桃太郎の特訓その二
桃太郎が学校から帰って来た時、居間でお爺さんがテレビを見ながら居眠りをしていた。何気なくテレビを覗いて見ると、ジャッキーリーのカンフー映画が放送されていた。
桃太郎は、そのカンフーの動きに目が釘付けとなり熱心に見つめた。手の動き、足の蹴り、そしてその連続技を心に焼き付けた。
映画を見終わった後、直ぐに庭に出て、その動きを真似してみた。最初はゆっくりと、その動きを思い出しながら訓練した。
そして、その動きをマスターすると、次第に早く動けるように訓練していった。
数日間、毎日これを練習し、更に自分なりの工夫も加えていった。
こうして武道に興味を抱いた桃太郎は、学校の図書館で柔道や空手の本を借りてきて、それを見ながら練習した。
そして柔道の相手の力を利用して投げ飛ばす方法も学び実践していった。
桃太郎は一度興味を抱くと、とことん納得のいくまでやり続けた。更に柔道の技の一つに真空投げというものがあり、それに強い関心を抱き研究していった。
このような武道の練習を数ヶ月間続け、相手になってくれる人を探した。しかし学校の柔道部や空手部の連中は、桃太郎の強さに圧倒され実力の差は歴然となっていた。そこで、桃太郎は山奥に住んでいる熊を相手にしようと考えた。
ある日曜の朝、桃太郎は熊の棲み家を目指した。一時間ほど早足で山の中を歩き、熊の出没するエリアに入った。
そこで桃太郎は以前から知っている熊の『ダイモン』を呼んだ。
「おーい、ダイモン出てきてくれ。俺は桃太郎だ」、そうやって耳を澄ましてダイモンが現れるのを待った。
そうしていると、桃太郎は後ろの方で、何かが近づいてくる気配を感じた。桃太郎が後ろを振り向くと、猛烈な勢いで大きな熊が走ってくるのが分かった。
熊は桃太郎の数メートル先からジャンプして襲い掛かってきた。
桃太郎はとっさに身をかわし、熊の攻撃から逃れた。
「あぶないぞ、ダイモン」
「桃太郎、久しぶりだなあ。暫く見ないうちに随分と逞しくなったじゃないか」
「いつものように荒っぽいお出迎えだなあ」
「当たり前だ、あれくらいの攻撃をかわせないでどうする」
「ふふ、お前らしいな。ところで今、武道の訓練をしているんだ。それで、その訓練の相手をして欲しいんだ」
「何を、俺を訓練相手にするんだと。手加減なんかしないぞ。あとで後悔するな」
「望むところだ、さあこい」
そうやって、お互いに睨み合っていると、ダイモンの方から攻撃を仕掛けてきた。ダイモンの張り手が容赦なく桃太郎を襲ってきた。
かろうじて、それをかわしたが、近くにあった直径15センチメートルほどの木をなぎ倒した。物凄い威力である。
ダイモンは二度三度張り手を使って攻撃を繰り返してきた。桃太郎が三度目の攻撃を受けたとき、石につまづいて倒れそうになった。そこにダイモンの張り手が襲い掛かってきた。桃太郎は咄嗟にダイモンの手を掴み、相手の力を利用して一本背負いをして、重いダイモンを何とか投げた。
ひるんだダイモンに向かって、正拳突きや、蹴りの攻撃を仕掛けた。
だが、その攻撃はダイモンの分厚い皮膚にはたいした効果は無いように思えた。
そこで桃太郎は、その攻撃を諦め、相手の隙を見つけてダイモンの背中に飛び乗った。ダイモンは、何とか桃太郎を振り払おうとして大いに暴れまわった。桃太郎は必死にダイモンの背中の毛につかまって耐えていた。
そうこうしている内に、ダイモンは斜面で足を滑らし転げ落ちた。
桃太郎は転がる瞬間にジャンプし、近くにあった木の枝にぶら下がった。
転げ落ちたダイモンは、直ぐに体勢を整え、桃太郎に向かって猛然と突進してきた。
桃太郎はその様子を見て、身構えた。
ダイモンが桃太郎に襲いかかろうとした瞬間、ふっと宙に浮かび投げ飛ばされてしまった。
ダイモンは桃太郎が自分の体に触れたのかどうかも分からなかったのである。投げ飛ばされたダイモンは、何がどうなったのか分からずキョトンとした顔をしていた。
どうやら桃太郎の投げが見事に決まったようである。
「桃太郎、今のは何という技だ」
「おう、あれは真空投げというんだ。柔道の達人が使っていた技だ」
「そうか、大したものだなあ。まあ今日のところは俺の負けということにしておこう」
ダイモンはかなり息が上がっていたようである。
「ありがとう、ダイモン。良い訓練になったよ」
「ところで、なぜそんなに体を鍛えているんだ?」
「ああ、話が長くなるがかいつまんで話すとこうなる」。桃太郎はネビロン人による地球侵略の話をした。
「ネビロン人だと、そんな事をしているのか。人間の邪心を増幅させる装置か。ディアボロスとか言ったな、そんな姑息な手段は気に入らん」
「その通り、それでいずれネビロン人の基地へ行って、そんな装置を破壊し、捕らえられた人達を解放したいと思っているが、協力してくれないか?」
「ふん、俺は人間は嫌いだ。桃太郎のような人間ばかりなら良いが、大抵の人間は自分の事しか考えていない。俺たちの生息地も人間の乱開発で、どんどん狭められている。人間は利口そうに振舞っているが、実はバカだ。欲の皮のつっぱった人間はダメだ。そんな事をやっていれば、やがて人間どもも滅びざるを得ない。ネビロン人がわざわざそんな事をしなくても、長い目で見れば同じことだ」
「確かにそうだ。しかし、善良な人間もいるにはいる。俺は人間の良心を信じようと思う」
「さて、どんなものかな」
「俺は無理に協力してくれとは言わない。しかし、考えておいてくれ」
「あまり期待するな」
「まあ、今日はありがとう。お婆ちゃんが作ってくれたキビ団子だ。食べてくれ。それじゃあまたな」