表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
re-LIFE  作者: 田中タロウ
55/73

第4部 第14話

私たちは目の前の光景が信じられず、数メートルの距離を開けたまま足を止め、お互いの顔を見つめあった。

きっと私、相当間抜けな表情をしてる。


でも、ノエルだって負けてない。


「・・・こんなところで何やってるんだよ」

「・・・そっちこそ」


ようやくそんな言葉のやり取りがされた後、またしばらくの沈黙。

そして・・・私たちは同時に吹き出した。


「し、信じられない!何やってるのよ、ノエル!?」

「桜子こそ。ここ、アメリカだぞ?」

「知ってるわよ!・・・しかもここ、ニューヨークじゃないわよ」


その一言で2人の笑い声が止まった。私が何を伝えたかったか、ノエルも分かったのだろう。

だけどノエルは、そして私も、もう爆笑こそしてはいないものの、顔には穏やかな笑顔が残っている。1人笑顔でないのは、ノエルの横で不安そうにノエルを見上げている女の子だ。


「こうやってまた会えるなんて運命ね」

「そうだな」


何故かまた2人に笑いが込み上げてくる。不安そうな女の子の手前、私は手で口元を覆って必死に堪え、ノエルは笑いを隠すように身体を折って「ククク」と小さく笑う。

そしてノエルは顔を上げ、その視線が私の口元で止まった。


「・・・その指輪。桜子、結婚したのか?」

「うん」


もう遠慮はいらないだろう。案の定、ノエルは「そっか。おめでとう」と爽やかな笑顔を返してくれた。皮肉屋のノエルにしては珍しいくらいの爽やかさだ。

だけどノエルはその笑顔のまま、とんでもないことを言い出した。


「実は俺もなんだ」

「え?」

「俺も結婚した」


結婚?ノエルが?


あんぐりと口を開いている私をクスッと笑い、ノエルが自分の左隣にいる女の子を見る。すると女の子は「ハッ!私のことだ!」と言わんばかりに本当に「ハッ!」とした表情になった。なかなかユニークな子だ。


「妻のナツミと申します」


ユニークさの裏を付く丁寧な言葉遣い。丁寧なお辞儀。ちょっと世間知らずな良家のお嬢様という感じだ。


「は、はじめまして、本竜桜子です」


驚きの余り、旧姓で挨拶してしまう。

だって「妻」って。ノエルの妻って。

信じられない。


「ノエル、今まだ19歳でしょ?」

「桜子だってたいして変わらないだろ。いつ結婚したんだよ?」

「今年の1月」

「勝った。俺、去年の3月」


勝ったってなんだ。って、去年の3月?


「高校卒業してすぐに結婚したの!?」

「うん」

「どうして!?」

「色々と事情があってナツミの家の養子になったんだ。だから俺、今は『月島』じゃなくて『寺脇』。寺脇ノエル」


養子・・・。ますます信じられない。

だけど、「な?」というようにナツミさんを見るノエルの目は優しくて、そしてちょっと不安そうではあるけどノエルを見るナツミさんの目は信頼に溢れていて、確かに2人が夫婦だと感じさせられる。


私は改めてノエルを見つめた。

ノエル、大人になったな。見た目もだけど、なんだか中身がどっしりした気がする。


そんな「大人」なノエルがナツミさんに私との関係を端的に説明した。


「この人は俺の中高の先輩なんだ」

「・・・先輩?」


わざと「先輩」の一言で片付けたわね?でも、散々「先輩」のことを呼び捨てにしたりタメ口きいたりしといて今更「先輩」はないんじゃない?ほら、ナツミさん、全然納得してないじゃない。


「先輩って、ただの先輩?部活とかの?」

「うん、生徒会の。1年くらい付き合ってたけど」

「・・・」


ナツミさんに嘘は付きたくないのか、ナツミさんが突っ込んでくるとノエルはあっさりと認めた。でもこの場合、嘘をついた方がいいか正直に話した方がいいかは微妙な問題だ。相手の性格によるだろう。

ナツミさんがどういう性格か私には分からないけど、取り敢えず私を睨んで「不安全開!」って顔をしてる。まあ、後のことはノエルに任せよう。


その時、ナツミさんの携帯が鳴り出した。出なくてはならない相手なのか、ナツミさんはディスプレイを見ると私に軽く会釈をして(睨んだまま)少し離れたところへ歩いて行った。


「可愛らしい奥さんね」

「顔が?性格が?」

「どっちも」


ノエルがため息をつく。


「顔はともかく性格はな・・・可愛すぎて困ることがある」

「ああ、そんな感じね。私とは全然違うタイプ」

「うん」

「ふふ、幸せそうね」

「まずまずな。一緒に暮らせればもっといいんだけど」

「え?一緒に暮らしてないの?」


不安そうに時折私たちの方をチラチラ見ながら電話しているナツミさんにノエルが軽く手を振ると、たちまちその不安が笑みに変わる。

ノエルは、頬がふっくらとしているナツミさんの横顔を見ながら言った。


「俺は1人でこっちに住んでる。仕事しながら大学に通ってるんだ」

「ナツミさんは?」

「この前、日本の高校を卒業したところ」


すごい。学生結婚だったんだ。しかも私みたいな「大」学生結婚じゃなくて「高」校生結婚。なんか政略結婚の匂いがプンプンするけど、本人達が至って幸せそうだからどちらかと言えばノエルとナツミさんが親の政略を逆に利用したのかもしれない。


「でも卒業したんだったら、これからはナツミさん、こっちに住むんでしょ?」

「いや、日本の短大に進む。やりたい勉強があるんだって」

「へえ・・・意志が強いんだ」

「見かけによらず、だろ?」


私とノエルは笑い合った。

短大でやりたい勉強があるのなら、その後も日本で働くのかもしれない。そうなると2人が一緒に住めるようになるのは何年も先だ。だけどこの2人ならきっと大丈夫。私が言うのも変かな?


「私とやり直すためにアメリカに来たんじゃないんだ?」


ちょっと意地悪をしたくて、わざとそんなことを聞いてみる。でもノエルは私のそんな大根演技はお見通しだ。


「残念ながら」

「正直ね」

「桜子こそ、結婚してるってことは俺と会うためにアメリカまで来た訳じゃないんだろ?」

「そんなことないよ。私はノエルに会うために来た。・・・旦那の出張にくっついて」

「ほらな」


ノエルは得意げにそう言った後、少し声を小さくした。


「でもせっかくこうやって約束の時に約束の場所で会えたんだ。ニューヨークには一緒に行かないか?」

「いいの?ナツミさん、嫌がらない?」

「ナツミとの結婚より桜子との約束が先だったから。俺、約束破るのは嫌だ」


出た、ノエルの「嫌だ」。懐かしいな、この感じ。


「ありがとう。じゃあ約束通り、3月19日に一緒に自由の女神、見に行こう」

「あ・・・悪い。19日はダメなんだ・・・」


ノエルがバツの悪そうな顔をする。


「えー?そうなの?」

「うん・・・19日って日本時間の20日だろ?・・・結婚記念日なんだ」

「ナツミとの結婚より桜子との約束が先だったから、って言ったのはどの口よ?」

「ごめん・・・。俺達、結婚式挙げてないんだ。代わりにって訳じゃないけど、結婚記念日だけは一緒に過ごそうって約束してる」

「へー」

「茶化すなよ」

「結婚式、ずっと挙げないの?」

「10年後の結婚記念日に挙げようと思ってる」

「ほー」

「桜子・・・あのな」

「ふふ、ごめんごめん」


10年目の結婚式か・・・。

聖と私も2回とも結婚式を挙げていない。でも10年経ってから挙げるというのもいいかもしれない。結婚式というイベントそのものよりも、10年後も変わらない愛があるという確認をできることが。


「結構キザね、ノエル」

「そんなんじゃないって。単にタキシードを着るのが恥ずかしかったんだ。18の男が着て似合うもんじゃないだろ、あんなの。でも10年後なら俺も28歳になってるから、着てもいいかなと思って」

「そうなんだ。ふふ、楽しみね、ナツミさんのウエディングドレス姿」

「と、とにかく、19日はダメなんだ。18日でいいか?日本時間で19日だから一応桜子の誕生日だし」

「仕方ない。それじゃあ明後日で手を打とう」


まさかのシチュエーションでの突然の再会にも関わらず、私とノエルの時間はすぐに高校時代に戻った。でも2人の関係は決定的に変わっている。そしてこの関係はこのままずっと続いていくのだろう、そんな予感がする。それはそれで素敵なことなのかもしれない。


だけど私とノエルの約束は、一筋縄では果たされなかった。

それは、ここアメリカでノエル以上に驚きの人物と再会したからなんだけど・・・

ノエルとの再会を雷に喩えるのなら、それはまさに富士山の噴火のような再会だった。

私にとっても、相手にとっても。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ