プロローグ
ケース1
「おい、まだ来ないか?」
「必ず奴は来る。気を抜くんじゃないぞ!」
深夜の草原、ジープの中で二人の男がナイトビジョンを覗いている。
また、彼らの傍らにはライフル銃が置いてあった。
ここは南アフリカ南東部の東ケープ州である。
二人はここ数日、この付近を調査し目指す獣の足跡を追っていて、ついにその通り道を発見していたのだ。
「いつまで待たせる気だ?」
「そう焦るな。これは長期戦になりそうだ」
だが、彼らの待つ獲物は中々現れない。時間ばかりが無駄に過ぎて行く。
時折獣の声がするが、それ以外は静かで単調だ。
強い眠気と闘いながら、コーヒーの空き缶だけが増えていく。
やがて夜が白々と明けて来た。
「ちっ、明るくなって来やがった。こりゃあ、まずいぞ」
「レンジャー部隊に見つかったら、元も子もないぞ! 引き揚げるか?」
二人は仕方なく帰り支度を始めた。
その時である。一人の男が何かを発見した。
「おい、あそこを見ろ! 何かが動いている」
もう一人の男が、双眼鏡を取りだし、その方向を見つめて喜びの声をあげた。
「来たぞ、これは大きい。うまく仕留めるんだ」
二人の男はライフルを構えた。
次第に近づいて来る。その獣は体長4メートル以上もある巨大なシロサイであった。
その角も大きく立派な物だった。
彼らの目当てはその角である。サイの角はアジアでは漢方薬として珍重されており、高値で売買されている。その為、密猟の被害が絶えないのだ。
やがてライフルが発射された。
"バーン"という音が響く。
だがシロサイは倒れない。それどころか密猟者に向かって猛然と突進してきた。
「くそっ、しくじったか!」
「何をやっている。急所を外したな」
もう一人の男が冷静にライフルを構え、サイの急所を狙って撃った。
直後、ドサっという大きな音がして倒れた。
「やったぞ! 急いで奴の角を切り取るんだ」
二人はシロサイに向かって走った。時間を掛ける事は出来ない。
彼らは手際よく角をもぎ取った。
その時、何処からともなく三つの野球のボールよりやや大きめの球体が、地上3メートルの所に出現した。
そして、その球が互いに放電し始め、三つのボールを頂点として正三角形を形作った。
その正三角形は、唖然としている密猟者の上空でバチバチという音を立てながら回転を始めた。
密猟者は、その奇妙な光景を見ながら固まった。
更に回転が早まり、やがてキーンという不快音を発する。すると三つの球体と密猟者もろとも、その場から消え去った。
そして、どこからともなく「密猟者のサンプルを捕獲しました」という声がした。
ケース2
アジアの片隅、今までは農業と漁業で暮らしていたが、最近になって国家が先頭に立って近代化が急速に進められた。
広大な原野が開拓され、国営の工場が次々と建設されていく。
多くの住民は工場労働者として雇われ、現金収入が増え、裕福になっていった。
家も今までの粗末な家から、お洒落な近代建築へと建て替えられていった。
しかし、問題も多くあった。
利益を追求するあまり、環境保護に対する意識が低く、工業排水に含まれる化学物質が河川や湖の生物を死滅させていった。
そして、あれほど美しかった湖には、死んだ魚が浮かび、ヘドロが溜まり、悪臭が漂い始めた。
また、雨は酸性雨となって多くの樹木を枯れさせた。
周辺の農家では作物が育たず、自分達が食っていく事も儘ならなくなった。
また井戸水を飲んでいた住民は体に変調をきたし、癌をはじめとし様々な病を引き起こした。
更に煙突からもくもくと吹き出る煤煙は、風下の人々に喘息を発症させ、呼吸困難で亡くなる人も出始めた。
公害で病気になった人々に対する配慮はなされず無視された。
被害を被った住民たちは、政府の監視をかいくぐって、その工場群に対して抗議運動をするために会合を繰り返し、結束を強めていった。
被害住民による決起の日が来た。
その日の朝、工場正門前に多くの住民が集まった。
ヘルメットを被った者、棍棒を持つものも大勢いた。
この状況を見た工場の責任者は、単なる抗議運動だけで終わらず、大きな暴動に発展するかもしれないと怖れた。
その為、彼は政府に応援を求めた。
集まった住民たちは、一人のリーダーの先導でシュプレヒコールを唱えた。
「公害被害者を保障しろ!」
「環境破壊を許すな!」
「豊かな自然を返せ!」
しかし、工場側は固く門を閉ざし沈黙していた。
業を煮やした住民たちは、塀をよじ登ったり、門の鍵を壊そうとしていた。
更に工場に石を投げる者も現れた。
そしてついに門を破壊し、工場の敷地内へなだれ込んだ。
危険を感じた工場側は、消防用の放水設備を使って応戦する。
住民はずぶ濡れになりながらも、尚も進み棍棒でドアを叩き破ったり、石で窓を割ったりして、暴徒と化していった。
その時、空から轟音が鳴り響いて来た。
武装ヘリが2機現れ、暴徒化した住民の上空にとどまった。
更に暫くすると、装甲車数台が人民軍を乗せてやって来た。
彼らは防護盾を持ち、住民を包囲する陣形をとった。
彼らは拡声器を使って「お前たちの要求は分かったから、今日のところは帰るんだ」と叫んだ。
住民はこれに反発し「信用できるもんか、お前たちこそ帰れ!」とやり返した。
住民の騒ぎは収まるどころか、今まで以上に暴れまわり、人民軍に対しても石を投げ出した。
仕方なく人民軍のリーダーが「催涙弾を投下するように武装ヘリへ伝えるんだ」と部下へ指示した。
すると人民軍は、あらかじめ用意してあったガスマスクを装着し始めた。
こうして、全員の準備が整った頃、武装ヘリから催涙弾が数個投下され、そこここで炸裂した。
白煙がもくもくと立ち込めた。
住民たちは、咳き込んだり、もがき苦しんだりした。
中には、人民軍兵士のガスマスクを奪おうとする猛者もいる。
人民軍は、苦しむ住民を次々と捕らえ始めた。
罵りの声、悲鳴、怒声など、あらゆる声が入り交じり惨憺たる光景となった。
だが、それらの声が一瞬たち消えた。
空からバチバチという大きな放電の音が響いてきたのである。
人々が空を見上げると、放電による電気の帯が大きな五芒星を形成していた。その一辺の長さはおおよそ10メートル程ある。
武装ヘリは、搭載してあった機関砲で攻撃を試みた。だが、その五芒星は何事も無かったかの如く空中にとどまっている。
そして何の前触れもなく、五芒星は急速に回転を始めた。回転が早まるにつれてキーンという不快音が鳴り響いた時、その回転体の下にいた人々が忽然と消えた。
「暴徒のサンプルを捕獲」という音声を残し、放電を続ける回転体も消えた。
ケース3
ある国において、ある少数民族が農業や放牧をしながら暮らしていた土地があった。その土地のある一画にレアメタルが豊富に存在する地層が発見された。レアメタルに対する世界の需要は高まる一方である。
しかしその政府は少数民族を差別してきたが為に、独立の気運が高まっていたのである。その独立運動のリーダーが、レッドタイガーと呼ばれる人物である。
政府は自国の経済発展の為にも独立を阻止し、その土地を確保したかった。その為に強制的に彼らの土地を没収し、他の土地へ移住させようとした。
少数民族は、これに猛反発した。先祖代々の土地を奪われ、他の土地へ移住するというのは、彼らには考えられない事であった。
再三再四行われる立ち退き命令を無視し続けた少数民族は、政府の動きを警戒し、バリケードを作り、徹底抗戦の構えを見せた。政府は警察を動員し、バリケードの排除を試みるも、火炎ビンなどの抵抗にあい目的を達成する事は出来なかった。
この状況を見て、レッドタイガーは吠えた。「奴等がその気なら、こちらにも考えがある」
数日後の深夜、警察大臣の豪邸にバズーカ砲が撃ち込まれた。
幸い大臣は外出中で事無きを得たが、留守番をしていたメイドが重症を負った。
政府は、レッドタイガーの一味をテロ集団とみなし、彼らの本拠地を叩く作戦を立て実行した。
戦車数台、装甲兵員輸送車多数が、少数民族のいる土地へ侵攻していった。
まずは、彼等に向かってロケット弾が発射された。
少数民族の構築したバリケードや、めぼしい建物、民家等が次々に破壊されていく。
次に戦車を先頭に歩兵が鉄砲を構えながら進んで行く。時折、戦車の火砲が火を吹いた。
ある程度近づいて行くと、あちこちから機関銃やバズーカ砲が撃ち込まれて来る。
兵士たちも、それに応戦する。
激しい戦闘である。だが武力の差は大きく少数民族は次第に押されて行く。
だが、そこへ複数の武装ヘリが突如出現した。
その武装ヘリが、ロケット弾を使って政府軍を攻撃してきたのである。
ヘリの側面には隣国の国旗のデザインが施してあった。
予想外の敵の出現に政府軍に動揺が走った。
実はレッドタイガーは、隣国と協議を重ねていて、万が一の時に支援して貰うことを約束していたのである。
その隣国は、レッドタイガーと同じ民族が支配する国であった。
これで戦況は分からなくなった。
政府軍にも多くの死傷者が出始め、両者ともに尊い命が次々に奪われていく。
炸裂する爆弾、機関銃の音、人々の叫び声、呻き声、地獄絵図のような光景が広がる。
しかしこの時、空の端から何かが煌めいていた。
そして、この戦闘地域に向かって降りて来ている。
やがて、肉眼でも見える位の大きさになる。
かすかにバチバチという音がするが少数民族も兵士たちもまだ気付かない。
次第にその音が大きくなる。
そしてついに、爆発音よりも大きくバチバチという放電の音が鳴り響いた。
人々は思わず空を見上げると、武装ヘリよりも更に上空に巨大な六芒星が現れた。
その六芒星の辺は、放電によって生じた電気の帯である。
レッドタイガーは「なんだあれは? 政府軍の秘密兵器か? 撃ち落とせ!」と命令した。
しかし、政府軍も敵のものかと思い、両者がその六芒星に向かって機関砲やロケット弾を撃ち込んだ。
だが、その六芒星は悠然と空中に浮かんでいる。
やがて、その六芒星が回転し始め、それが早くなるにつれて、不快音がキーンと鳴り響いた。
兵士たちも、少数民族も耳を押さえて耐えた。
暫くして、その音が消えると、その回転体の下にいた人々、さらには戦車や武装ヘリ等も一緒に消え去った。
そこに例の音声が響いた。「戦闘地域における兵士及び、兵器のサンプルを捕獲」
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ある一室に大男が豪華な椅子に座っている。すると彼の目の前に光の渦が出来、その光がやがて人の形となった。それは椅子に座っている男に挨拶をし喋り出した。
「ゾーン閣下、今日は良いサンプルを取って参りました」
「そうか、それは良かった」太く落ち着いた声である。
「造作もないこと。人間は野蛮で強欲、それに彼らの武器は原始的ですぞ」
大男はその話を聞いて深く頷いた。「計画は順調だな!」
「仰せの通りです」