表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
re-LIFE  作者: 田中タロウ
4/73

第1部 第3話

中等部の部活紹介の手伝い!?

なんで私がそんな面倒なことしなくちゃいけないの!?

私、高等部の生徒なのよ!

じゃなかった、28歳なのよ!

もうとっくに卒業してるんだから!


・・・と。これ、夢だったんだっけ。


落ち着け私、と自分に言い聞かせ、

時間稼ぎの為に曖昧な笑顔を作りながら私は猛スピードで頭の中の日記帳をめくった。


ない。

中等部の部活紹介の手伝いを頼まれたというページも、実際に手伝ったというページも、日記帳のどこにもない。


なんで?

そりゃ夢だから現実にあったこと通り進まなきゃいけない訳じゃないけど、今までは全く現実通りだったのに、なんで急に現実にはなかったことが起きるの?


夢だから、と言ってしまえばそれまでだけど、なんか引っかかる。


「本竜さん。いいね?」


出席にはうるさいくせに、いつも早く生徒会を終わらせたがる委員長が、「いい?」じゃなくて「いいね?」と言ってくる。


良くないわよ、全然!


そんな思いで月島君を睨むと、月島君は懇願するような目で私を見ていた。

月島君と言えども、初めての大仕事が不安なのかもしれない。


なによ。そんな目しないでよ。


高1の私ならそんなのお構い無しに「お断りします」と言っただろうけど・・・やっぱり大人として、子供は見捨てられない。

私は諦めて肩を落とした。


「・・・分かりました」


とたんに月島君がホッとして破顔した、ように周りには見えただろう。


だけど私には分かった。

月島君の目がニヤリとしていたことが。


・・・こいつ!!!

困った振りして私を巻き込んだな!?


私は思わず顔を赤らめて月島君をもう一度睨んだ。


だめだめ、もう遅いよ、本竜先輩。

と言わんばかりに、月島君はついっと前を向く。


やられた!!!


「では、部活紹介は月島君と本竜さんが担当ということで。今日の生徒会はこれで終わります」


終わりますじゃなーい!

前言撤回!

絶対手伝ったりなんかしないんだから!


って、ん?

終わり?これで?


「あ、あの!」


頭で考えるより先に口が動いた。

ついでに身体も動き、腰がスチールの椅子から浮く。


委員長は驚いた顔をして、ノートを閉じていた手を止めた。


「なんですか、本竜さん」

「あ。ええっと・・・もう終わりですか?」

「はい」


ええ?

歓迎会の流れと部活紹介の担当を決めただけで終わり?

そんなんで歓迎会、大丈夫?もっと細かいことも決めておいた方がいいんじゃない?


そう言えばこの委員長、いっつもこうだった。

大まかなことだけ決めて、後はその場で適当に考えて対応するんだった。

だから「その場」で私たちはいつも困ってたんだ。


でもそんなこと、わざわざ私が進言しなくても・・・


だけど椅子から浮いた腰を今更何も言わずに下ろす訳にはいかない。

月島君が私を見ているのを視界の端で感じながら、私は腹を据えた。


「あの・・・えっと、案内の紙とかを作った方がいいと思います」

「紙?」

「はい。歓迎会の日のスケジュールや担当者、連絡先が書かれた紙です。

在校生には事前に、新入生には入寮の日に配るんです」

「そんなの、今まで通り口頭で連絡すればいいじゃないですか」


委員長がパタンとノートを閉じる。

くっ。こうなりゃヤケだ!


「でも!新入生は緊張してるし、新しい環境でトイレの場所一つ覚えるのも大変です。

いくら海光の入試に受かった子たちだと言っても、小学校を卒業したての11歳だし・・・

学園内の地図も作って、部活紹介をする場所や立食パーティをする食堂の場所も分かるようにしてあげた方がいいんじゃ、」

「僕もそう思います」


突然左前の席から声がした。

その目はもう笑ってはおらず真剣だ。


「僕も去年入寮したとき、右も左も分からずに困りました。地図は便利だと思います」

「・・・」


委員長は無言のままだ。でもその手はまたノートを開いている。

どうやら月島君の発言には力があるらしい。


ちょっと悔しいけど、月島君の口から次々に出てくる言葉には、話し方には、

「力」があった。


「新入生の入寮日は入学式の2日前の春休み中です。実家に帰省中の在校生も多くて、新入生は相談できる人もおらず、『食堂はどこだろう』『外出してもいいのかな』『誰に聞けばいいんだろ』と、不安になります。そういう心配事を相談できる窓口的な人がいた方がいいと思います」

「それはつまり、強制的に誰かに、帰省をせずに新入生のお守りをしろと命令するということですか?」


そんな酷な事やらせれるはずないだろう、という考えを委員長は言葉の裏に滲ませた。

その実、そんな面倒なことを議論したくないだけだとは思うけど、確かに月島君の提案には無理がある。

在校生だってみんな、親元を離れて寮生活している子供だ。長期休みくらい実家に帰りたい。


口には出さないけど、この部屋にいる全員がそう思っているのは明らかだ。


だけど月島君は怯まなかった。


「はい」

「でも・・・」

「何も、春休みの間ずっと帰省するなと言っている訳ではありません。春休みは2週間あります。入学式は1学期の始業式の2日前です。いつもより2日か3日早く学校に戻ればいいだけです」

「・・・」

「それに新入生は50人。面倒見役は1人か2人で充分です。それで新入生全員の不安を取り除けるならやる価値はあると思います」

「・・・誰にやらせるんだい?」


そう。それが問題だ。そんなこと、誰だってやりたくないに決まってる。


「基本的には在校生から募集するのがいいと思いますが、どんな問題が起きるか分からないから最初の年は生徒会の人間がやった方が良いと思います。来年からは、面倒見役をやってくれた生徒には何か特典を与えるという風にすれば、結構応募する人がいるんじゃないでしょうか」

「特典?」

「寮の共同スペースの掃除を1ヶ月免除とか」


あちこちから「おお!」という声が上がった。

寮の共同スペースというのは、お風呂やトイレなんかのことだ。この掃除当番は、生徒会が決めた順番で回ってくるんだけど、生徒数が少ないからかなりの頻度で当番に当たってしまう。

これを1ヶ月も免除してもらえるなら、確かにおいしい!


「なるほどね。それはいいかもしれない」


珍しく委員長がすんなりと月島君の提案を受け入れた、と思いきや。


「でも、最初の年を担当する生徒会の委員にはその特典は与えられない。自分で自分にご褒美をあげるようなものだからね。それでもやるという委員がいるなら、やってみようじゃないか」


委員長は挑みかけるように月島君にそう言った。

高2のくせに中1の子供にムキになるなんて大人げない。


だけど、委員長が大人げないなら、月島君は子供げなかった。


「僕がやります」

「え?月島君が?」

「はい。もちろん特典はいりません」

「・・・そんなことして、月島君になんのメリットがあるんだ?」

「ありません。時間的に拘束されるという意味では僕にとってはむしろデメリットかもしれません。

でも新入生50人にメリットはあります。1人のデメリットと50人のメリット、差し引きして49人のメリットが期待できます。全体としてメリットの方が大きいなら、やるべきでしょう?」

「・・・」


委員長が言葉を続けれずに黙り込む。


なんとまあ筋が通っているというか、理屈っぽいというか。

だけど説得力はある。

中1のくせに、なかなかやるじゃない。


「委員長」

「・・・なんですか、本竜さん」

「私もやります」


「え?」と言ったのは委員長ではなく月島君だ。


「いくらなんでも月島君1人じゃ大変でしょう?どうせ部活紹介の準備も一緒にしなきゃいけないんだから、新入生の面倒見役の方も手伝います」



月島君の提案は、高く上げられた8つの手によって承認された。

残る2つの手の1つは提案者の月島君。

もう1つは委員長。

だけどこの生徒会は純然たる民主主義だ。


こうして月島君と私の大仕事が始まった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ