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re-LIFE  作者: 田中タロウ
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第2部 第2話

必死になり過ぎるのは醜い。ずっとそう思ってきた。

いつも一歩退いたところにいるのが利口なのだとも。

恋愛に関しては特にそうだ。


片思いは疲れるだけ。

両思いになれば周りが見えなくなる。

追いすがるなんて愚の骨頂。


だけどそんなのは恋愛をしたことのない人間のひがみだということが、いきつもどりつ色んなことを考えた結果、ようやく分かった。


愚の骨頂?

いいじゃない。臨むところよ。

愚でもなんでも極めたもん勝ちなんだから。


1年3ヶ月の間に何があったのか知らないけど、このまま泣き暮れていてもノエルは戻ってこない。

戻ってこない方がいいのかどうかも分からない。

私が取るべき道は二つに一つ。

きっぱりと諦めるか、追いすがるか。


そして私は決めた。


「あんた」になんか負けないんだから。


私は心の中で過去の自分にガンを飛ばし、月が照らす学園内の歩道を今にも走り出しそうなスピードで進んだ。


男子寮は女子寮と300メートルほど離れていて、その真ん中に食堂がある。

ちょうどみんな夕ご飯を食べ終える時間らしく、女子寮から食堂までの間は寮に戻ってくる女子生徒たちに逆らうように歩き、食堂から先は男子生徒たちの流れに乗って歩く。

そういう訳で私はかなり浮いていたけど、「恋は盲目」とはよく言ったものだ。

この言葉も以前は悪い意味に取っていた私だけど、今はこの言葉を考えた人にノーベル平和賞を贈りたい。


そして私の執念が通じたのか、

男子寮の前に辿り着くと同時に、私を盲目にしている張本人が2人の友達と一緒に寮から出てきた。


友達たちが逸早いちはやく私に気付き、ニヤニヤしながらノエルを見る。

まだ別れ話をしたことを言っていないらしい。

それって、寄りを戻す可能性があるって思ってるから?


そう願いたい。


「ノエル、俺たち先行ってるわ」

「ああ」


ノエルが、なんてことはないという風に応える。

だけど友達が食堂の方へ歩いて行くのを見送ると、ノエルは私から視線を逸らすかのように地面を見た。


「何?」

「・・・」


言うことは決めている。

ちょっとの勇気が必要なだけだ。


だけど私に口を開かせたのは勇気ではなく、ノエルを失うという恐怖だった。


「ノエル。昼間はごめんね。私、やっぱりノエルと一緒にいたい」

「・・・」


今度はノエルが黙る。

私は構わず続けた。


「私、ノエルが好きなの。だから・・・別れたくない」


自分から別れ話を切り出しといて、何言ってるんだ。

きっとノエルはそう思ってる。私も思ってる。

だけど理屈じゃない。

私はノエルが好き。それだけだ。


そして「好き」という言葉を口にして気が付いた。

高校1年生の私は確かにノエルを好きだったけど、高校3年生の私はもっとノエルを好きになっている。

だってこの苦しさは半端じゃない。

私は、ノエルのことを大好きなくせに、何かの理由で別れる決意をしたんだ。


それほどまでに私を追い詰めたものはなんなのだろう。


ノエルが顔を上げ、私を見る。その瞳は月明かりに揺れていた。


「そんなの知ってるよ」

「・・・」

「俺だって桜子が好きだ。別れたくない。でも、桜子はそれでも俺と別れるって決めたんだ。一時的な感情なんかで別れるのをやめたら、桜子はきっと後悔する」

「しない!勝手に決めないで!」

「決めたのは俺じゃない。桜子だ」

「!」


そう。そうよね。私が決めたんだ。

だけど。


「いや・・・別れたくない」


大粒の涙がポロポロとこぼれる。

男を涙で繋ぎとめるような女なんて、卑怯で芝居染みてるって思ってたけど、こういう時って本当に涙が出るんだ。


寮の入り口あたりで人の気配がした。

私にはそれを見る余裕はなかったけど、ノエルは私の手を引いて寮の裏側に移動した。

そこは林というほどではないけど、木々が立ち並びちょっとした「自然」になっている。


「振って、やっぱ取り消しって言って、泣いて・・・どんだけ我がままなんだよ」


歩きながらノエルが心底呆れたような声で言う。

私は目を擦って、私を引っ張って前を歩くノエルの後姿を見た。

背が高くなって背中も肩幅も広くなって・・・中1の時より髪も伸びている。

なんだか「男」を感じる。


その時、私の中である気持ちがパンと弾けた。

抱き締めたい。

この背中を思い切り抱き締めたい。


私は強引に足を止めた。

腕を引っ張られたノエルが振り返る。

と、同時に。今度はノエルが強引に私の腕を引っ張った。


気付くと私はまさに「すっぽり」という感じでノエルの腕の中にいた。

やっぱりノエル、背が伸びた。

体感して改めてそう思う。


ドキドキはあまりしない。

ただただ居心地がいい。


自然と手がノエルの背中に回り、それはまるで決められているかのように一番しっくり来る場所に着地した。


きっと私、こうやって何度もノエルに抱き締められてたんだ。


お互いの息遣いが交わる。

身体が外気より熱くなる。


私は気が遠くなりそうな快感に襲われた。

まるで天国の中にいるみたいだ。


だけどその天国はすぐに離れていった。


「約束を・・・」

「え?」

「今年の桜子の誕生日にした約束だよ」


ノエルが私の両肩を掴んで腕を伸ばした。

二人の体が遠ざかる。


そしてノエルは私の目をまっすぐ見て、こう言った。


「あれを実現できたらやり直そう」







バサバサバサ!


大量の本が本棚から落ちる。

私はその一つを手に取りざっと目を通して、次の本へと手を伸ばした。


約束って何?

そう聞きたかったけど、

真剣なノエルの表情を見ているとそんなこと「忘れたから教えて」とは言えない。

ましてや「知らないから教えて」なんて。

だったら自分でその「約束」を探すしかない。


部屋に飛んで帰って最初に見たのは携帯のメールの受信箱だった。

だけどそこにはおろか、アドレス帳にもノエルの名前はなかった。

まだ携帯を持っていないらしい。


そして次に私が手をつけたのが本棚だ。

日記があればベストだけど、28年間そんなものはつけたことが無いから、あまり期待できない。

それならスケジュール帳とかメモ帳とか、なんでもいい。

私の17歳の誕生日にノエルとした約束が分かるものであれば。


だけどそう都合よくそんなものは見つからない。

私は床に散らばった本の間にペタンと座り込んだ。


一体どんな約束したんだろう。

一緒の大学に行こうとか?

どこかに一緒にでかけようとか?


ノエルとの約束なんて大事なこと、どうしてなんの手がかりも残してないのよ、私!


本の隙間から覗くカーペットを思わずギュッと握り締めた。

すると、そこからカサッという変な音がした。


なんだろうと思って見てみると、ごく普通の茶封筒だ。

住所も宛名も差出人も書いてないし封もしていないということは、私が何かを入れて保管していたということだろうか。

本棚に忍び込ませてあるなんてまるヘソクリみたいだ。

実際、感触からしてお札くらいの大きさの紙が何枚か入っているように思える。

まさか本当にヘソクリとか?


だけど中を見てみると、そこにはとても意外な物が入っていた。


どうして私、こんな物を持ってるんだろう?


「うわ!桜子さん!?本棚ひっくり返して何やってるんですか!?」

「あ。小島さ・・・シズちゃん」


トイレ掃除から戻ってきたシズちゃんが、本まみれの部屋を見て目を丸くする。


「もー!体調悪いなら、ちゃんと寝てなきゃダメじゃないですか!」


シズちゃんはそう言いながら、本の合間を踏んで私の方へやってきた。

「体調が悪いなんて嘘だったんですね!?」と怒ることなく、さっきから言動のおかしい私を本気で心配してくれてるみたいだ。


小島さんてこんなにいい子だったんだ。昔は気付かなかった。

ううん、気付こうとしなかった。


そんなことを思ったせいか、私は思わずポロっと本当のことを口にした。


「私の誕生日にね、ノエルと何か約束したみたいなんだけど、それを思い出せなくて・・・」

「ええ?」


シズちゃんが更に目を丸くする。だから私はてっきり、「それでどうして本棚をひっくり返してるんですか?」という返事が返ってくるのかと思ったら。

シズちゃんは大きな声でこう言った。


「あんな大事な約束、忘れちゃったんですか?」





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