気功法開眼
ある日桃太郎は、いつものお気に入りの木に登り、木の上で横になっていた。横になったまま丹田呼吸をした。
目を瞑り、長く息を吸い、そして長く息を吐いた。その呼吸法を繰り返した。
その状態で、そよ風を体に感じ、また、そよ風に揺れる木の葉を感じ、太陽の光と暖かさを感じながら自然界から気をもらっていた。
やがて、自然と同化し、一体化した。
そこへ飛雄二号が飛来した。いつもなら桃太郎の気配を感じ直ぐに近くに寄ってくるのだが、この日は皆目見当がつかなかった。
森の中をあちこち飛び回って探してみたが、どこにも見当たらないのだ。
飛雄にとってみれば、桃太郎が世の中から忽然と消えてしまったように思われた。
一方、樹上に横たわっていた桃太郎は自然界の気を十分に溜め込み、目をカッと見開いた。
そして木から飛び降り、身構えた。桃太郎の数メートル先にはレンガが山積みされている。
桃太郎は右手を水平に真っ直ぐに伸ばし、手のひらをレンガの方向に向け、気を右手のひらに集中させた。
そして、気合を入れた瞬間、山積みされていたレンガは一瞬の内に粉々になった。
すさまじい威力であった。これには桃太郎自身も非常に驚いた。
ついに桃太郎は気功法を会得したようである。
森の中を飛び回っていた飛雄は大きな音がした瞬間に桃太郎の気配を感じ、その方向へ真っ直ぐに飛んでいった。
「桃太郎、大丈夫か、何があったんだ」
桃太郎は呼吸が乱れ、肩で息をしていた。
「おう、飛雄か」
「いったいどういう事だ。あのレンガはどうしたんだ」
「ふ、気功の威力を試していたところさ。予想以上の威力だな」
「なに、桃太郎があのレンガをやったのか?」
「ああ、そのようだな。天海さまの特訓の成果がやっと実ったということさ。ところで何か用事でもあるのか?」
「桃太郎が、あんまりビックリさせるから、用件を言うのを忘れていた」
「しっかりしろ、お前はロボットなんだろ」
「まあまあ、そう言うなよ。実はネビロン人は、荒羅羅手山の電波搭がカモフラージュだということが分かったようだ」
「そうなると、再びその装置の在りかを知るためにユリカを襲うかもしれないな」
「ああそうだ、しかしユリカだけじゃあない。桃太郎も天海さまも、田中さんも危ないぞ。荒羅羅手山ではみんな一緒にいたからな」
「そういう事か。では今まで以上に用心した方が良いな。鬼ヶ島攻略の準備が整うまでは、あまり外出しないに限る」
「そうだ、ただでさえネビロン人はペルシカ人を恐れているからな。桃太郎、お前もペルシカ人だという事が分かれば今まで以上に危ないぞ」
「ああ、そういう事だな。せいぜい注意するさ。それに、田中さんは天海さまと一緒ならまず大丈夫だろう。ユリカの方は頼んだぞ」
「そうだ、どんな事があっても守りきってやるさ」
こうしてネビロン人による妨害もあったが、概ね順調に鬼ヶ島攻撃の準備は整っていった。
しかし、今まで以上にユリカと桃太郎の間を飛雄が頻繁に行き来するため、さしものネビロン人も桃太郎を強く意識するようになった。
ユリカの方は地下百メートルにある研究室からほとんど出ることもなく、しかも厳重な警備体制が敷かれ、飛雄のような能力を持った警備ロボットにより、しっかりと守られていた。
その研究室にいる限り、ネビロン人も中々手出しすることが出来なかったのである。
そこで、ネビロン人は作戦を変更し、桃太郎を捕らえる事によりユリカをおびき出そうとしたのである。
だが、ネビロン人が桃太郎を調査していく内に、人間離れした身体能力を持っている事がわかってきた。
そこで、桃太郎を捕らえるために三十人の精鋭部隊を準備した。