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桃太郎出生の秘密

 数日後の日曜日に、ユリカは桃太郎の家を訪問した。

 そこには、一仕事終えたお爺さんとお婆さんが縁側でお茶を飲みながら休んでいた。

 時々、笑い声も聞こえてくる。

ユリカは、日だまりで二人が仲良く談笑する姿を見て、とても微笑ましく感じた。

「こんにちわ、桃太郎さんいますか?」

「ああ、学校のお友だちかい。いつもお世話になりますねー」

二人は、にこにこしながら挨拶した。

「あのー、桃太郎さんは何処かへお出掛けですか?」

「いいや、さっきまでその辺におったがのう」、と言いながら辺りをキョロキョロする。

 すると突然、桃太郎の声がした。

「おー、ユリカ、ここにいるぜ」

 ユリカの頭上から声が響いている。ハッとして上を見ると、木の上で桃太郎が笑っていた。

「はっはっは、木の上は気持ち良いぜ。ユリカも上がってこないか」

「えっ、私が?だめだめ、とにかく降りてきて!下で話しましょうよ」

「そうか、やっぱりだめか。それじゃ仕方が無いな」、そう言うと、するすると木から降りてきた。

「この前の話の続きかい?」

「そうよ」

「それじゃ、森の中でも散歩しながら話そう。付いてきてくれ」

「まあ、仕様がないわね」、そう言いながら桃太郎に続いて森の中へ入っていった。

後ろから、お婆さんの「気を付けなさいよ」という声がしてくる。

 ユリカは、後ろを振り向き可愛い笑顔をしながら手を振った。

「素敵なお爺さんとお婆さんね!」

「ああそうさ、でもああ見えて躾は厳しいんだぞ」。桃太郎もお爺さんとお婆さんを誉められてまんざらでもない顔をしている。

 森の中を歩いていると、小鳥たちが桃太郎の頭や肩にとまり、楽しそうにさえずっている。まるで森の中の小動物が桃太郎を歓迎しているようにみえた。

 ユリカはその様子を見て『この人なら信頼できるわ。思ったとおりの人のようだ』、そう思いつつにんまりした。

 暫く歩いていると、綺麗な湖が見えてきた。桃太郎はそこにあった木で出来たベンチに座り、ユリカにもすすめた。なかなか良い眺めである。

 「まあ、こんなに綺麗な湖があるのね」とユリカはホッとしたように辺りを見回した。

「ユリカ、あのペンダントの事を聞きたいんだろう」

「そうよ」

「しかし、あの事については、あまり覚えてはいないんだ。お爺ちゃんと、お婆ちゃんによると、桃のような形をした物体が川から流れてきたので、それを拾ったらその中に赤ちゃんがいたそうだ。それが、俺だったらしい。だから本当の親は知らないんだ」

「そうなの。それで、その赤ちゃんが宝石のようなものを握っていたって分けね」

「まっそういう事だ。あまり参考にならなくてごめん」

「そんな事無いわ。実はね私も持っているのよ」、そう言いながら、ポケットから宝石を取り出して見せた。桃太郎はとても驚き

「え、本当か。ちょっと見せてくれ」、桃太郎は自分の物とじっくり比較してみた。

「ユリカ、全く同じもののようだぞ。いったいこれは何なんだ。お前はいったい何者なんだ?」

 ユリカを見る表情に疑問の色が浮かんだ。

「そうよ、それは全く同じものよ。そして、恐らく私たちの親は同じ使命を持って、同じ場所で生活していたと思うわ」

「なんだって、そんな事が・・・・」

「本当の両親の事を知りたくない?」

「それは勿論だ。知っているのか?」

「いいえ、私は知らない。でも、その宝石が教えてくれる筈だわ」

「この宝石が! いったいこれは何なんだ?」

「実はその宝石は通信装置であり、記憶装置にもなっているのよ。あなたの為に、ご両親は何かメッセージを残してあると思うわ。さあ、私と同じように宝石をこのように持ってみて」

 桃太郎はユリカを見ながら同じような動作をした。

「そうよ、その調子。それで念じてみて、あなたの両親の事を思って見るのよ。あなたの石はあなたの波動にのみ合うように作られているのよ」

 桃太郎は言われるままに念じてみた。そうしていると宝石が青く光だしてきたのである。

 やや驚いている桃太郎に対して、「集中するのよ」と言う言葉が飛んだ。

 桃太郎は、軽く頷く。

 それを見つめていると、その青い光に包み込まれてしまうような感覚が襲ってくる。

 それと同時に意識が次第に遠退いていく。


 ふと気が付くと、暖かい光の中で宙に漂っていた。

 それは決して不快な感じではない。むしろ全ての不安から解放され、母の懐に抱かれたような安心感を与えてくれた。

 すると、二人の男女の顔が現れ、桃太郎に向かって微笑みかけてくる。

 そして、この二人から溢れんばかりの愛が注がれて来るのが分かった。

 桃太郎は、直感的にこの二人が自分の両親だということを理解した。

 まるで桃太郎が誕生してから、故あって別れなければならなくなるまでの時間を追体験しているようであった。

 桃太郎が誕生した時、両親がどれだけ喜んだか、そして桃太郎を抱っこしたり、あやしたり、その愛情の深さを体験した。


 暫くすると、チャンネルを変えたように別の三次元映像が桃太郎の前に現れた。そこには背が高く逞しい男性と、優しげな女性の姿があった。それは、先程見た両親ではあるが、制服姿である。その父親と思われる男性がしゃべりだした。

「私は、アークという。ペルシカ星からやってきた。宇宙平和開拓委員会のメンバーだ。そして隣にいるのが私の妻だ。名前はミノンという。お前は私たちのかけがえのない息子だ。私たちは、お前にソードという名をつけた。しかし、覚えてはいないだろう。地球人から別の名前を貰っているんだろうな。今、お前は何歳になったのかな。ずっと一緒にいたかった。元気なお前に会いたいものだ・・・・。それではなぜお前と離れ離れになってしまったのかを話そう」

 桃太郎は驚きながらも自分の親だと名乗る両親の言葉に鼓動が早くなった。アークの話はまだまだ続く。

「我々宇宙平和開拓委員会が地球を発見した時は驚いた。宇宙に宝石のように青く浮かび上がった地球の姿は実に美しかった。そして空にも地上にも海にも様々な生命体で満ち溢れていた。その種類の多さ、その可愛らしさ、美しさは格別だ。宇宙を長く旅してきたが、これほど変化に富んだ素晴らしい惑星は見たことが無かった。そして、この地球に存在する知的生命体を探った。しかし我々はその地球人を見て失望した。彼らの歴史は戦争の歴史だった。土地を奪い合い、権力闘争に明け暮れていた。その結果、狭い地球に国境線が引かれ、自国の利益を最優先し、地球全体の事はほとんど顧みなかった。また、国や民族毎に、言語が違うため同じ地球人でも国が違えば意思の疎通は難しかった。更に環境を守るという意識よりも、欲望を優先した結果、有害物質が土壌や大気を汚染し、多くの人や動物が健康を害した。また富の分配に偏りがあり、ある地域では食べ物が豊富にあり、彼らの心配は肥満であった。逆にほとんど食べるものが無く、多くの人が餓死している地域もある。我々はこの地球の未来の姿を予想して慄然とした。このままでは近い将来、この美しい地球は崩壊せざるを得ないのかと、そして地球人を信頼出来るのか疑問を感じた」

 桃太郎はこの話を厳しい表情で聞いている。何故なら彼はこの地球も人間も大好きだからだ。

「ところが、さらに地球の様々な文献を調査していく内に、目立たないが実に素晴らしい人間がいる事が分かってきた。かつて人間の中に無欲で人の為に一生を捧げた人物がいた。イエスキリストや釈迦、孔子、ナイチンゲール、アンリデュナン、マザーテレサなど聖人とか救世主とか呼ばれている者たちだ。彼らの教えや、生涯は、様々な書物を通して現在まで伝えられている。地球人の中に純粋に彼らを慕い、彼らのようになりたいと願う者達も大勢いることが分かってきた。また宗教人以外にも良心的な人格者も多くいる。彼らは誠実に生きようと努力している。このように両面性をもつ人類。その為に、この人類の評価をどの様に下すべきか混乱している。一方では我欲に生き、一方では自分を犠牲にしてまでも他者の為に生きる人がいる。なぜこんなにも矛盾しているのか。だから、どのように地球人と付き合うべきか苦慮している。我々が地球人を信頼しても、いつ裏切られるか分からないからだ。我々はワープ航法によって、この広大な宇宙を短時間で往き来出来るようになった。惑星が単独で生活していた時代から、今や惑星同士が連携しより豊かな生活を求める、そんな時代が到来している。地球もまた、単独で存在するのではなく宇宙全体のネットワークの一員となるべきだと思っている。そして、地球は希にみる豊かな星だ。地球人の矛盾せいを突いて、その豊かな星を狙う勢力もあるあるかもしれない。我々はこの地球を守りたい。だが、地球人を信頼出来るかどうかが問題だ」

 桃太郎は複雑な気持ちで話を聞いていた。いったいこの地球をどうするつもりなのだろうかと・・・・。話はまだまだ続く、

「我々が決断を下すまでには、まだまだ慎重な調査が必要であった。ところが予期していなかった事件が発生した。突然ネビロン人から攻撃を受けてしまったのだ。不意の出来事で、まさかネビロン人がこの地球に隠れていようとは思わなかった。彼等はネビロン星のタウ民族だろう。強力な民族主義者だ。彼等が地球で何を企んでいるか心配だ。とにかく我々の宇宙船は深刻なダメージを受け、乗員は全て脱出カプセルを使って地上に降り立つ事になってしまった。彼等の目的が何であるにせよ、ペルシカ人と地球人が手を組んだら困るんだろう。彼等はペルシカ人を怖れている。それで脱出カプセルを使って逃れたペルシカ人を探し回っている。そして私と妻は彼らの追跡から逃れようとしていた。しかし、その際に妻は足を捻挫し歩けるような状態ではなくなってしまったのだ。それで私たちは苦渋の選択をしなければならなかった。ネビロン人に捕まる前に、赤ちゃんであるお前を育児カプセルに入れて近くの川へ流した。親切な地球人に拾われることを願って!さあ、もう追っ手が来るので長くは話せない。母さんも一言、言ってやってくれ」

「必ず生き延びるのよ。そしてあなたが親切な地球人に出会って育てられる事を願っているわ。そうする事で地球人の真実の姿を理解してあげてね。私も出来れば地球人の事を信じたいと思っているのよ?愛しているわよ」

 ここで、両親からのメッセージは唐突に途切れている。

 同時に桃太郎は現実の世界に舞い戻った。

 しかし、そのメッセージがあまりにも強烈であったため、暫くは声も出なかった。

 更に桃太郎は、この映像を見ていた時間が数時間はあると思っていたが、実際には一分も経っていなかった。

 ユリカは、そんな桃太郎の様子を気遣いながら、静かに尋ねた。

「どう、桃太郎さん、どのような内容だったのかしら?」

 桃太郎は、僅かに顔を動かしユリカを見つめた。そして、静かに息を吸い、静かに息を吐いた。

 ややあってから、おもむろに話し始めた。

「いやあ、驚いたよ。俺の本当の両親がペルシカ人で、宇宙開拓委員会だって言っていたよ。それじゃあ君もペルシカ人なのか?」

「そうよ、私もそうなの」、優しい目で桃太郎を見つめる。

「これは驚いた」、桃太郎は、ユリカをまじまじと見た。

 見つめられたユリカは、やや目をそらしながら、「それで、どうなの? ご両親の名前は分かったの?」と問いかける。

「ああ、父親の名はアークと言っていた」

その名前を聞いてユリカはすぐに反応した。

「まあ、アーク船長なのね! じゃあお母様はミノン様でしょ?」

「なんだ、知っているのか?」

「私は知らないけど、お父さんからその名前は聞いてるわ。父と船長とは親友だったらしいのよ」

「そうなのか? 俺を深く愛してくれていた事は分かるんだが---。とにかく会ってみたい」

「そうよねー」

「ただ、ネビロン人に捕らえられているようだ。しかし、そのネビロン人が分からない」

「それに関しては、私の父が色々と調べたわ。父の研究資料を見てみます?」

「そうだな、まず敵を知ることが重要だ。それに君のお父さんにも会ってみたいし」

急にユリカの顔に陰りが見えた。

「実はね、私の両親も数ヵ月前にネビロン人に拉致されてしまったの。でも、お父さんの資料を見せる事は出来るわ」

「そうだったのか。しかし、なぜ今頃拉致なんて?」

「父は、ネビロン人がこの地球で何をしようとしているか掴んだのよ。そして彼等の企みを阻止する為の装置を開発したの。でも詳しいことは、研究所で話した方が分かると思うわ」

「そうか、じゃあ行ってみよう」

「じゃあ、信頼できる人でなければ研究所には連れて行けないわ。でももう私と桃太郎さんは親友ね。親友になった印に握手をしましょう。宜しくね」

 桃太郎は、何となく照れながらも握手をした。ユリカは頼もしい仲間が出来た事に満足した。

 ユリカは、空に向かって「飛雄」と叫んだ。すると、空から急降下して雉が現れバサバサという羽音がしたかと思うとユリカの肩に着地した。

「飛雄、研究所へ行くわよ」

 すると、飛雄が肩から飛び降りるとともに巨大化した。

 ユリカは、その背中に飛び乗り「さあ、桃太郎さんも乗って!」と叫んだ。

 唖然としている桃太郎は、ユリカに驚きの目を向けた。

「大丈夫よ、飛雄は自在に大きさを変えられるの」

 それを聞いて、桃太郎も普段の顔に戻りニヤリとした。

「これは面白そうだな」と言うなり、ユリカの後ろに飛び乗った。中々の乗り心地である。

 その瞬間、羽ばたく音がしたかと思うと、急上昇し始めた。

 あっという間に、周囲の景色が眼下に小さくなって行く。

「はっはっは、これは気持ち良い!良い眺めだ」

 湖や、田畑、集落そして学校などが見渡せた。

 桃太郎も初めての経験に興奮した。

ある程度の高さまで行くと今度は水平飛行を始めた。

「ユリカ、すごい早さだが風を殆ど感じないぞ」

「音速で飛行してるのよ。風を感じないのは、私たちが乗っている周囲にバリアを張っているからよ」

 桃太郎は、ペルシカ人の科学技術に驚いた。

 やがて、眼下に荒涼とした土地が現れた。

「さあ、研究所はもうすぐよ。あの大きな岩が目印よ!」

 飛雄は、その岩目掛けて猛スピードで降下していく。

「ちょっとスピードが速すぎないか?」、桃太郎が心配して尋ねる。

「大丈夫、私を信じて!」ユリカは平然としていた。

 桃太郎が、その岩に激突すると思った瞬間一瞬真っ暗になった。

 直後明るくなると、丸い床の上に着地していた。周囲を見ると円筒形の筒の中にいるように思えた。

 二人は飛雄の背中から飛び降りる。飛雄は、直ぐに元の大きさに戻りユリカの肩に飛び乗った。

「桃太郎さん、ここから地下100メートルまで移動します」

「ここは、エレベータの中なのか?」

「そうよ」

 ユリカがそう言った直後、目の前のドアが開く。

「まさか、もう着いたのか?」

「ふふ、そのようね。重力制御装置が働いていたから、移動していたのが分からなかったのよ」

 桃太郎は、度肝を抜かれた。「ユリカに比べると俺は相当な田舎者だな」

「ごめんなさい。驚かせちゃったかしら?」

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