天海の幻術
ユリカを追尾していた球形の物体は大きな岩のある付近で突然静止した。飛雄とユリカの姿が忽然と消えたからである。
暫くすると、今度はその辺りを探索し始めた。
と、その時である。球体が物凄い勢いで地面に叩きつけられそのまま動かなくなってしまったのだ。
物陰に隠れていたネビロン人は、『くそ、追尾していたことをどうやら見破られていたらしい。誰かいるなら気配を感ずるはずなんだが?』と思った。そうして暫く様子を窺っていると、何処からともなく
「おい、お前。なにか探し物か?」という声がした。大きな声である。
だが、訓練を積んだ特殊工作隊員でも何処にいるのか特定出来なかった。
「何を戸惑っている。何処にいるのか見当もつかないようだな。ならば姿を現そう」
すると、ネビロン人から5メートルほど先にぼんやりとした姿が映ってきた。
そして数秒後、漸くはっきりと確認できるまでになった。
「お、お前は何者だ」
「わしは、天海というおいぼれジジイじゃよ」
「ただ者ではないだろう。不思議な術を使うからな」
「お主こそ、なぜ少女を付け狙う」
「お前には関係ないことだ。怪我をする前にここを立ち去るんだ」
「はてさて、少女を狙うお前をほっておくことは出来ん」
「どうしても邪魔するというなら少し眠っていてもらおう」、そう言いながら電子銃を天海に向かって放った。
すると、電子銃が天海を貫く前に、ふっと消えた。
「何処を狙ってるんだ。わしはここだ」と言いながら別の場所に現れた。
焦ったネビロン人は、直ぐにそちらに向けて電子銃を放つが前と同じように消えるのだった。
「はっはっは、それではわしに指一本触れることは出来んぞ。さあどうする?」
しかし、このネビロン人もカーマン隊長の右腕と言われるほどのエリートである。彼は幻覚に惑わされ無いように、目をつむり心を沈めて相手の気配を探した。
そして「見つけた」と言ったと同時に右手方向にある草むらに向けて電子銃を放った。
すると、天海は高くジャンプをして攻撃をかわした。
天海は、天空にとどまったまま、「お主、良く見破ったのう」と言って不敵に笑った。
ネビロン人は、空中にいる天海を見て、驚きを隠せなかった。
「お主、何を驚いてる。今度はワシの攻撃を受けて見よ!」
そう言うと、天海は右手に持っている杖を空高く掲げた。
快晴だった空が一転してかき曇り、風も吹き出した。
すると、ゴロゴロゴロという音がしたかと思うと、雷がネビロン人目掛けて落ちてきた。彼は何とかかわすが、かわしてもかわしても次から次えと雷が落ちてくる。
たまらず彼はそこから逃げ出さざるを得なかった。
天海は、ネビロン人が遠くまで逃げ去るのを見届けてから、ふわりと地上に降り立った。
すると、空を覆っていた雲が消え去り、元通りの青空が戻ってきた。
「田中よ、もう出てきても良いぞ」
すると、身を潜めていた田中が出てきた。
「天海さま、ここが探し求めてきた土地なんでしょうか?」
「ああ、そのようじゃのう」
その時、大きな岩が中央から割れ始め、そこからユリカが出てきた。
「はじめまして、ユリカといいます。一部始終をモニターで見させていただきました。天海さまとおっしゃるんですね」
「ああ、そうじゃ」
「まさか、ネビロン人がつけてきたとは知りませんでした。本当にありがとうございます。でもここの場所が知られてしまったようですね」
「いや、この岩が出入口だということはわからないはずじゃ。わしの幻術によって空中であなた方の姿を消すように見せてやったからのう」
「まあすごい、天海さまのような人を初めて見ました」
「ところで、ネビロン人とは何者なんだね。お嬢さん」
「その事については長くなりますので、良かったら研究室で話しませんか。お茶でも飲んでゆっくりしてください」
「そうか、それではお邪魔させて頂こう」
「田中さんも、ご一緒にどうぞ」