両親への想い
ある日飛雄二号が、ユリカの伝言を持って桃太郎の所までやってきた。
「やあ桃太郎、久しぶりだな」
「おお飛雄じゃないか、どうだ基地の探索の方は?」
「ああ順調だ。それより、ユリカが会って話したいと言ってたぞ」
「そうか、そうだったらこの前会った湖が良い。二日後にそこで待っていると伝えてくれ」
「承知した」
そう言うと飛雄は、バサバサと羽音を響かせたかと思ったら、あっという間に飛び立っていった。
二日後、ユリカは湖の前にある木製のベンチに座っていた。約束の時間より大分待たされたが、まだ桃太郎が来ていなかったので、少しいらいらしていた。
「桃太郎たら、まだ来ないのかしら?」と、独り言を言った。そうしたら突然どこかからか「俺なら、とっくに来ているぞ」という桃太郎の声がしてきたのだ。
ユリカはビックリして辺りを見回した。
だが、桃太郎の姿は何処にもない。それでユリカは、ひょっとしたらいつかのように、木に登っているのかと思い、近くにある木を探してみた。しかし、その憶測も外れていた。
「桃太郎ったら、いったいどこにいるの」
「その木よりも、ずっと上のほうを見てみな」。
ユリカは、まさかと思いつつも、更に上を見上げてみた。何と桃太郎は、巨大な凧につかまって空中で風に吹かれていたのである。しかも、飛雄とじゃれあっていたのだ。
「まあ、そんなところにいたの」と、呆れ顔で桃太郎を見た。
「はっはっは、ごめんごめん。上空には気持ちの良い風が吹いているぞ」、そう言いつつ、空中から回転しながら飛び降りてきた。
「実際に会うのは久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「桃太郎さんも、暫く見ないうちにますます逞しくなったわね」
「このぐらい鍛えなければネビロン人には勝てないからな」
「まあ、頼もしいわ。ところで、あの大きな凧は何なの?」
「おっあれか、あれも忍法の一つだ。ただ面白がって凧に乗っていた分けじゃない。怪しい奴がユリカをつけてこないか心配だったんでね」
「へえ、そうなんだ。それで、どうだったの?」
「今のところは大丈夫だ。ところで俺と会って話したいというのは何だい?」
「そうそう、実はね、飛雄二号が基地の探索をしている中で、私の両親と会えたのよ」
「そうか、会えたのか。元気だったかい」
「ええ、基地の中で大きな農園があるの。そこに私の両親がいたのよ」
「それは良かったじゃないか」
「そうね、それで農園は地下に作ってあるんだけど、人工太陽もあって、まるで地上にある農園のようだったわ」
「ネビロン人とは、そんな技術力を持っているのか?」
「そうじゃないわ。その農園自体はペルシカ人と地球人が協同で作ったものよ。それに、そこにいる地球人は人格的にも立派な人達ばかりだそうよ」
「そうなんだ」
「ペルシカ人には、人間の良心を引き出す何かを持っているんじゃないかしら。だからペルシカ人は地球人を見捨てたりはしないわ。邪心に打ち勝てる力を地球人はきっと持てるようになると思うわ」
「俺もそう思う。育ててくれたお爺さんと、お婆さんを見ても、邪心なんてちっとも感じない。だから俺は地球人は大好きだし、その良心を信じたいんだ」
「そうよね。でも人間はなぜ邪心なんて持っているんでしょうね。長い目で見れば、それは人間に不幸をもたらすものなのに」
「そう、それが問題さ。だからずっと昔から、自分の矛盾性に苦しみながら宗教や色々な哲学で、それを克服しようとしてきた。そして、その気持ちさえ持ち続けることができれば、きっと願いは叶えられると思うんだ。そして、いつの日か必ず、邪心に翻弄された不幸の歴史に終止符を打てる時が来るだろうと思う。へへ、俺の考えは世間知らずの理想主義者っぽいかな」やや照れながら言った。
桃太郎は、そう言いながらも頭に大高院の姿を思い浮かべていたのである。
「わあ、すごい! 理想主義でも構わないわ。それを貫ける意志があれば現実になると思う。強い人間になってね。それにしても色々と考えているのね。ペルシカ人も地球人に対して協力のしがいがあるっていうことよね」
「そのとおり」と言って二人は笑った。その笑い声は森中に響き、そこにいた動物達もともに愉快な気持ちになった。ここがすなわち神が準備したというエデンの園のようでもあり、極楽浄土のようでもあった。
「桃太郎さん、もう一つ聞いてもらいたい事があるの」
「ああどうぞ」
「私の両親の話によると、桃太郎さんの親のアーク様に接触した事があるみたいなの」
「なんだって、父さんと母さんに会ったことがあるんだって。ああ、やっぱり無事に生きているんだ」
「そうよ、アーク様はネビロン人から追われて逃げるときに、保育器に赤ちゃんを入れて、川に流したと言っていたそうだから間違いないわよ」
「そうか、本当に生きていたんだ」、その声は喜びに満ちていた。
「桃太郎さんの事も随分と心配していたそうよ」
「そうかそうか、はっはっは、待っててくれよ。きっと、きっと・・・・」
桃太郎は、例の宝石に記憶されている両親と暇があれば会っていた。そうしている内に両親に対する気持ちも次第に親しいものになっていたのだ。
「良かったわね、桃太郎さん」
桃太郎の両親に会えるという希望はいやがうえにも大きくなった。そして、どんなことがあっても、ペルシカ人と地球人を解放しようという決意を更に強くした。
「ところで、桃太郎さん。何か忘れていませんか?」
「えーと、何だっけ?」
「もう、今何時だと思っているの」
「あ、もうお昼だ。そういえば、腹が減ってきたぞ」
「そうでしょう。ほら、これ見てごらんなさい」
「わあ、すげえ弁当だ。ユリカが作ったのか」
「そうよ、二人分あるから一緒に食べましょう」
「本当か、悪いな」
「私、最近お父さんの研究室に閉じ篭りきりで、いつも食事は一人なのよ。一人ってとっても味気ないのよね」
「ああ、それは気の毒だな」
「そうよ、だから今日ぐらいは楽しく食べましょう」
二人はこうやって戦いの前の暫しの平安な時を過ごすことが出来た。