ユリカ、両親との再開
ユリカたちは捕虜収容所内にある広大な農場に案内されていた。実に見事な農園風景に圧倒された。そして、地下とは思えないほど明るい光にあふれ、爽やかな風が吹いていた。
そこは地上の狂気に溢れた人間の生活とはまるで違い、のどかで平和な時間が流れていた。
そんな場所へユリカたちが入っていくと、その姿を見つけたペルシカ人や地球人たちが集まってきた。
すると、ムサシが連れてきた数匹の犬が、喜びの声をあげ、尻尾を振りながら走って行く。
彼らはこの捕虜の中にかつての自分の主人を見つけたようである。
彼らは、お互いに抱き合い涙の再開を果たした。
「おー、生きていたか?」
「お前、少し痩せたんじゃないか?」
「苦労をかけたな!」
しかし、主人を見つけられないで、うろうろする犬もいた。
また、その他の捕虜にされていた地球人たちも、ユリカたちを見て、満面の笑みを浮かべた。
「俺たちは助かるぞ」
「久しぶりに家族と会えるぞ」
「そうだ、そうだ、子供たちも大きくなっただろうなあ」
「しかし、ディアボロスっていう装置が働いていて地上は大混乱しているようだぞ」
「ああそうだ。大丈夫だろうか?。俺の家族はどうなっているんだろうか?」
ユリカは不安そうにしている地球人に向かって、「大丈夫よ、ディアボロスは、桃太郎によって破壊されているはずだわ。私たちによって地球を再建するのよ。さあ元気を出して」
そんな話をしていると、「ユリカ」と大きな声で叫ぶ男がいた。ユリカは懐かしいその声に気付き、「ああ、お父さん、お母さん」と言いながら、人を掻き分け抱きついた。
「おおユリカ、よくここまで来れたな」、父のマイソンが言った。ユリカはここに来るまでの苦労から解き放たれ、涙がいっぱい溢れた。
「お父さん、お母さん、会いたかったわ」と言うのが精一杯で、後は言葉にならなかった。
「ああユリカ、苦労したんだろうねえ」、母のローザが優しく言葉をかけた。
しかし、いつまでも、こうしてばかりはいられない。ここはネビロン人の基地なのだから。
「ところで桃太郎さんのお父さんやお母さんはここにいるの?」
「いや、残念ながらここにはいない。桃太郎の父と母という事が分かると、どこか別の場所へ連れて行かれた。桃太郎の事について、色々と調べておきたかったのだろう」
「ええ、ここにいないなんて!桃太郎さん、本当にガッカリするわ」
「何処にいるかは全く分からない。極秘事項だからな」
ユリカは少し悲しそうな顔をしたが、気を取り直して、「そうなんだ、とにかくここから捕虜になった方々を脱出させましょう」と言った。
「私が彼らを安全な場所まで導きましょう」、捕虜収容所のスタッフであるネビロン人が言った。
「私はユリカとともに行動するよ。母さんは、皆と一緒に行ってくれ」とマイソンが言った。
「そうね、私がいても足手まといになるだけだからね。でも気を付けるのよ」と母のローザが言った。ユリカは「お父さんだって、皆と一緒に行ったら。お母さんだって心細いでしょ」
「はっはっは、私を気遣ってくれるのか。心配には及ばんよ。お前の方こそ大丈夫か?」
「まあ、元気ね、お父さん。とにかくここからでなくっちゃね。さっきの収容所の出入り口まで行きましょう」、そう言ってから皆を引き連れて先ほどの出入り口まで急いだ。
ところが、出入り口にあるドアの小窓から外を見ると、何人かのネビロン人がレーザー銃を構えて出て来るのを待っていたのである。
「まあ、困ったわね、今出たらやられるわ」
「俺たちが出て、撹乱しようか」と犬のムサシが言った。
「いや、これ以上は犠牲を出したくないわ。何か手があるはずよ」、ユリカが暫く考えていると、窓の外を見ていたマイソンが、
「何者かが走ってくるぞ」そう言っている内に、レーザー銃を構えていたネビロン人達が次々と倒されていった。
急いでユリカが窓の外を見ると「あ、桃太郎だ。やっと来てくれたんだ。さあ、ドアを開いて!」
そこへ桃太郎が飛び込んできた。
「おおユリカ、無事だったか。それに捕虜にされた人達も皆来ているのか」と言って、そこにいる人達を眺めた。そして、その中に桃太郎の両親がいるかどうかを探しているようだった。
ユリカは少し気の毒そうな顔をしながら言った。
「桃太郎さん、残念ながらここにはあなたのご両親はいないそうよ。何処か違う場所に連れて行かれたみたいなの」
「そうか、でも生きているのは確かだろう。絶対に見つけ出してやる」と、まだ見ぬ両親のことを思って決意を新たにした。
「そうよ、ご両親は必ず生きてるよ。必ず救い出しましょうね」
「もちろんだ」、そう言いながら、桃太郎は周囲を見渡した。すると、そこに大きな熊が倒れていた。桃太郎の顔が急に険しくなった。
ユリカもまた悲しい顔をしながら「あれはダイモンよ。ダイモンがやられてしまったわ」
「どうしてダイモンが!」
「私を命がけで守ってくれたのよ」
桃太郎は、愕然としながらもダイモンの遺骸に近付いて行く。
「そうだったのか。それにしても、お前が死んでしまうなんて・・・。しかし、お前の死を絶対に無駄にはしないからな。お前は立派だった、ありがとう」。そう言いながら、ダイモンの前にひざまずき、男泣きに泣いた。そうしてダイモンとの楽しい思い出が走馬灯のように頭をよぎった。
しかし、桃太郎にはここでメソメソしている時間は無かった。頭を切り替えなければならない。そう思って、再び立ち上がった。
「桃太郎さん、元気を出して」
「おお、分かっている」、もう桃太郎は普段の姿に戻っていた。
「ところで、ディアボロスはどうなったの」
「もちろん破壊した。もう外に出ても大丈夫だ」、それを聞いて、捕虜にされていた地球人たちは歓声を上げた。
「やったぞ、俺たちは外に出られるぞ」
「ああ、良かった良かった」と口々に言って喜んだ。
「あなた方は大丈夫ですよ。ディアボロスがあっても、あなた方は以前の人間じゃない。良心レベルは高くなっているから惑わされる事はないでしょう」とマイソンが言った。
それを聞いていた桃太郎は、人間の良心を信じようという気持ちが正しかったと確信した。
「これで、地球も生まれ変われるぞ」
桃太郎は、心からそう思った。
「それでは皆さんをこの鬼ヶ島から脱出させなければなりません。この島の北側に氷の橋があるわ。そこまで行ければ良いんですが!誰かそこまで安全に行ける通路を知っていますか?」
ユリカは、皆の顔を見回した。
「俺が知っている」と、真っ先に手をあげた者がいた。
「おー、彦一さんだ。そうかあんたなら分かるだろう」
「そうだ、そうだ、あんたは、研究員のサイモンに基地内を詳しく案内してもらったんだろう」
捕虜にされた人達も、彦一の事は良く知っていた。
ユリカは皆の様子を見て安心した。
「それでは、彦一さん宜しくお願いします」
また、捕虜収容所のスタッフたちは「私たちは、あなた方が安全に行けるように追っ手を阻止します。その後で追い付きますから」と言った。
「それじゃあ、あなた方が危険だ」
「いやいや、せめてもの罪滅ぼしですよ。我々が来た事であなた方にどれだけ迷惑をかけてしまったか----」
彼等の意志は固かった。
「そうですか、それでは頼みます。くれぐれも気を付けて下さいね」
ユリカが、そう言うと彼らは晴れ晴れとした顔で頷いた。
更に、彦一が皆を引き連れて出て行くのを見届けた。
桃太郎は一連の行動を感動しながら見ていたが、すぐに現実に戻り「それでは俺たちは通信設備を確保しよう。通信装置の操作方法は分かりますか。マイソン博士」と言った。
「ああ、分かるとも」