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桃太郎の特訓

 桃太郎は近いうちにネビロン人の基地、鬼ヶ島へ進入し捕らえられているペルシカ人や地球人を解放しなければならないと決意した。その中にはもちろん桃太郎の両親やユリカの両親も含まれているはずだ。そのためにまずユリカは鳥型のロボットである飛雄を使って、その探索に乗り出している。

 桃太郎は取り合えず強靭な体力と精神力を鍛え上げようと思っていた。今でも相当な体力を持っていたが、未知のネビロン人との闘いに万全を期そうと思ったのである。

 朝、まだ皆が寝静まっているうちに起き、ムサシを伴って走った。朝のひんやりとした空気は実に気持ちが良かった。まだ薄暗い中ではあったが、桃太郎は苦にならなかった。平地ばかりでなく、山道も駆け上った。

 そのうちに日の出の時間を迎え、周囲は明るさを取り戻してきた。白黒のような世界から、色鮮やかな世界が現れてくる。しばしその自然の美しさに心を奪われた。朝もやに包まれた自然界の姿は実に幻想的でもある。電化製品が溢れ、部屋の中で快適な生活を送っている現代人には中々味わうことの出来ないものである。

 ディアボロスにより、邪心を増幅させられた人間界では毎日のように裏切りや汚職、殺人事件など目を覆いたくなるようなニュースが報道されている。だが、今、桃太郎が走っているこの自然界の中には邪心などは存在しない。純粋で実に調和の取れた自然界の姿がそこにあった。

 桃太郎は地球のこの自然を心から愛した。そして人間に対しても邪心を捨て良心に従って生きることを望んでいた。それで、人間の邪心を増幅させ混乱させやがてこの星を支配しようと企むネビロン人に強い怒りを覚えた。

 そんな事を思いながら山道を駆け上っていくと、やがて頂上までやってきた。そして、そこで腕立て伏せをやり、また適当な枝を見つけて、そこにぶら下がり、懸垂をした。

 次に、その枝に足をかけてぶら下がり、今度は腹筋の練習をやった。そんな事をやっていると、顔見知りの猿がやってきた。

「おい、桃太郎、そんな所でなにをやってんだい」

「見りゃ分かるだろう。体を鍛えているんだ」

「ホイ、そうかい。だったら俺を捕まえてみな。その方がずっと鍛えられるぞ」

「へへ、それもそうだな。だったら早く逃げろ。すぐ捕まえちゃうぞ」

「そう簡単に捕まえられるものか」、そう言いながら次々と木を飛び移りながら逃げていった。

 それを見て、桃太郎もその後を追った。猿の動きはとても素早かった。

「どうだ、桃太郎、降参するか」

「まだまだ」、そう言いながら、不敵に笑った。

 そうこうしている内に猿は追ってくる桃太郎の気配が無いことに気がついた。

「あれ、桃太郎の奴、何やってんだ。やっぱり俺には適わないって分けか」、そう思って猿が辺りを見回していると、頭上から何か降りてくる気配を感じた。

「おい、捕まえたぞ」、そう言いながら桃太郎は猿の腕をしっかりと掴んでいた。

「お前、いつの間に」

「はっはっは、お前の行動パターンが分かったから、先にここまできて待ち伏せしていたのさ」

「ちきしょう、俺の負けか」

「まあ、そんなに気を落とさずに、訓練に励むことだな」

「ち、人間に言われたか無いよ」と言って、大笑いをした。そうしたら下の方で「ワン」という声がしたので見てみるとムサシであった。あれだけ木の上で、あちらこちら移動したのに、犬のムサシも追ってきていたのである。ムサシもまた大したものだ。

 こんな事をしていると、桃太郎は大事な事を思い出し、顔色が変わった。

「しまった、学校に遅れちまうぞ」、そう言い残すと一目散に山を降りていった。


 また桃太郎の訓練は山だけとは限らない。海に行くこともある。家から海岸まで走って行き砂場を暫く走る。砂場はとても走りにくいが、それだけ訓練になるというものだ。

 ひとしきり走って汗をかいた後に海に入る。クロールや平泳ぎは得意だ。時間のあるときには近くの島まで遠泳をすることもある。

 また、潜水の訓練もする。海の中の生物は陸上のものとは余程違ったものだが、実に素晴らしいと思っている。そんな魚の泳ぎ方などをまねしてみることもあった。

 ある時は海の中でサメに出会った事もある。サメは獰猛だ。桃太郎を見つけると突然突進してきた。桃太郎はサメの動きを見ながら、すんでのところでかわした。サメは二度三度同じように襲ってきた。桃太郎はじっくりとサメの動きを観察し、その癖を見つけた。四度目に突進してきたとき、桃太郎はひらりとかわし、まんまとサメの背中に乗り、背びれを掴んだ。

 サメは背中に乗った桃太郎を嫌がり、相当暴れた。しかし桃太郎は慌てず暴れ馬を調教するかのようにサメを操った。やがてサメは、諦めたのか、次第に大人しくなってきた。

 サメは言った、「お前は何者だ。普通の人間とは違うようだ。何よりも自然を愛し、動物を愛するという気持ちが伝わってくる。お前なら好きになれそうだな」。

「そうか、ありがとう。俺の名前は桃太郎だ。君の名前は何だ?」

「名前か、名前などどうでも良いが、皆は俺のことをシーザーと呼んでる」

「へえ、シーザーというのか。中々良い名前じゃないか」

「ふん、とにかく桃太郎、俺はお前のことを仲間と認めよう。また会うことがあるかどうか分からんが、その時はまた背中に乗せてやろう」

「はっはっは、その時は宜しく頼む」

 こうやって桃太郎は凶暴なサメとも信頼を分かち合う事ができたのである。

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