天海の提案
「いらっしゃい。今日は珍しくお客様が二人もいるのね!」例のごとく、研究所に入って行くとデルタが迎えてくれた。
「そうよデルタ、大切なお客様よ。天海様と、田中様よ」
「デルタと申します。ごゆっくりして下さい」
天海は、泰然として聞いていたが、田中は訳が分からず、キョロキョロと辺りを見回した。
「これは電子頭脳のデルタの声です。この研究所の守り神の様なものよ。不審者と認めたら大変よ」、ユリカは田中に向かって悪戯っぽく言った。
「そうなんですか、せいぜい気を付けますよ」
「ふふ、そんなに緊張しないで。田中さんはどうみても善人だから大丈夫よ」
田中はそれを聞いて、照れ笑いをした。
「今日は、全部私がもてなしますからね」
「ハイハイ、楽しんで下さいね」
ユリカは応接間に二人を案内した。暖色系の照明によって照らされた部屋、品のよい観賞植物が二人を出迎えた。
「どうぞ、そのソファーに座ってくつろいでください。飲み物を用意しましょう。コーヒー、紅茶それとも日本茶かしら」
ユリかは、久しぶりのお客との会話が楽しくてしょうがない様子だった。
「はい、天海さまは日本茶、田中さんはコーヒーね。はいどうぞ。それに美味しいカステラがありましたので良かったら食べて下さいね」
「やあ、これはありがたい。天海さまと一緒に旅をしてきたが治安が悪くて、こんなにゆっくりできたのは久しぶりだなあ」
こうしてひとしきり世間話をした後ユリカは、ネビロン人の企み、ディアボロスという装置のこと、ペルシカ人のことなどを詳細に話した。
「まっざっとこんなところね」と言いながら、紅茶を一口すすった。
「しかし、この地域の人は正気を失っていないように見えますが、何か秘密でもあるんですか?」と、田中が不思議そうに訊ねた。
「それはね、ディアボロスの影響を排除する装置を私の父が作ったのよ。だから、ネビロン人はそれを何とか破壊したくて私を付け狙っているのよね」
「じゃあ、まだその場所は知られていないって分けか。それで君はその場所を知っているんだね」
「いいえ、私の父は私にもその場所を教えなかったのよ。何処から秘密が漏れるか心配しての事だと思うわ」
「しかし、それでもネビロン人は君を狙ってるんだ。君がその場所を知っていると思っているんだね」
その時まで、目をつむって聞いていた天海が、喋りだした。
「いずれにしても、ネビロン人は何としてもその場所を見つけ破壊するだろう。そのためには怪しい場所を人海戦術でしらみ潰しにしても探し回るはずだ。見つけられるのは時間の問題だ」
「そうかも知れないわね。と言うことは、こちらもその場所を知らなければその装置を守れなくなってしまう」。ユリカは深刻な顔をして天海の方へ顔を向けた。
「その通り。しかし、実際にはお嬢さんは知っているんじゃあないかね。ただ、お父さんが心配してその部分の記憶を消したんじゃあないかな!」
「その可能性はあるけれど、それでは知らないことと同じだわ」
「いやいや、もしそうならば私の催眠術で思い出させることは可能だ」
「えっ、本当なの。だったら試してみて下さい」