仕返し
桃太郎は、今でも森の中を探索するのが好きだ。
桃太郎が、森に入るといつの間にか小鳥が近寄ってさえずる。そうやって森の中の色々な出来事を教えてくれるのだ。
桃太郎にとっては、心休まる贅沢な一時である。
そうやって森の中を歩いていると、何やら殺気を感じた。一人ではない、数人はいる。
前方を見ると、上半身裸の筋骨隆々の男が木陰から飛び出し、仁王立ちに立った。ボーズ頭である。体には龍の刺青がある。片手に日本刀を握っていた。
桃太郎は、それを見て仕方なく立ち止まった。
「お前が桃太郎か? ようわしの子分を可愛がってくれたな」と、不敵な目で桃太郎を見た。
「おじさん、いったい何の話しです? 人に恨まれるような事はしていないんですが」
この桃太郎の堂々とした態度に驚きながら「さすがじゃのう、わしを見てビビらんとは。おい、お前らも見倣うんだな。おい、出てこい!」と叫んだ。
すると、近くの草むらから学ランを着た高校生が3人出てきて、桃太郎を睨み付けた。
その高校生は、いつの日か中学生の帰宅する道を待ち伏せて、お金を巻き上げていた連中であった。
「ああ何だ、あの時の」と、桃太郎は旧友にでも会ったような感じで笑った。
「お前な、笑っているのも今の内だぞ。大高院組を知らんのか?」
桃太郎は、大高院と言われても何の事だか分からず、キョトンとしていた。
大高院とは、この地域のはみ出しものを集め、あらゆる悪事を働いた。
恐喝、詐欺、押し売り、最近は優秀なIT業界の人物を脅し、ネットを利用した犯罪にまで手を拡げた。勿論、高校生の悪童も従えている。
「桃太郎、わしが大高院じゃ。ちーっと今日は痛い目にあってもらうぞ」そう言いながら、刀を持った手を上に挙げた。
すると、それを合図に木の上から黒装束の男が飛び降りざま、日本刀で斬りかかってきた。
桃太郎は、体を反らして紙一重でかわすが、相手は素早い動きで器用に刀を操りながら斬ってくる。
息つく暇さえ与えない。
更に、背後からもう一人の男が刀で突いてきたので、身を屈めながら、足で相手の足をはらうと、もんどりうって倒れた。
また屈んだついでに、拾った石を前方の男目掛けて投げつけた。
相手はすんでのところで避けた。
その隙を狙って桃太郎は、姿を眩ました。
「何を手こずっている。たかが中学生相手に何をやっているんだ。探せ、探せ!」大高院は、苛ついた声で叫んだ。
二人の黒装束の男は、桃太郎の気配を探した。
暫くすると、"タッタッタ"という地面を蹴る音が近づいてきた。
桃太郎は、身構えた二人の男に向かって、2mはあるだろう棒切れ持って突進してきたのである。
だが桃太郎は、二人の直前まで来て視界から消えた。
その直後、二人は悲鳴をあげて地面に倒れた。
その倒れた男の背後に桃太郎が立っている。
桃太郎は、二人の目の前でジャンプし彼らの背後に飛び降りたのだ。
桃太郎が大高院を見ると、彼は薄気味の悪い笑顔をしていた。
桃太郎は、すぐその大高院の笑顔を理解した。
例の高校生が、中学生の男の子を羽交い締めにしていたのだ。
よく見ると、その中学生は桃太郎の同級生であった、かれは、植物が好きでよく森の中に入って、珍しい植物を観察したり、採集したりしていた。実に真面目な生徒である。
悪い事にたまたまそこにいて、捕まってしまったのである。
彼は、恐怖で顔がひきつっていた。
桃太郎は心配そうに同級生を見つめた。
「大高院さん、その子は関係ない。放してやってください」
「ああ、放してやるとも。お前が、その棒を捨てて、膝まずけばな!」
「卑怯な手を使うもんだな」、桃太郎は仕方なく棒を捨て、膝まづいた。
すると、一人の高校生が縄を持って桃太郎の両手を後ろにして縛りつけた。
ところが大高院は、中学生を解放するどころか、その顔をぶん殴り、気絶させてしまった。
「何をする!」、桃太郎は絶叫した。
「ふん、お前の悔しがる顔を見たかったからさ。世の中は甘くはない。人を信じるお前がバカなのさ。この世の中、腹黒い連中がのさばるようになっているんだ」
「何だと」、桃太郎は顔を真っ赤にして悔しがった。
「ふん、世の中はそんなもんだ。ところでお前は強いな。俺の組に入らんか?」
「入ってたまるか!」と言い、大高院を睨み返した。
「良い面構えだが、残念だ」そう言うと、例の高校生に向かって「やれ!」と指示した。
すると、二人の高校生が、桃太郎に向かって殴る、蹴るの暴行を加え始めた。
桃太郎は、その痛みに耐えていたが、それ以上に人間というものに対する得体の知れない恐ろしさに衝撃を覚えていた。
高校生は、やりたい放題していたが突然悲鳴を挙げたのである。
桃太郎は、何が起きたか目を開けると、おびただしい数の猿がいた。その猿が桃太郎を助けようとして、猛然と大高院や高校生に飛び掛かっていたのだ。
「これは、どういう事だ。引き上げるぞ」 大高院も、高校生たちも苦しい悲鳴をあげながら逃げて行ったのである。
こうして、桃太郎は猿によって縄を解かれ解放された。
「桃太郎! 大丈夫か? そこらじゅうアザだらけだぞ」、心配そうにボス猿のサスケが聞いてきた。
「ああ、ありがとう助かったよ。こんな傷は大したもんじゃあない。直ぐに治るさ」そう言ったが、心の中に大きなわだかまりが出来た。
「大高院という奴の噂は聞いた事がある。血も涙もないっていう話だ」
「うーん、そのようだ」、桃太郎は腕を組んで考えた。
『ネビロン人の言う通りなんだろうか。こんな人間がのさばっているようならば、地球はどんどん悪くなる一方だ』
サスケは、桃太郎の様子を見て心配になった。
「桃太郎、本当に大丈夫か? 傷が傷むんじゃあないか?」
「いや、大丈夫だ・・・・。 サスケ、お前は良いなあ」
いつもとは違う桃太郎の雰囲気に、サスケも、他の猿たちも心配そうに顔を覗きこんだ。