていたときの事だ。私の同僚のマイヤー博士と、ネビロン人の技術者が仲良くなり結婚した。それで君が生まれたんだ」
「ああそうです。私は実は混血なんです」
「ああ道理で顔がネビロン人らしくないと思ったわ」と、ユリカが言う。
「しかし、マイヤーは不慮の事故にあい、若くして亡くなった。それで君はネビロン人として育てられた」
「そうです。そう言えばマイソン博士の事も聞いた覚えがあります。優秀な科学者だとね」
マイソンとサイモンは、笑いながら握手をした。
「ところで、ここで眠っているのが桃太郎ですか。相当に疲れているようですね」
「そうなのよ、今いるこの穴は桃太郎が気功で掘ったものよ」
「本当なのか! それは凄い。疲れるのも無理もないな」
そう言いながら、サイモンは、自分のポケットを探り一本の注射器を取り出した。そこには既に何かの液体が入っている。そして、それに針を取り付けた。
「これには、特殊な栄養材が入っている。これで元気を回復させる事が出来る」
「サイモン、大丈夫なんだろうな」
「勿論です。数分で効き目が現れます」
「私は信じるわ」ユリカは、祈るような目をして言った。
サイモンは慣れた手つきで、注射液を押し流す。
三人は、桃太郎の様子を少しの変化も見逃さないよう見つめた。
数分後、桃太郎の顔が微かに動いたと思ったら、すぐに目をぱっちりと開けた。そして、大きく背伸びをする。
「ああ、良く眠った」大きな声である。
そして、キョトンとした目をして「どうして、そんな顔をして俺を見てるんだ?」と不思議そうに言った。
三人は、思わずその様子を見て笑ってしまった。
「桃太郎さんたら、疲れ果てて眠りこんでいたのよ!」
「俺がかい?」
「もう、全然分かっていないんだから。ここにいるサイモンさんが、注射を打って元気になったんだからね」
「ああそうなんだ。サイモンさん、ありがとう」無邪気な顔をしてサイモンにお礼をいう。
サイモンとは、初めて会ったのに何も警戒心を持たず、昔からの友人のように接する事が出来るのは、いかにも桃太郎らしい。
「さあ、もう一息でここから出られるぞ。もう一発気功を決めてやる」
桃太郎は、再び気を溜めるために呼吸を整える。
それを見て、サイモンが慌てて止めに入る。
「桃太郎、体力を消耗するぞ」
「しかし、やらなければここから出られないぞ」桃太郎が言い返す。
「いいや、大丈夫だ。私が持っているツールを使えばね」
「そうそう、あなたがどうやってここに来たのか、ずっと疑問だったのよ」、ユリカが不思議そうにサイモンの顔を覗く。
サイモンは、胸ポケットから小さな機械を取り出す。
「その答えはこれさ。超小型転送装置だ」
彼は、手帳ほどの大きさの機械を皆に見せながら言った。
「なに、そんなに小さなもので転送出来るのか?」マイソンが、驚きの表情を見せた。
「ええ、随分苦労しましたよ。まだ開発されたばかりだから、ゾーン閣下も知らない。だから閣下を出し抜く事が出来たんだ」
「そうか、君は天才だな!」と、マイソン。
「ただし、一キロ以内でしか転送出来ませんからね。さてマイソン博士、何処に行きたいですか?」
「勿論、通信設備エリアまでだ」
「お安いご用です。さあ、私の周りに集まって下さい」
三人は、その言葉に従った。
「さあ、行きますよ!」
サイモンは、機械に備わっているキーを押していく。
すると、頭上にバチバチという放電の音がし始め、その放電の帯が五芒星を形作った。
「色々の形を試したが、五芒星の形が最もエネルギー効率が良いようです」
サイモンが、そう言い終わるとその五芒星が回転を始めた。
やがて、その回転が早まるに従ってキーンという不快音が鳴り響く。
その直後、四人の姿がかき消えた。




