彦一の不安
最近になって、鬼ヶ島に拉致されてきた人間がいる。この男、ディアボロスの影響を強く受けていて最初の内暴れまわって手がつけられなかった。
その為、落ち着くまで一人独房に入れられた。聞くところによると、この男、政治家であったらしい。それもベテラン政治家としてかつては大きな権力を持っていたという。
ところが、我欲に翻弄され私腹を肥やし、その財力を使って、マスコミを牛耳った。
そして、そのマスコミを使って、自分を批判する者を次々に失脚させていったのである。
ネビロン人は、こんな政治家をサンプルとして捕獲した。
一週間独房に入れられる事により、漸く正常に戻ってきた。こうなると腹の中はともかくとして、表面的には立派に見える。
彦一は、地上の様子を聞きたくて、この人物への面会をサイモンに頼み込んだ。
そして、その許可が降りた。
「今、地上の様子はどうなっているのかなあ?」
最初ニコニコしていたこの男は、地上の事と聞いて、突然不快な顔になった。
「彦一君とか言ったね。地上は住めるような状態じゃあ無いよ」
「そんなに酷いんかい!」
「強盗や裏切り、暴動が相次いでいる。私も何度も暴漢に襲われた。それで何人もガードマンを雇ったが、そのガードマンにもやられたよ」
「うーん------」、彦一は青ざめた。
その後、彦一はサイモンに噛みついた。
彦一は、残してきた妻や愛娘の事をとても気にかけていたのである。
「おいサイモン! 話によると地上は大分荒れているようじゃあないか。暴動はよく起こるし、警察もあてにならんようだ。俺の家族は大丈夫なのか?」
「うーん、何とも言えないな!」
「何だと、よくもそんな事が言えるな! どうだ、俺の家族をこっちに呼び寄せてくれ。地上よりも、こっちの方が安全だろう」
彦一は、サイモンの首根っこを掴んで詰問した。
「まあまあ落ち着くんだ。言っては見るが結果は分からんぞ」、サイモンは苦しそうに答えた。
「何を、最善を尽くせ! でなきゃあ、これ以上は協力せんぞ」、さらに手に力を入れて言った。
「分かった、分かった。言ってみるよ。だからこの手を離してくれ!」
彦一は、込み上げてくる感情をなかなか抑える事が出来なかった。だが、サイモンの素直な態度を見て、漸く手を離してやった。
「サイモン、お前を信じてやる」
「ふー、安心しろ。私が何とかしてやるから」、そう言いながら彦一の肩をポンポンと叩いた。
数日後、彦一は家族と感動の再開を果たした。