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桃太郎の特訓その三

 桃太郎は更に日本の忍術にも興味を持った。特にネビロン人の基地に潜入する時に役に立つと思ったからだ。

 ある日桃太郎は森の中のいくつもの木に、紐で吊るした的を用意した。そのように準備してから、木から木へ飛び移りながら手裏剣を飛ばした。木に吊るした的は小さな風でも揺らぐ。その的を目指して手裏剣を投げる。それを百発百中になるように訓練していった。

 その訓練は昼間だけではない。夕暮れの薄明かりの中でも行った。そのスピードは次第に速くなり、普通の人間が桃太郎を目で追っていくだけでも大変であった。ただ、風を切る音と、手裏剣が木に当たる音だけがしていた。


 ある時、桃太郎は、すばしっこそうな猿を十匹集めた。

「みんな聞いてくれ。今日は面白い遊びをやろう。簡単に言えば鬼ごっこのようなものだ。君たちは五匹ずつに分かれて、それぞれを赤組と白組とする。みんな腕に赤と白の布を巻いてくれ。それで、俺が鬼をやる。俺が赤組の猿を捕まえる。五匹全部捕まえたらゲーム終了だ。では白組は何をするかだ。白組は俺を捕まえるんだ。俺が赤組の五匹を全部捕まえる前に、白組に捕まえられたら俺の負けとなる。分かったか?」

「そうか、でもそれでは桃太郎に勝ち目は無いぞ」

「やって見なけりゃ分からんだろう。三十秒後にゲーム開始だ」。

 桃太郎は自分の腕時計を見ながら、三十秒間待った。

三十秒が経過した直後、白組の五匹の猿が桃太郎に襲い掛かってきた。

 桃太郎は、その五匹をかろうじてかわし、真上の木に飛び移った。その瞬間、一匹の赤組の猿の尻尾を捕まえていた。この猿は、どうせ直ぐに桃太郎は、五匹の白組の猿に捕まえられるだろうと、高をくくっていたのである。

 桃太郎は「一匹捕まえたぞ」と言ったが、その瞬間にも五匹の猿は容赦なく襲い掛かってくる。

 桃太郎は次々に木を飛び移り、その追跡を振り払おうとしていた。しかし、桃太郎はただ逃げているばかりではない。その間にも赤組の猿の居場所を探していたのである。

『よし、あそこの木の上に一匹、そしてその三本隣の木の影にもう一匹、赤組の猿がいる』

 五匹の猿から逃げながらも、赤組の猿の方に少しずつ近づいて行った。そうしてあと少しという所まで来ると、その猿がすんでのところで逃げ出した。しかし桃太郎のスピードには敵わず、直ぐに捕まえられてしまった。

「二匹目も貰ったぞ」と言った。

 その時、桃太郎の動きが一瞬止まった。それを見逃さず白組の猿が桃太郎を捕まえてしまった。

「どうだ、桃太郎、参ったか」、そう言って桃太郎の顔を覗き込んだら、それは大きな丸太のきれはしであった。忍法変り身の術だ。

 その時、向こうの方から桃太郎の声がした。

「三匹目もいただきだ」。その声のする方を見ると、桃太郎は、赤組の猿を一匹抱きかかえていた。

「くそ、またやられたか」、白組の猿は大変悔しがった。

 それで、五匹の猿は円陣を組んだ。「桃太郎にはどうしても負けられんぞ。そこでだ・・・・」、とひそひそ話をし、なにやら作戦を立てたようである。

 桃太郎はそれを見て『ははあ、あいつら何か企んでるな。面白くなってきたぞ』とほくそ笑んだ。

 それから暫くしてから、赤組の猿が一匹、桃太郎の前に現れた。この猿は仲間の中でも最も敏捷性のある者で、桃太郎といえども、捕まえるのは大変である。

「桃太郎、俺を捕まえられるか、付いて来い」、そう言って桃太郎を挑発した。

 桃太郎は「望むところだ」、と言いながら、その猿の後を追った。

 桃太郎があと少しで捕まえそうになると、機敏に方向を転換し、うまく逃れた。そうやって暫く追いかけっこをしていたが相当疲れてきたのか、とうとう猿は洞穴の中へ逃げ込んだ。

 桃太郎もまた、躊躇無く洞穴へ飛び込んでいった。

 すると、今まで姿を現さなかった白組の五匹の猿が洞穴の入り口を塞ぐように陣取った。そして、中にいる桃太郎に向かって、「はっはっは、桃太郎、洞穴の出口はここしかないぞ。観念して出て来るんだな」

 桃太郎は「おっと、まんまと罠にかかったって分けか?だが、そんなに上手くはいかないぞ」

「なんだと、往生際が悪いぞ」、そう言いながら五匹の猿は洞穴の中へ入っていった。

 ところが「あれ、桃太郎がいないぞ」、「そんな馬鹿なことがあるわけがない」、などと言いながら猿たちはうろたえた。

 すると、洞穴の外のほうから桃太郎の声がしてきた。

「俺ならここにいるぞ。それと四匹目も頂いたからな」。

 その声に驚いて、白組の五匹の猿が洞穴から出てきた。

「なぜだ、こんな馬鹿な事があるか?」

 それに対し桃太郎は「お前たちのやることはお見通しだ。昨日のうちに、その洞穴の中に抜け道を作っておいたのさ。用意周到なのも忍者の心得の一つだ」

「なんて奴だ。俺たちよりも、一枚も二枚も上手だぞ」

 再び猿たちは円陣を組んだ。桃太郎はそれを見ながら木の上で体を休めた。

「おい、このままでは桃太郎にやられちまうぞ」

「あいつは、スピードも速いし、頭も良い」

「だが、このまま負けるのも癪に障る」

 彼らは中々良い方法が浮かばず、悩み続けた。

「そうだなあ、俺たちは桃太郎には勝てないかもしれない。しかし引き分けには持ち込めるぞ」

「どうすれば良いんだ」

「そうだなあ、最後の赤組の猿を俺たち五匹で守りきるんだ。そいつを真ん中において、俺たち五匹で周囲を固める。これなら桃太郎も迂闊には手を出せんぞ」

「なんだ、それだけか」

「そうだ、それなら俺たちが勝つ事は無いが、桃太郎も勝てない。ただし桃太郎が動いてくれば確実に桃太郎を捕まえられる。そうなったら俺たちの勝ちだが、桃太郎も馬鹿じゃないから、そこまではやらないだろう。そして、そのまま夕暮れになればゲームオーバーだ。要するに引き分けという事だ」

「なるほど、あまりスッキリはしないが負けるよりは良いだろう」

 そんな風にして、五匹の猿は話しがまとまった。

 彼らは、最後の赤組の猿を探し出し、その周囲を固めた。

 そのまま暫くは、静かに時が流れた。


 それから三十分ほど時間が過ぎた頃、何やら香ばしい匂いがしてきたのである。

「なんだか、良い香りがしないか?」

「そういえば、そうだなあ」

「それにしても、退屈だなあ。あれから何も起こらないぞ」

「桃太郎も、手を出せないって事さ!」

「へっへっへ、これで俺たちの負けは無いってことさ」

猿達は安心しきってしまった。

それからまた、暫く時が経過した。

「おい、おい、居眠りをするんじゃないぞ」

「そんな事言って、お前も随分眠そうじゃないか」

「待っているだけ、というのも大変だなあ」

「我慢するんだ。負けたくは無いだろう!」

 そんな風にして、睡魔と闘いながら夕暮れになるのを待った。


 また暫く時が経ってから、桃太郎のお婆さんの洋子がそこを通りかかった。

「おやおや、お猿さんたち、そんな所で何をしているんでしょうね?」

「あれ、桃太郎の所のお婆さんじゃないですか?」

「そうそう、桃太郎が随分お世話になっているそうね。キビダンゴをたくさん作ったから皆でお食べ」

「お、キビダンゴだ。いやあ大好物なんですよ」

 皆は喜んでキビダンゴをほおばった。

「ほらほら、真ん中にいるあんたも、もっと食べなさいよ」と言って、お婆さんがその猿を抱きかかえようとした。その時、白組の猿が、

「ちょっと待った。お前ひょっとしたら桃太郎じゃあないのか?その頬かむりを取ってくれ」

「あらまあ、何を言うの。ほらこの通り。桃太郎じゃないですよ」

「ああ、これはすみません。このとおり、謝ります」。

 その時、突然お婆さんが笑い出した。

「はっはっは、ほーほっほっほ・・・」

「お婆さん、どうなさったんですか」

「おいおいちょっと変だぞ」

 猿達はざわつき、うろたえた。

 その時、頭上から大きな声が響いてきた。

「おい、お前たち、いつまで寝てるんだ。早く起きるんだ」

 白組の五匹の猿と、赤組の一匹の猿は、いつの間にか寝入っていたのである。桃太郎のお婆さんも、キビダンゴも全て夢の中の出来事であった。

 六匹の猿は同時に同じ夢を見たのだ。気がついてみると、真ん中に桃太郎が最後の赤組の一匹を抱いて座っていた。

「はっはっは、俺の勝ちだ」

「なんだと、これはいったいどういう事だ」

 桃太郎は、いたずらっぽい顔をして言った。

「お前たちが眠る前に、何か香ばしい香りがしてきただろう」

「ああ、そういえばそうだった。それがいったいどうしたというんだ」

「あれが忍法さ。忍者が作り出した秘薬だ。幻覚を見させるためのね」

「そんな秘薬があるのか、たまげたな。とにかく俺たちの完敗だな」

「考えても見ろ、俺のお婆さんが猿の言葉なんて分かる分けが無いだろう」

「そうだ、そういえばそうだ。いやいや参ったな」

 

 桃太郎は、こうやって忍法の威力に確信を持ったのである。

「さあ皆、今日はありがとう。皆にキビダンゴをやる。食べてくれ」

「おいおい、桃太郎、これは幻覚じゃないだろうなあ」

「これは本物だ。随分疑り深くなったもんだなあ。そんなに言うなら、俺が全部食べちゃうぞ」

「いやいや、これは失礼。遠慮なく食べさせてもらいますよ」

 森の中に皆の笑い声が響いた。

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