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嵐の中で

 桃太郎は中学生になっていた。桃太郎の興味はあらゆるものに広がっていった。それにつれて行動範囲も広くなり山奥まで入っていくこともしばしばであった。

 桃太郎は山奥にいたニホンザルとも仲良くなった。彼らは群れを作っていたが、そのボスである『サスケ』とは特に親しくなり色々な情報を聞きだすことが出来た。特に天気の予報に関しては正確であった。また地震などの予報も良く当たった。

 また彼らと遊ぶうちに木登りの腕は更に磨かれ、また猿のようにすばやく木から木に飛び移ったりすることも出来るようになった。

 ある時、桃太郎がいつものように木に登り涼んでいると、猿の『コタロー』がやってきた。

「桃太郎さん。明日は大雨になりますよ。明日の午後になると川が氾濫し、この辺りは水浸しになってしまいますよ。気をつけてください」

「そうか、それは大変だ。皆に知らせなくちゃ。コタロー、ありがとう」。

 桃太郎は急いで村中の人々に、明日は雨が降って川が氾濫するから避難場所である公民館へ行くように知らせた。

 村人たちは半信半疑であったが、桃太郎には今までも色々と助けられているので、その言葉に従うことにした。

 その翌日、未明から雨が激しく降り出してきた。公民館に避難してきた村人たちは桃太郎に感謝した。

 ところがである、避難してきた村人たちの中に万次郎の姿を探し出すことが出来なかった。

「万次郎さんはいるか?」

「いや、どこにもいねえようだ」

「こりゃあ大変だ。こんなどしゃ降りと風じゃ外に出るだけでも危ないぞ」

「万次郎さんは、孫娘との二人暮らしだ、なんかあったかも知れんぞ」

「心配だのう」

村人たちは窓から外を見て、激しい雨と風に尻込みをしていた。

「今にも川が氾濫しそうな状況だぞ」

 その時、桃太郎が立ち上がった。そして、何のためらいもなく言い切った。

「俺が様子を見てくる」。

桃太郎の体は逞しく鍛えられていた。中学生とはとても思えない体つきである。

そんな桃太郎を見て、正一郎は驚いた。

「こんな嵐の中を外に出るなんてとんでもないぞ。レスキュー部隊に連絡すれば良い」

「いや、お爺ちゃん、それじゃあ間に合わないかもしれない。今すぐ行かなくちゃ。万次郎さんをきっと連れてきますから。心配しないでください」。そう言い残すと、桃太郎はすぐに合羽を着て外に飛び出していった。

 洋子もとても心配ではあったが

「お爺さん、あの子を信じましょう。一度言い出したら、てこでも動かないんだから。ね、だから信じて待ちましょう」


 桃太郎は激しい雨と風の中を必死で歩いた。大粒の雨が強く顔に当たってくる。強い風に煽られながら、すべすべする泥道を歩かなければならなかった。

 万次郎の家は川向こうにあった。ようやく橋までたどり着いた。川はかなり増水していたが、何とか渡れる。強い風が吹くと橋は激しく揺れた。

 桃太郎はその橋を一気に駆け抜けた。この橋を渡れば万次郎の家まで直ぐである。

 こうやって漸く万次郎の家までやってくることが出来た。

 桃太郎は「万次郎さん、大丈夫ですか」、と大声で叫んだ。

「おお、ここにいるぞ」奥のほうから万次郎の声が聞こえてきた。

「万次郎さん、早く避難しましょう」

「うん、それはそうなんだが、孫娘が足の骨を折って動けないんだ」。万次郎の体力ではこの娘を背負って、この嵐の中を歩いていくのは無理のようだった。

「桃太郎、お前の忠告を無視した俺が悪かったんだ」

「今、そんな事を言っている場合じゃありませんよ。私が負ぶって行きますから」、桃太郎はそう言うと家の中にあった縄と布を使って娘を背負い、自分の体に縛りつけた。

「万次郎さん、さあ行きましょう。時間が有りませんよ」

そうして急いで、さっき来た道を公民館に向かって戻り始めた。

 雨と風は相変わらず激しいままである。再び橋のところまで来ると、今にも流されてしまいそうな状況であった。

「万次郎さん、急いで渡りましょう」、桃太郎は万次郎を先に渡らせ、その後を追った。万次郎は無事に橋を渡りきった。しかし桃太郎が橋を渡りきろうとした瞬間、橋が崩壊し始めたのである。

 桃太郎はとっさにジャンプし土手の雑草を掴んだ。

 桃太郎の後ろでは、橋がガレキとなって激しい濁流に呑み込まれて行く。

 桃太郎は体の半分以上が水に浸かり今にも流されてしまいそうであった。しかもその背中には万次郎の娘がいる。万次郎はそれを見てうろたえた。

 そんな危機一髪の状況にあったとき、近くの木の上から蔓が桃太郎に向かって投げられた。

「これに掴まるんだ」、そう叫んだのは猿の大ボス『サスケ』であった。サスケは数匹の猿を引き連れていた。

 桃太郎は夢中でその蔓を強く掴んだ。

「サスケありがとう。なんでここが分かった」

「はは、森の中のことは俺には筒抜けさ。桃太郎のような人間がいなくなったら寂しいからな」。

 桃太郎はこうして九死に一生を得た。


 漸く公民館が近くまで見えてくるとサスケは

「桃太郎、俺たちはここで帰るよ。あまり無理しちゃダメですよ。しかし、あんたの事だから無理は承知で動いちまう。そんな所が好きなんだけどな」、そう言いながら、皆を引き連れて森の中へ帰っていった。

「サスケも気をつけるんだぞ」

 こうして桃太郎が公民館へ万次郎とその孫娘を伴って入っていくと、期せずして歓声が上がった。

「おお、桃太郎、頑張ったな」

「よくやったぞ」

 洋子は桃太郎の姿を確認すると走って行ってずぶ濡れの桃太郎を抱きしめた。

「心配したんだよ。でも立派だったよ・・」

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