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re-LIFE  作者: 田中タロウ
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第1部 第12話

ノエルと美術館へ行った翌日、私は暇を持て余していた。

だってノエルが「今日は姉が『どこかに連れて行ってあげる!』とか言うから、付き合ってきてあげてくる」と、よく分からない日本語を言ってきたから。

多分ノエルのお姉さんとしては、全寮制の学校から久々に帰ってきた弟に「弟孝行」しようとしてるんだろうけど、ノエルからしてみればお姉さんに付き合うのは「姉孝行」なのだろう。


ところでこの「ノエルのお姉さん」、海光ではないもののかなりレベルの高い私立高校の1年生らしい。

つまり、私と同い年。

うーん、もしノエルと私が結婚したら、同い年でも「お義姉さん」って呼ばなきゃダメなのかな?


そんな妄想でにやけていても春休みの宿題は終わらないので、ノエルに会えない春休みの火曜日、私は頭の中の古い引き出しを引っ張り出して、机に向かっている。

だけどこれが結構、いや、かなり厄介だ。

現実では私は28歳。高校を卒業して10年も経つ。

大学の医学部でみっちり6年間勉強してきたから生物と英語は難なくこなせるけど、その他の科目は数学でさえお手上げだ。


ああ、やっぱりこれ、夢だったらいいのに。そしたら宿題や勉強から解放されるのに。

昨日はこのまま時間が続けばいいとか思ってたくせに、そんな甘っちょろい考えが頭をよぎる。


だって!このまま時間が続くということは、またあの受験地獄を味わわないとダメって事なのよ!?

高校1年の宿題ですらこれだけてこずってるのに、受験なんて絶対に無理!

ましてや医学部なんて!


私が卒業した大学は世間的には「一流」と呼ばれている私立大学の医学部だ。

受験勉強の量も半端ではなかった。

加えて、海光は将来経営者を目指す生徒が多いので、基本的にみんな文系だ。

そんな中、理系で、しかも医学部を目指している生徒なんて私くらいなもので、他の生徒より勉強しずらかった覚えがある(教師も文系に重点を置いた進路指導をするから)。

将来は医者になって家を継ぐと決まっている私は海光なんかに入学するべきじゃなかったのかもしれない、と何度思ったことか。

でも人付き合いが苦手な私には、海光という特種な空間は居心地がよかったから、入学したことを悔やんだことはない。


だけど、このやり直しの人生でも私は同じ大学の同じ医学部に進まなくてはいけないんだろうか?

そもそも私が医者になろうと思ったのは家が開業医で、一人っ子の私が継ぐのが当然だと思っていたからだ。

でもよくよく考えてみればそんなこと、パパにもママにも言われたことがない。私が勝手にそう思い込んでいただけだ。

もちろんパパ達も口には出さなくても期待していただろうけど、もし私が別の道を強く希望すれば反対しなかっただろう。


だったら、私が本当に行きたい大学って・・・


私はノートから顔を上げた。


そう言えば、ノエルはどこの大学を受験するつもりなんだろう?

まだ中1だから具体的には考えてないだろうけど、現実の世界ではノエルは今25歳だから、とっくに大学を卒業してるはずだ。

その大学が分かれば、私が先回りして入学できるのに。

そうすれば同じ大学に通えるのに。

私とノエルは3歳差だから大学で一緒に過ごせるのは1年だけだけど、少しでも同じ時間を、同じ空間を共有したい。

いや、私が医学部に進めば6年間は大学にいられるし家も継げて一石二鳥だ。

ノエルは国公立の文系に進むだろうから・・・私はその国公立の医学部?


うわ。勉強を厄介だとか言ってる場合じゃない。


私は慌ててまた机に向かった。





午後7時。

頑張った甲斐あって、ようやく宿題に一区切りつけることができた。

それに少しずつだけど勉強の仕方も思い出した。

そりゃ昔あれだけ勉強したんだもんね。ちょっと歳とったくらいで全部白紙じゃ意味が無い。


だけどさすがに何時間も宿題をしていたので集中力が途切れた。

お腹もすいたし、今日はここまでにしよう。


もう一度時計を見えると、7時5分を少し回ったところ。そろそろ夕ご飯の時間だ。


食べ終わったら・・・もう勉強は無理だな。でも、見たいテレビがあるわけでもないし・・・ノエルに会えないかな。もう家に帰ってきてるよね?


だけどノエルの家に電話するのは気が引ける。

3日前、「許婚が来るから会えない」ということを伝えるために電話した時は、最初にノエルのお母さんが出てかなり緊張した。

こういう時、ノエルが携帯を持ってたら気軽に「今から会えない?」ってメールできるんだけどな。


・・・会いたいな。

私は鳴るはずのない携帯を見つめた。


私、本当にノエルのことが好きになったんだ。


この世界がなんなのかとか、自分が何歳なのかとか、これから私はどうなるのかとか。

もうそんなことはどうでもいい。

ただ、今私はノエルのことが好きで、一緒にいたい。

それだけだ。

人を好きになるって、そんな単純なことなんだ。


私と聖は複雑過ぎた。

お互い好きでもないのに、許婚という関係に縛られ過ぎていた。

その結果が、離婚したくてもできない仮面夫婦だ。


昔一度、私たちの婚約が破棄になりそうになったことがある。

聖が親に相談もせず勝手に大学を辞めたことに伴野のおじ様が怒り、聖を勘当したからだ。

私は内心とても喜んだのだけど、やっぱり聖は意地もプライドもなく家に戻ってきて、おじ様の経営する伴野建設の社員に収まった。

そしてそのお陰で私との婚約も継続された。


あの時聖がそのまま家に帰らなければ、私は聖と結婚せずに済んだのに。


せめてこの世界では、聖と結婚せずにいたい。

でも、そうするにはどうしたらいい?


許婚、勘当、結婚・・・。


頭の中で色んな単語が駆け巡る。

そして最後に頭に浮かんだんのはノエルの顔だった。


・・・そうだ。

いい事を思いついた。


私は携帯をポケットに入れると、薄手のコートを羽織って家を出た。






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