通信設備エリアでの攻防
桃太郎は先頭を切って走って行った。だが、その通路を遮るように頑丈な防火戸が下りていた。侵入者を閉じ込めるために誰かが作動させたのだろう。
しかし、桃太郎には通用しなかった。ユリカから与えられた剣によって防火戸を次々に破壊していった。そして、いよいよ次の防火戸を突破すれば、通信設備エリアという所まで来ていた。ここまで来るとさすがに桃太郎も、汗が噴出し、息も少し上がっていた。
そんな桃太郎を気遣いながらユリカが「さあ、この防火戸が最後よ。何があるか分からないから充分気をつけるのよ」
「そうだな、ユリカ、あともう一息だな」、そう言いながら剣を振りかざし防火戸を破った。
その瞬間である。防火戸の向こうから、レーザー銃が発射された。
桃太郎はかろうじてそれを避けたが、その光線は、頬をかすめていった。
更に、それに続いて、もう一匹の鳥型ロボットファルコンが襲いかかってきた。
ファルコンは何度も何度も体当たり攻撃を仕掛けてきた。同時にネビロン人によるレーザーの攻撃もあり、桃太郎は避けるのが精一杯であった。
これを見ていた猿たちが立ち上がった。サスケの号令を合図に彼らはレーザー光線の合い間を縫いながらネビロン人たちに襲い掛かっていったのである。
それに続いて犬のムサシたちも、猛然と走り出しネビロン人たちを撹乱していった。
「お父さん、今よ。通信装置まで走りましょう。飛雄二号もいっしょに来て!」とユリカが叫んだ。
「そうだな、今がチャンスだな」、マイソンも意を決したようだ。
ユリカとその父マイソンは決死の覚悟で、通信装置を目指した。そして、その前に立ちはだかるネビロン人たちを飛雄が跳ね飛ばしていった。
桃太郎はファルコンと戦いながらも、ユリカとマイソンの行動を見ていた。
ファルコンは執拗に体当たり攻撃を繰り返したが、最後に一瞬空中に静止し目からレーザー光線を発射した。桃太郎はそれを剣で受け止め、うまくファルコンの方へ反射させた。その反射光はファルコンをかすめた。その為ファルコンが少し戸惑う素振りを見せたのを桃太郎は見逃さなかった。
桃太郎はその一瞬の隙をついて、ジャンプし空中から剣をファルコンに向かって振り下ろした。ファルコンは翼をもぎ取られると同時に床に叩き落された。
そのファルコンを見ながら桃太郎は肩で息をしつつ、その場に立っていた。そして、レーザー光線が飛び交う中、次の目標を定めていた。だが、桃太郎の足元で瀕死のファルコンが最後の力を振り絞り再び頭を持ち上げ、目からレーザー光線を発射したことには気付かなかった。
不意を突かれた桃太郎は避けきれず、バーンという音と共にその場に倒れこんだ。桃太郎は一瞬、自分がやれれたと思っていたが、自分の胸に血に染まった犬のムサシが横たわっていることに気がついた。
「おいムサシ、俺の身代わりになったのか。おいムサシ、返事をしてくれ、起きるんだ」
ムサシは閉じていた目を漸く開け、「桃太郎、あなたこそ大丈夫ですか。あなたのお陰で俺は良い夢を見ることが出来た」
「そうかムサシ。それは良かった」桃太郎はムサシを擦りながら、涙をこらえながら言った。
「これで思い残すことは無い。天国にいるお爺さんのところへ行くよ」、そう言いながら再び目を閉じ動かなくなった。
「ムサシ、まだ早いぞ、死ぬんじゃない。ムサシ起きるんだ、ムサシ」。桃太郎は何度も何度もムサシを揺り動かした。だが、ムサシは二度と再び目を開けることは無かった。桃太郎は激しく涙を流したが、ここは戦場である。そんな感傷に浸っている時間は無かった。
桃太郎は涙を拭いつつ、「ムサシ、お前の生き様は立派だった。俺も見習うよ」と言って再びすくっと立ち上がった。
一方、ユリカとマイソンは通信装置を使って、ペルシカ星に向けて平和維持軍の派遣を要請しようとしていた。
しかし、それを阻止しようとして、多くのネビロン人たちが襲い掛かってきていた。
それに対して、飛雄二号が応戦し、ユリカは電磁バリアを張りながら、父のマイソンを守っていた。
「桃太郎さん、もう限界よ、何処にいるの」と、ユリカは必死に叫んでいた。
今にも強力なネビロン人のレーザーによって、電磁バリアは破れそうになっていた。
そこへ何処からとも無く、手裏剣が乱れ飛んだ。レーザー銃を持つネビロン人たちが次々に倒れていった。
そして、いつの間にかユリカの隣に桃太郎が立っていた。
「もう大丈夫だ」と桃太郎がいうと、「何言ってるの、遅すぎるわよ」とユリカは言ったが、本当のところはありがたく感謝していた。
「いやいや、いつもながら手厳しいな」
「それより、お父さん、まだだの」
マイソンは、大急ぎで操作盤のキーボードを打ち続けている。
「もう少しだ・・・・」
とマイソンが言った時、ゾーンの声が響いてきた。
「そこまでだ。それ以上やれば捕虜の命はないぞ!」
目の前にゾーンの3D映像が現れた。
マイソンの指が止まり、ゾーンを睨み付ける。
「ばかな! 捕虜はとっくに安全な場所へ行っているはずだ」
真剣な表情のマイソンをあざ笑うかのように、ゾーンの口が動いた。
「さあ、これを見るんだ」憎らしいほど、落ち着いた声である。
すると、ゾーンの横に別の映像が現れた。
そこには、部屋に閉じ込められた捕虜の姿があった。そして、その顔はどれも不安と怖れ、怒りに満ちていた。もちろんそこにはユリカの母もいる。
「はっはっは、どうかねマイソン。ここは特殊実験室でね、私がこのボタンを押せば、部屋の空気は消える。窒息死するという事だ」
「ゾーン、お前はなんという奴だ」
「ふん、私も極力そんなことはしたくはないんだ。君たちが私の指示に従ってくれさえしたらそれで良いんだよ」
「分かった。俺たちの負けだよ」、マイソンは歯ぎしりして悔しがった。
「ところで桃太郎、お前はまだ人間を信頼しているのかな?」、ゾーンが聞いてきた。
「もちろんそうさ!」、桃太郎は自信をもって答えた。
「そうか、だが捕虜が特殊実験室に入れられたのには分けがある。人間の中に裏切者がいるからだ」
「裏切者ものだって」、桃太郎はゾーンを睨む。
「はっはっは、人間なんてそんなものさ」
「ゾーン、それでも俺は人間を信じるよ」
「おやおや、それは立派だな」
桃太郎は、血が出るほど唇を噛みしめた。
「さあ兵士諸君、彼らを連行するんだ」