ゾーン乱心
「ゾーン閣下、サイモンが裏切りましたぞ。彦一の妻子を連れて特殊実験室へ向かっています」側近のマイヤーが言った。
「何だと、子供の頃からあれほど可愛がってやったのに」何事にも動じないゾーンの声が震えた。
「どうしてくれよう。あいつの思い通りにはさせぬぞ」
ゾーンは指令室の中をあれこれ考えながら行ったり来たりした。
「そうだ、捕虜を皆殺しにしてやろう。捕虜思いのサイモンにはきついだろう」
「閣下、それはだめです。彼らは我々の労働力だ。もう少し冷静になってください」
「労働力だと、そんなものは地上にはたくさんある。いくらでも補充は出来るぞ。まず手始めに特殊実験室の空気を抜いてやる」
ゾーンがまさに、そのスイッチを押そうとした時、突然サイモンの声が響いてきた。
「閣下、止めて下さい!」
「お前、いつの間にここに来たんだ」
驚きの表情でサイモンを見つめた。
「私には、秘密の通路があるんですよ」
サイモンは、爽やかに笑って答えた。
「秘密の通路だと? まあいい、そんなことよりなぜワシを裏切るのだ」
「閣下、私は裏切ってはいません。少なくとも理想世界を求めて出発した時の理念に忠実なつもりです。変わったのはあなただ」
「何を言うか、ワシに説教をするつもりか? 生意気な奴だ」
「閣下、とにかく人を殺すのはやめましょう」
「まだ口出しをするか、誰かこいつを監禁して、頭を冷やさせるんだ」
するとすぐに兵士が二人やって来て、サイモンを捕捉した。
「閣下、桃太郎たちは何処へやったんです」サイモンは、連れて行かれそうになるのを踏ん張って最後の質問をした。
「そんなことを聞いてどうする。桃太郎は地下牢に閉じ込めた。もう出て来れんよ。そこに行く通路を爆破したからな。生きながら埋葬してやった」
それを聞くとサイモンは、うっすらと笑った。
そして、ゾーンはサイモンが出ていくのを確認すると、特殊実験室から空気を抜くためのスイッチを入れた。