表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/67

特殊実験室にて

特殊実験室にて

 実験室に閉じ込められた捕虜たちがざわめき始めた。

「何だ、ゴーっという音がするが?」

皆は不安のなかで、その音の正体を探した。

 ある人が何かに気がついて叫んだ。

「大変、この部屋の空気が抜けているんだわ」、その顔は恐怖でひきつっていた。

「俺達を窒息死させるつもりか!」

「くそ、彦一、ここから出すんだ」

 人々はパニックに陥った。

 壁を叩く者、涙を流す者、祈る者---。

 そして、彦一に向かって罵る者。

 彦一も、更に動揺していた。『ゾーンは、皆を殺す事はないと言っていた筈なんだが。それにゾーンのいる指令室からしかここから出す事は出来ない』

彦一は、自分の罪深さに耐えられそうになかった。

 皆の苦しむ姿を見るだけしかできない。

 それこそ地獄の苦しみだ。

 目をつむっても、皆の苦しむ顔が浮かんでくる。

 気が狂いそうであった。

 そこへしわがれた男の声が聞こえて来た。

「彦一、聞こえるか」

 嘆き悲しむ彦一には、空耳のように聞こえた。

 だが、再び声が聞こえる。

「彦一、目を開けてこっちを見るんだ」

漸く目を開けてみる。

 目の前に、白い顎髭をはやし、杖を持った老人の姿がうっすらと現れてきた。

彦一は、頭がおかしくなったかと思い目をこすってみる。

 やがて老人の姿がはっきりと現れ、優しく笑った。

「彦一、皆を助けたいか?」

 彦一は、自分が狂ってしまったかと思ったが、恐る恐る問うてみた。

「あなたは誰ですか?」

「ワシは、天海という僧侶じゃ。お前に幻視を見せておる」

「それで、なぜ私の前に現れたのですか?」

「お前の嘆きが弥勒様に届き、ワシに救ってやれと申されたのじゃ」

「弥勒様が----」、彦一にはどうしても現実とは思えなかった。

「お前は皆を救いたいか?」

「ああ、勿論そうだ」

「お前の命が危うくなっても救いたいか」

彦一は、ごくりと唾を飲んでから言った。

「ああ、命を掛けてでも救いたい」

「お前の愛する妻や、娘に会えなくなるかもしれんぞ」

 彦一は、うーんと唸った。そして、妻や娘の姿を思った。昔、家族で楽しく過ごしていたころの映像が頭をよぎった。

 それでも彦一は決意して言った。

「天海様、それでも皆を救いたい」

「その言葉に嘘いつわりは無いな」

 彦一は、それでも躊躇なく「はい」と答えた。

「それで良いのじゃな。ならばワシの言う通りにするんじゃ。まず、実験室にいる人達に、なるべく隅に寄るように言ってくれ」

 彦一は、実験室内にいる人達に顔を向けた。

 既にかなり空気が薄くなっているようで、苦しそうにしている。

「みんな、助けるからな。とにかく隅に寄ってくれ。もう少し頑張ってくれ」彦一は必死にお願いした。

「よし、それで良い。いいか、ワシの気をお前に送る。その気の力で実験室の壁を吹き飛ばす。ただし、お前の体はその強力なエネルギーに耐えられないかもしれない。死ぬかもしれないと言う事だ」

「その覚悟は出来ている。時間が無い。早くやろう」、彦一の決意は揺るがなかった。

「ならば、右手を水平になるまで上げて、手のひらを破壊する壁に向けるんだ」

 彦一は、言われた通りに動いた。部屋の中で苦しむ人達の姿が映る。

「それで良い。ならば気を送るぞ。体が熱くなるが、我慢するんだぞ」

 次第に彦一の体が熱くなり、汗が身体中から噴き出してくる。気が遠くなりそうになるのを必死で耐えた。

 やがて、身体中に溜まった気が、右腕に集中してくる。

「さあ彦一、もうひと踏ん張りだ。行くぞ」

 その瞬間、彦一の手のひらから、強烈な気が放出された。

 凄まじい勢いで壁が破壊されていく。

 捕虜たちは、息を吹き替えした。

 そして、歓喜の声が沸き上がる。

 だが、彦一は人々の歓喜の声を意識が薄くなる中で聞いていたが、ついに倒れてしまった。

 人々は、その彦一に向かって駆け寄った。

「彦一、大丈夫か」

「死ぬんじゃないぞ」

 命をかけた彦一に対して、既に恨みを持つものは居なかった。ただ、彦一が死なない事を祈った。

 そこへ、レイリーに連れられて彦一の妻と娘がやって来た。

 二人は、倒れている彦一を見つけた。

「あなた、大丈夫なの」

「お父さん、目を開けて」

周囲に妻と娘の悲痛な声が響いた。

「ああ大変、呼吸をしていないわ。誰か人工呼吸を出来る人はいない!」

 すると、回りで見ている人の中から一人の男が出てきた。

「私は医者だ。任してくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ