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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

おとぎばなしのはみ出しもの

おんがえしとは

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/16

猟師の男は寺の住職から、隣村で起こったちょっと変わった話を聞いた。


「お前さんと同じような猟師の男がな、怪我した鶴を助けたんじゃと。

 なんの気まぐれじゃろうか、普段獲物にする鳥の手当てをしてやって、

 そのまま放してやったんだと。


 そうしたらな、数日経ってそりゃあ美しい若い女が訪ねてきてな、

 『わたくしは先日あなた様に助けていただいた鶴にございます。

  どうかあなた様の妻としてお世話させてくださいませ』

 と言って、本当にその猟師の女房になったのだと。


 その若い女、働き者だし料理はうまいし、いいことづくめらしい。

 猟師の男もそのおかげでそりゃあ生き生きとしておるようだ。


 お前さんも、生業上仕方ないかもしれんが、無益な殺生はいかんぞ。

 生けるものを助ければ、よきことがあるやもしれんしの」


話を聞いた猟師の男は、なるほどそんな事があるのかと思った。


この男は未だ独り身で、おなごに言い寄られたためしはない。

男側から言い寄った事はあるが、顔はまあ並み、猟師の腕前も並み、

小銭が入ればその晩には酒代に消えるようなその日暮らし。

人柄がいいかと言えば、そう悪くはないという程度で、

おなごに好意を寄せられる理由もなかった。


が、この住職の話にひらめくものがあった。

わしも何か生きものを助ければ、女房がもらえるかもしれんぞ!?


この男、助けた相手がオスであった場合は微塵も考慮していない。

いや、女房であればこの際性別など問わないのかもしれない。


こうしちゃおれん、と男は野山を駆け回る。

怪我をしておる生きものはおらんか、困っている生きものはおらんか、

しかし闇雲に探したところで都合よく見つかるはずもなかった。


一日中駆けずり回って夜を迎え、疲れ切って家に帰り、

晩飯の代わりにしなびた大根を齧りつつ、足りぬ頭でうんうん考えた。


そうだ、わしが罠を仕掛けておけば、助ける生きものが捕まえられる!

自作自演である。本末転倒である。生きもの達は大迷惑である。


翌日、日の出前から男は野山のあちこちに、罠という罠を仕掛けて回った。

さらには無駄に行動力を発揮し、海や川にも訪れて、網も仕掛けて回った。


これだけ仕掛けがあれば、一匹二匹はかかるに違いなかろう。

果たしてさらにその翌日、全ての罠と網を確認して回れば、いるわいるわ。

四つ足は鹿、猪、狐、狸、穴熊、鼬、鳥は鶴、雉、鵯、燕、鴛鴦、雁、

魚は鮃、鯵、蛸、鮎、鱒、山女魚と選り取り見取り。


男は大喜びして罠から獲物を外し、片っ端から傷の手当をして放ってやる。

そして、元気でなー、達者でなー、と棒読みで手を振り見送ってやった。


罠を回収し、やり遂げた表情で男は帰宅し、妄想にふける。

助けた生きものは、合わせて二十匹は超えていた。一人ぐらいは来るはず。

いやいや、もしかすると二十人を超えるおなご達が来るかもしれんぞ!

女日照りのわしが、一晩で女房二十人とは!もう毎晩眠れんぞ!


そんな薔薇色の未来を想っていた翌晩。

男の家の戸をとん、とん、とん、と叩く音が聞こえる。

来た来た、やべぇ、わしムラムラしてきたぞ!と興奮しながら戸を開ける。

そこには確かに美しく若い女達が二十人強立っていた。


代表なのだろうか、一人の女が前に出る。


「わたくしは、先日あなた様に助けていただいた鹿でございます。

 後ろにいる女達も皆、あなた様に助けていただき…


 罠にかけられていた者達でございます」


空気が冷たく重たい。

気づけば女達、全員笑顔ではあるが、視線は吹雪の如きである。

思い返せば、罠を持ち帰るところは生きもの達に見られていた。


「助けていただいたのは事実。ですが罠にかけられ傷つけられたのも事実。

 お礼ではなく、お礼参りでございます。

 命まで取るつもりはございません。

 ひとり拳一発ずつ顔面に、それで手打ちといたしましょうか」


女達は惚けている男を囲み、一斉に拳を握りしめた。

怨がえし。

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