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母との再会?

 そのドアは電子錠で施錠されている。この場所に入れるのは、ネビロン人の中でも限られた者しか入れない。それ故に、セキュリティはことさら強力に出来ている。

 しかし、桃太郎はひるまなかった。腰に挿してある、ユリカから貰った剣を抜いた。それを大上段に構え、ドアに向かって一気に振り下ろした。目にも留まらぬ速さで、二度三度繰り返すと、ドアは脆くも破壊されてしまった。

 ドア越しに見ると、部屋の中央付近に巨大なマシーンが鎮座していた。高さも三階建てのビルに匹敵する。

『このマシーンが人間を苦しめ、滅亡の淵にまで追い込んだものなのか?』、そう思いつつ部屋の中に飛び込んだ。

 その瞬間、周囲からレーザー光線の集中攻撃を受けてしまった。激しい光の渦の中、さすがの桃太郎も万事窮すかと思われたが、次の瞬間、逆にレーザー光線を放った兵士たちが次々に倒れていった。

 桃太郎は、レーザー光線が照射された時、咄嗟にハイジャンプをし、空中から得意の手裏剣を放ったのだ。もはや桃太郎を止めるすべは無かった。

 ついにディアボロスを破壊するときが来た。剣を構え、そろそろとマシーンに近づいていった。

 すると後ろから、「待ちなさい、桃太郎」という女性の声が響いた。桃太郎は自分の耳を疑った。その声は、桃太郎には聞き覚えのあるものだった。

 そう、それは桃太郎が首に掛けている宝石のような装置に記録されていた母の声である。

 いつも時間があるときに何度も繰り返し、その録画映像を見ていたのだ。だからその声を忘れるはずも無かった。

 桃太郎はドキドキしながら振り向いた。目と目が合ったとき感激して何も声を出すことが出来なかった。その女性は言った。

 「ああ桃太郎、お前があの時の赤ちゃんなのかい?」

「そうですよ、母さん」

「おお、何と立派になって。苦労したんだろうね」

「お母さんこそ、ネビロン人に捕らえられて苦労したんでしょう」

「いいえ、そんな事は無かったわ。むしろネビロン人には色々とお世話になったのよ。本当は、あなたも一緒に来れればと思って後悔してたのよ」

「・・・・」桃太郎は少し困惑した顔になった。

「まあまあ、そんな顔をしないで。ネビロン人は、あなたが思っているほど怖い存在じゃないのよ」

「それでは、地球人はどうなるんですか?」

「そうね、私たちも必死で地球人の良いところを探してみたのよ。確かに彼らには良心があるわ。でも、お金や権力に目がくらむと、その欲望を抑えきれず、自己中心的になって、ひどい事をやりだすわ。どんなに良心的と思われている人でも豹変してしまうのよ」

 桃太郎は母の言葉に戸惑った。それに、やっと会えた母に反対するのも気が引けたが、やはり桃太郎は人間が大好きだった。

「確かに母さん、人間には極悪非道の血も涙も無いような人もいます。私もそんな人間に痛い目に合いました。こんな人間は許せないとも思いました」

「まあ、かわいそうに! だったら桃太郎---」

「待って下さい。話はまだあります。その極悪非道の人間と思っていた人間が、自分の命が危ないにも関わらず人を救う所を見たんです。だから私は人間を信じようと思うんです」

「桃太郎は良い子だねえ。でも人間をそんなに簡単に信じたらいけないよ。後で絶対に困る事になるからね」

「でも、裏切られても、裏切られても、何度でもその人を信じてあげようという人もいるんだ。たとえ、自分が損をしてもね。だから、私も人間の良心を信じようと思うんです」

「あなたの考えは立派だわ。でもそんな人間を気長に待っていたら手遅れになってしまうわよ。人間の欲望によって、この美しい地球が今、悲鳴を上げているのよ。それに同じ人間でありながら、戦争やテロ、紛争が世界のどこかでいつも発生している。なんて愚かな人間なんでしょう。結局、ディアボロスは、人間の歴史を少しだけ早めただけの事よ。そんな装置が無くても、やがて人間は自滅するはずだわ」

「そうじゃあない。邪心故に滅びるんならば、もうとっくに滅んでいるはず。良心が歯止めになって、今まで切り抜けてきた。だから、そう簡単には滅びないさ。だから人間の良心を信じてあげてください。人間の本心の叫びに耳を傾けてください。ペルシカ人だって、それに協力してあげたら良い。良心と邪心の間で苦しむ人間を解放して上げてください」

 母は桃太郎に慈しむような目を向けた。

「ああ、何て優しい子なの」そう言いながら、母は桃太郎を抱きしめた。しかしその母の手は、桃太郎の腰にある剣を奪おうとしていた。その行動に気付いた桃太郎は

「母さん、何をするんですか」と言いつつ母を突き放した。

「桃太郎、そんな危ないものは捨ててしまいなさい」

「母さん、あなたは私の本当の母ではありませんね」そう言いながら周囲に目をやるとネビロン人の兵士に囲まれていることに気付いた。

「何を言うの。あなたは私を疑うの?」、母はするどい目付きで桃太郎を睨み付けた。

「あなたはネビロン人ですね。姿、形そして声は似せることが出来ても、肌の感触までは変えられなかったようですね」

そのように言われると母は豹変した。

「そう、肌の感触ね。苦労して変身したのに残念だわ。あなたの言うとおり、私はネビロン人。でももう観念した方がいいわよ。さあ、桃太郎を捕らえなさい」。その声と同時に周囲にいた兵士たちが一斉に襲い掛かった。

 多数の兵士と、桃太郎との格闘が始まったが、暫くすると「桃太郎を捕らえました」と一人の兵士が叫んだ。見ると大男が後ろ手に手錠を掛けられて床にうつ伏せにさせられていた。だが、その姿を見て直ぐに異常に気がついた。

「こいつは桃太郎じゃない」

「い、いつの間に入れ替わったんだ」

 兵士たちがうろたえながら周囲を見回していると、上のほうから声がした。

「はっはっは、俺はこっちだよ」、桃太郎は巨大なマシーンの上に立っていた。

 兵士たちは桃太郎を確認すると、再びレーザー銃を撃ってきた。

 桃太郎はそれをかわしながら、手裏剣を放ち、一人ひとり確実に仕留めていった。

 だが、一人だけその手裏剣をかわしながら、レーザー銃を巧みに撃ち返してくる者がいる。やがて、その男が周囲にいる兵士たちに向かって「レーザー銃を収めるんだ」と大声で言った。その男は特殊部隊隊長のカーマンであった。

「桃太郎、久しぶりだな。私もネビロン人最強の武道家と言われた男だ。飛び道具無しで、俺と勝負してみないか」、そう言いながらレーザー銃を床に置いた。

「おお、カーマンか。一対一でやるんだな。それも面白いだろう」。桃太郎は旧友にでも会ったような気分でカーマンの近くまで歩いていった。

 カーマンもまたニコニコしながら「よし、やるか」と言い、腰を低くして構えた。

周囲にいた兵士たちは、桃太郎とカーマンの死闘を固唾を呑んで見守ることになった。


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