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研究所にて

 エレベータは、大きなホールの中心に位置していた。所々に観賞植物が置いてあるせいか、空気が新鮮に感じる。天井を見ると、何か淡い光を放っていて、それは眩しくもなく目に優しく周囲を照らしている。

 温度も適温に保たれていて快適だ。

「ユリカ、お帰りなさい。今日はお友達と一緒なんですね」、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。

「そうよ、同級生の桃太郎さんよ」

「まあ、たくましそうね。私はデルタと言います。宜しくね」

 桃太郎は、姿の見えない声にどう対応していいか分からず戸惑っていた。

「桃太郎さん、この声は人工知能の声よ。人間と同じように考え、感情もあるの」

「そうなのか? これは驚いた。デルタさん、宜しく」、桃太郎もぎこちなく返事をした。

「ふふふ、どうぞ寛いでいってくださいね」

 桃太郎は、ユリカの後を付いていってあることに気が付いた。

「おいユリカ、俺たちが進もうとしている所だけ明かりが点いていくようだな」

「そうよ、これも省エネなのよ。もちろんこの明かりも殆どエネルギーを消費していないんだけどね。これも全てデルタが制御してるの」

 桃太郎は、しきりに関心している。

 暫く歩いていくと、研究室と書いてあるドアが見えてきた。

「デルタ、ドアを開けて」

「分かったわ」

すると、ドアが左右にスライドして開いた。同時に部屋の明かりが点灯する。

 部屋に入ると、英語、フランス語、ヘブライ語、日本語など世界のあらゆる国の書籍がところ狭しと並んでいた。

 また、部屋の奥の方を見ると様々な機器が置いてあり、また部屋の片隅には桃太郎のペンダントを大きくしたような綺麗な石が電子機器に繋がれていた。

「さあ、桃太郎こっちに来て座って」、ユリカはその石の前にある椅子に座り、その隣の椅子を指差していた。

 桃太郎が、その場所に座るとユリカは目の前のキーボードをカシャカシャと打ち始めた。

「それじゃあまず、これを見て」

すると、例の綺麗な石の中で赤や黄色、青色の小さな光があちこちで点滅を始めた。

 やがて、目の前の空間に3D映像が浮かび上がってきた。

「私の両親を紹介するわ。父のマイソンと母のローザよ」

 そこには、額の広い知的な感じのする男性と、笑顔の綺麗な女性がいた。

「へえ、ユリカの両親なのか?さすがに頭がよさそうだ」

「でも、私には優しいわ。次にこれを見て」

 瞬時に画面が入れ替わる。今度は、美味しそうに盛り付けられた料理が乗っているテーブルの後ろにカジュアルな服装した四人の男女がいた。

「これは、私の家でアーク夫妻、つまり桃太郎さんの両親を招いて食事会を開いた時のものよ」

「へー、ところで赤ちゃんが抱かれているが、あれはひょっとしてユリカと俺なのか?」

「ご名答。ふふふ、私たちは赤ちゃんの時からの知り合いなのよ」

「なんだ、そうなのか。こりゃあすごい」

これに続く幾つかの写真には、ユリカと桃太郎がじゃれあってる姿があった。

 これを見ながら、ユリカに対する親密感が増して行くのが分かった。

 ふと横を見ると楽しそうにしているユリカがいた。

「こうやって、桃太郎さんと会えたのも運命だと思わない?」

「ああ、そうかも知れない。じゃあ、肝心のネビロン人の事を見せてくれ」

 ユリカは、意外に桃太郎のあっさりとした返事にやや拍子抜けしたが、気を取り直してキーボードを打った。

「そうね、じゃあネビロン人について見せてやるわ」

 目の前にネビロン星と思われる惑星が現れた。そして、宇宙開拓委員会の宇宙船がネビロン星に到着し、どのように交流していったかを詳細に表していた。その映像にはマイソンの解説があり、その時々におけるネビロン人やペルシカ人の思惑をよく表現していた。

 タウ民族によるペルシカ人の監禁、タウ民族とミュー民族との抗争。

 タウ民族における独裁体制の樹立。

 ペルシカ星からの平和維持軍の飛来。

 平和維持軍によるタウ民族とミュー民族の和解。

 タウ民族の不満分子の脱出。

 などの事が詳細に語られていた。

 更に、その脱出したタウ民族が密かに地球に来ていて、地球を彼等の理想郷として築く事を画策している事が明らかにされた。

 その方法として、ディアボロスという名の装置を作った。それは、人間の邪心を増幅させる装置で、人間社会を混乱させ、自滅させようとしていた。

 彼等の言い分は、我欲の強い地球人は、この惑星を支配する資格はない、という事であった。

「邪心を増幅するディアボロスだって!」と、桃太郎。

「そうよ、それは人間の悪い気持ちを増幅させるものなのよ。最近世界中で悲惨な事件が今まで以上に頻繁に起きているでしょう。この装置が作用しているのよ」

「それは大変だ。人間に対応策はあるのか?」

「いいえ、人間はまだディアボロスの存在も、ネビロン人の存在も知らないと思うわ。でもお父さんがディアボロスを無効化する装置を開発し誰にも知られないように設置してあるの。だから、この周辺の人々には影響が出ていないのよ」

「へえ、そんな装置があるのか」

「お父さんがその装置をもっと強化したいと言っていたの。でもその事をネビロン人が察知してお父さんを拉致してしまったのよ」

「なに、そう言う事だったのか。それでは、その無効化装置はネビロン人によって破壊されてしまうな。残念だけど」

「いいえ、お父さんは絶対に喋らないわ。ペルシカ人は意志が強いのよ」

「そうなのか」

「桃太郎さんだって、ペルシカ人なのよ」

「うーん、まだピンと来ないけどな。それでこれからどうするんだ?」

「救い出したいの。それに大勢のペルシカ人や、地球人も拉致されているのよ」

「でも、どうやって」桃太郎は、腕を組んで考えた。

「人間は、みんなディアボロスによって狂わされているから、期待出来ないわ」

「じゃあ、尚更難しいんじゃないのか?」

「あなたは、アーク船長の息子よ。アーク船長は偉大な指導者だったわ。その血を受け継いでいるのよ」

「いや、しかし---」

「あなたが決意すれば大丈夫よ。それに私の父が残してくれた色んな装置が助けてくれるわ。それとあなたは一人じゃないわ」

「俺が一人じゃないって?しかし、人間は頼りにならないんだろう!」

「この地球には、人間以外にも色々といるでしょ」

「あっ、彼らに協力してもらうのか?」、桃太郎の頭にムサシやサスケの姿が現れた。

「そうよ、それは貴方だからできるのよ」

「ああ、そうかもしれないな!」

「ねえ、やりましょうよ」

「そうだな、俺たちがやるしかないようだな」

 ユリカは、ほっとしたように満面の笑顔になった。

「やりましょうね! それに勝算はあるわ。彼等の通信装置を利用してペルシカ星の平和維持軍に連絡出来れば何とかなるわ」

「よし、分かった。そこまで、どうやって忍び込む事が出来るかが問題だな。何とかそこまで行ければ勝ち目はあるだろう。ただ----」

 桃太郎は、少し心配顔になった。

「ただ、どうしたの?」

「うーん、ペルシカ人は地球人をどうするつもりなんだろう」

 桃太郎は、頭の中にあの優しいお爺さんとお婆さんの笑顔が浮かんだ。

「ああその事ね。でも大丈夫よ。私の父は色々と調べて行くうちに人間の事がとても気に入ったの。だから、他の開拓委員会のメンバーを説得すると言っていたわ。だから心配しないで」

「ああそうか。お爺さんとお婆さんのような優しい人間も大勢いるからな」

「ああ良かった。これで心配事はなくなったわね」

「はっはっは、その通りだ」、桃太郎は豪快に笑った。

「ユリカ! 君の親も、俺の親も救い出さなくちゃな!」

「そうそう、その意気よ。それにしてもちょっと喉が乾いたわ。コーヒーでも飲みましょうよ。デルタ、コーヒーを用意して」

「ああ、ユリカ。もう準備してあるわよ」

「あら、気が利くわね」

「いつもの事でしょ」

 そう言っている間に、研究室のドアがひとりでに動いて、ワゴンにコーヒーカップが2つと、お茶菓子にクッキーが幾つか添えられていた。しかもこのワゴンは自動で動いて来た上に、二人の前でピタリと止まった。

「あら、デルタありがとう」

「ふふふ、お安いご用ですわ。どうぞ召し上がれ」

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