ユリカの研究室にて
桃太郎はネビロン人の追跡を辛くも逃れ、ユリカの研究室まで来ていた。
「危ないところだった。ネビロン人もここまでは追って来ないだろう。それに俺はサメにやられてしまったと思われているようだ」
「まあ、かえってその方が良かったんじゃあないの」とユリカはにこにこして答えた。
「そうかもしれない。しかし何で飛雄は助けに来なかったんだ。お陰でひどい目に合ったんだ」
「そう怒らないで!美味しいコーヒー入れてあげるから」、ユリカは普段ロボットばかりと接しているので、久しぶりの人間との会話が楽しくて仕様がないようだ。
「さあ、どうぞ。美味しいクッキーもどうぞ。私が焼いたんだからね」
「へえ、中々美味しそうだな」、桃太郎もまたユリカの楽しそうな雰囲気に呑まれ、にこにこしながらほおばった。
「こんな平凡な日常ってのが本当は良いのよね」
「そうそう、お金も権力も関係ない。ちょっとした心の触れ合いってのが良いんだよなあ」
「そうでしょう」と言いながら、ユリカもクッキーを一つほおばった。
「ところで、飛雄はどうしたんだ?」
ユリカは、どう話そうか、やや困惑している表情をした。
「まあ、やっぱりその話に戻るのね。飛雄は、お爺さんとお婆さんをここに運ぶ手はずだったでしょ」
「そうだ、それで?」
「お婆さんが飛雄に乗るのを怖がったのよ」
「ああそうか。それで時間がかかったって分けか。そういう事なら納得だ。俺の方からお礼を言わなきゃな。ところで飛雄二号はどうしていたんだ」
「ファルコンよ! あのファルコンが襲い掛かってきたの」
「ああ、またファルコンか! あいつには要注意だな」
「そうね、でも良かった。何て言おうか悩んでいたのよ」、ユリカの顔に安堵感が広がった。
「そんなに俺は分からず屋じゃないぞ。ところで二人は何処にいるんだ」
「あんな怖い目に合ったばかりでしょ。だから今、別の部屋で休んでいるわ」
「おお、ありがたい。色々と面倒掛けて済まないな」
「少しは私のありがたみが分かったかしら」
「おいおい、調子に乗るんじゃないぞ」
二人は顔を見合わせて大いに笑った。こうして、ひと時の平和な時間を満喫していた。
「ところで」と桃太郎は真顔で言った。
「全体の状況はどうなっているんだ」
「そうね、益々状況は悪くなってきているわ」
「・・・・」桃太郎は腕組みをした。
「ディアボロスは益々強力になっているわ。今までは、その影響は地球の半分程度だったわ。でも今では地球をほぼ覆うくらいまで拡大しているの。このままでは世界大戦まで勃発してもおかしくない状況よ。人類が今まで封印してきた核戦争が始まったら最後だわ」
「そうか、そこまでいっているのか。手遅れにならないうちに手を打たなければな。それで、鬼ヶ島の様子はどこまで分かったんだ?」
「大分分かってきているわ」
そういいながらユリカは立ちあがり壁のスイッチを押した。すると部屋のほぼ中央に鬼ヶ島の立体映像が現れた。
その映像を見ながらユリカは説明を始めた。
「まずはメインの出入り口だけど、これは滝を利用してるのよ。この滝は、人工的に作られたもので、人や車両が出入りするときは、水の流れが真ん中で分かれるような仕掛けになっているわ。そして、そこには常時十五人の兵士が監視しているのよ」
「なるほど、他に侵入出来そうなところは無いのか?」
「無いことはないわ。島の数箇所に空気孔があるの。それは自然に出来た洞穴を利用しているのよ。そして、そこに普通の人間が入っても、そこが空気孔とは絶対に気がつかない工夫をしているのよ。空気孔は、洞穴を数メートル入ったところの壁に特殊素材で出来た部分があるの。目で見ても、触っても分からないわ。でも、それは特殊フィルターになっていて、きれいな空気だけは通るようになっているの。その場所は飛雄の目で見なければ分からないわ。それか、ローソクのようなものがあれば、その炎の揺らぎで分かるかもしれないわね。しかも、この特殊素材はとても強く出来ていて、ツルハシを使っても傷をつける事も出来ないくらいよ。でも飛雄の目からは強力なレーザー光線を発射できるので、焼き切る事は可能だわ。ただし、そのフィルターを破ったら、防犯ベルが鳴り響く事は覚悟してね」
「うむ、そうか。防犯ベルか。ところであらかじめ防犯ベルを破壊することは出来ないだろうか」
「飛雄なら出来ると思うわ。体を変形させれば、どんな所にも侵入できるから。それに赤外線も感知出来るから、セキュリティに引っ掛かることも無いわ」
「そうか、それは頼もしい。他に進入できそうな所はないか」
「そうね、その他には、小型潜水艇の出入り口ね。でもそこは兵士が大勢いるから、かなり厳しいと思うわ。でも、そこから入ると、ディアボロスまでは近いわよ」
「そうか、ディアボロスを破壊するなら、そこが良いという分けか」
「そうよ、それで潜水艇は十艘あるわ。出入り口は水面下十メートル程のところにあって、それぞれに一つずつの格納庫があるの。潜水艇が近づいて行くとドアが開き、そこに入り終わると、海水が排出される仕組みになっているの」
「なるほど、ユリカ、酸素ボンベはあるか?」
「酸素ボンベは無いけれど、それよりあそこのケースを見て」
そこには、ユリカの父が発明した色々なツールが入っていた。そこに特殊な形のマスクがあった。
「えーと、この奇妙な形をしたマスクのことか?」
「良く分かったわね。それを装着していれば、二時間ぐらいは海に潜っていられるわ」
「おー、すごいもんだな」と言って目を輝かせた。
「その隣にある小型の剣は、役に立つはずよ。それを持ってみて」
「なんだって、三十センチ程しかないが、ちょっと抜いてみても良いか?」
桃太郎が、その剣を鞘から抜くと、途端に剣の長さが一メートル二十センチ程に伸びたのである。
「なんだ、これは」
「それは特殊合金で出来ているの。飛雄が形を変形させるのと同じ仕組みよ。その剣ならたいていのものは切れるわ。私は使いきれないけど、あなたの豪腕なら大丈夫よ。それに普段は小さいから、邪魔にはならないわ」
桃太郎はその剣を何回も振り、その感触を確かめた。
「どう、桃太郎さん。随分嬉しそうな顔をしているけど」
「ああ、これならやれそうな感じがする」
「それと注意しなければならないのは、彼らの銃ね。電子銃と、レーザー銃があるんだけれど、電子銃は気絶させるだけなの。問題はレーザー銃よ?。レーザーは殺傷能力があるから十分注意しないといけないわ」
「そうだな、皆に伝えておこう」
桃太郎は剣を見つめながら、深刻な表情で答えた。
そんな話をしていると、突然ドアが開いた。
「桃太郎!」、そう言って入ってきたのは、お爺さんとお婆さんであった。
「ああ、体のほうは大丈夫ですか」
「お前こそ大丈夫かい。いったいどうなるかと本当に心配してたんだよ」
「ええ、私は大丈夫ですよ。今は地球が危ない時だから、誰かが何とかしなくてはならない時です」
「それはそうだけれど、お前に出来るのかい」、お婆さんが心配そうに桃太郎を見つめる。
「私だけではないですよ。たくさんの仲間と一緒にやります。本当に心配ばかり掛けて申し訳ありません」
「お前は言い出したら、途中でやめるような子では無いですからね。でも必ず生きて戻ってくるんだよ」
「はい、それは必ず守りますよ」と桃太郎はにっこりと笑って答えた。