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Short Short Circuit

距離感が

作者: 境康隆

「えっ? 結婚する?」

「うん」

「結婚てあれ? 相手は、前言ってたあの人のこと?」

「そうよ。他に誰がいるのよ。遠距離恋愛の彼よ」

「遠距離恋愛なんて、絶対続かないと思っていたわ」

「まあね。てなわけで、友人代表挨拶お願いね」

「ええ、それはいいんだけど」

「あはは。それにしても、驚いたって顔してるわよ。大口開いているわ」

「あなたの真っ赤な顔よりマシよ。あなたこそ、耳まで赤いわよ」

「そんなに赤い。分かる?」

「分かるわよ。まあ、何よりあれね。結婚おめでとうってことよね」

「ありがとう」

「でもよくそこまで話が進んだわね。トントン拍子じゃない。そう言えばあまりに急な話で、直接紹介されたこともないわ。どんな人? 優しい人?」

「勿論。優しい人よ」

「ちゃんと定職についてる人? お金にルーズな人だとか、友達に変な人がいたりとかしないでしょうね?」

「もう。私のお母さんみたいなこと言わないで」

「だって、心配じゃない。大丈夫なの? 趣味は合うの? 相性とか大事よ」

「うん。最初はおしゃべりだけだったんだけど、だんだんこの人相性がいいなって思うようになって」

「ふんふん」

「それでね。写真を交換したり、音声で会話したり、映像で直接会ったり――」

「映像なら、会ってる内に入らないんじゃない?」

「もういいのよ。直接会うより、よっぽどよく分かるわよ」

「あはは。それもそうね」

「プレゼントも何度も贈ったわ。勿論彼からも貰ったし」

「マメね」

「宅配も発達してるからね。注文も簡単だし。ちょっと情報端末を操作するだけで、数時間後には相手の笑顔が見れるのよ。直接手渡すより、かえって早いわ」

「今時は皆そうよね。それで、式は何時?」

「今から丁度三ヶ月後。出てくれるわよね?」

「そうね。休みとれると思うわ。でも遠距離恋愛ってしんどくなかった?」

「えっ? そうね。適度な距離感がむしろよかったかな。近いようで遠い。そんな距離感。やっぱり恋人はいえ、距離感を持って接して欲しいじゃない」

「分かるわ」

「遠距離恋愛って言ってもさ、他の人の恋愛と変わらないわよ。恋愛に距離なんて関係ないし」

「言ってくれるね。まあ、今時の発達したネットワークじゃ、実際距離なんか感じないか」

「今も私達はネットワーク越しにおしゃべりしてるしね。ここまで鮮明に画像や音声が再生されると、直接会っているような気にさせられるわ。彼もそう言ってたかな」

「式はあれ? 当日は情報端末の前で正装してればいいの?」

「そうよ。料理が宅配で届くから、味は楽しみにしていてね」

「ネットワーク挙式か。私も憧れるな。でも失敗しないかしら。友人代表の挨拶とか、私情報端末の前で声が裏返ったりしないかしら」

「もう、不吉なこと言わないで。それに、慣れてるでしょ。ネットワーク越しに、コミュニケーションとるのは。私達だって一度も直接は会ったことがないけど、特に問題になったことはないでしょ?」

「それも、そうね」

「生まれた時からネットワーク越しのつき合いに慣れちゃってるからね。近いようで遠い。近くにいて欲しいけど、距離感を持っていて欲しい。この微妙な距離感が私達世代には丁度いいのよ。結婚式だってそうよ。特別な式だからって、直接会ったって今更気まずいだけじゃない? 彼もそう言ってるわ。ああ、彼と私の初めて共同作業。緊張するわ。ちゃんと画像合成されるかしら。大丈夫だよね。私の花嫁姿と、彼の新郎の衣装。この遠距離でもちゃんとネットワーク上で一つに合成されるわよね。ああ、楽しみ。皆がネットワーク越しに祝福してくれるなんて、想像もつかないわ。泣いちゃうかも。彼もネットワークの向こうで泣くかな。その一瞬だけ、ネットワークを切ったりして。あっ、子供は何人欲しいとか訊かれるのかしら。多い方がいいんだけど、やっぱり間隔は空けた方がいいかしら。そうね。子供が欲しくなったら、多分私は真っ赤な顔でお願いするのよ。あなた。そろそろ私、子供が欲しいのって。ああ。こういう時は今の時代に生まれたことがありがたいわ。だってこんな恥ずかしいこと、直接面と向かって言えないもの。ネットワークのお陰よね。この距離感は。後は、彼に精子を宅配で送ってもらって――」

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