表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

自称モブ転生令息は悪役令嬢(仮)をお救いしたい

作者: 公爵令嬢A
掲載日:2026/03/01

悪役令嬢という品種のビオラを買ったのでつい…



 「おいヴィオラ!今日という今日は許さんぞ!!」



 穏やかな秋晴れの昼下がり。中庭のベンチで気持ち良く昼寝をしていたら、そんな不快な声が聞こえてきた。

この中庭は人が少なくてさらにこのベンチは良い感じに死角になってて穴場なのに…。

薄目で声のする方を見ると、少し離れた場所に三人の男女が言い争っている。


(あれは…王太子と婚約者の公爵令嬢か?そんで王太子の腕に絡んでるのは…)


「今度は何ですの?アルベンシス殿下」

「カタリーナにネチネチネチネチ嫌味を行った挙げ句嫌がらせもしているらしいな!

何と下劣な奴だ!貴族として恥ずかしくないのか?!」

「アル様ぁ〜あたしぃ怖かったですぅぅ」


(うわあ…。)


思わず声に出しそうになったが、ギリギリ堪えた。危ない危ない。

王太子に抱きついているあの女は実は同じクラスの平民だ。

魔力の高さと魔法の才を買われ、特待生としてこの学園の魔法科に入ったらしいが。

顔はまぁ可愛いと思う。しかしそれ以上に脳みそに砂糖菓子でも詰まってんのかというくらいヤバイ奴だった。

イケメンと見れば誰彼構わず突撃し籠絡していくのだ。

なので最初こそ話しかけたりしていたクラスメイトも皆遠巻きにしている。

しかも話が通じない。アレと分かり合えてる王太子もヤバイ。

あれが王太子でいいのか?この国大丈夫か?


「常識に則った指導も嫌がらせになるので?

異性にみだりに触れない。婚約者がいる場合は特に気をつける。

身分の高い方に自分から話し掛けない。廊下は走らない。

全てこの学園に通う上でというか人としてごくごく当たり前の事をお伝えしただけです」

「きゃあ、ヴィオラ様こわーい」

「ほら!カタリーナもこう言っているだろう!」


うわあ…(二回目)

しばらく眺めていたが、目の前で繰り広げられる修羅場に、俺はピンと来た。

ここ、もしかして乙女ゲー世界とかだったりするのか?

前世でweb小説などを嗜んでいた俺は悪役令嬢の婚約破棄モノは親の顔より見たと言っても過言ではない。


「とにかく!今後悔い改めないのであれば私にも考えがあるからな!!」


三下な捨て台詞を吐いて王太子と脳みそ砂糖菓子女は去っていった。

残された公爵令嬢はその後ろ姿を見つめながら溜息を吐いていた。

心中お察しします。


「どうして…」


と、小さく呟き俯く彼女の目から涙がポロポロと零れ落ちた。

先程までの凛とした立ち振る舞いから一転、肩を震わせるその姿は酷く儚げだ。

気位の高い女性の見せる弱さとか、これがギャップ萌えか好き。


「え、尊…」


あ、やべ声に出しちゃった。


「そこに誰かいたのですか…?!」


公爵令嬢の目がぐりんっと俺の方に向く。あーあ完全にバレてしまった。


「盗み聞きするつもりはなかったんですけど…」


のそっと起き上がり、バツが悪い感じに頭を掻く。

すると、彼女はつかつかとこちらに歩いてきた。


「貴方、誰です?」

「ええと、クロード・アイスバーグと申します。ご無礼をお許しください」

「アイスバーグと言うと…かの宮廷魔導士長をのアイスバーグ男爵の?」

「ええ、父です」


さすが公爵令嬢、ウチみたいな末端貴族まで把握してるなんて。

アイスバーグ男爵家は父さんが宮廷魔導士として功績を上げたときに叙爵しただけの法衣貴族だ。

その次男の俺なんてもうほとんど平民みたいなもんだ。


「そう。まぁ、宜しいですわ。わたくしはヴィオラ・シエルブリエと申します。

それで、アイスバーグ男爵令息はいつの間にそこへ?

先程まで誰も居なかったと思うのだけれど」

「ココは俺の昼寝スポットなんです。邪魔されないように魔法で気配を消してました」


俺が使ってたのは気配を遮断する魔法。モブに徹する俺の得意魔法である。

見えない、というよりそこに意識が行かなくなるって感じかな。

欠点は一言でも声を発するとバレるとこ。


「流石宮廷魔導士長のご子息、というところですわね。

では先程までの醜態を一部始終見られていた訳ですか」

「いや見たくて見てた訳じゃないんですけど…」


言っておくが俺の方が先にここに居た。王太子達が後から来てわちゃわちゃしてたのだ。


「あの、こんな事聞くのもアレなんですけど…嫌がらせなんて本当にしたんですか?」

「ふふふ…正直な方ですね。ええ、わたくしは何もしておりません。

もしかしたらわたくしの名を騙ってどなたかが悪さをしているのかもしれませんわね。

それに、やっていない事を証明するのは難しいのですわ」

「うーん、悪魔の証明か」


シエルブリエ様は開いた扇子を口元に当てて目を細めた。

その様子が何かすごく悪役令嬢っぽい。


「まあ、仮にわたくしが何かしたとしたら、今頃あの平民の方は学園にいらっしゃらないと思いますわ」

「わお…」


多分、それはこの世にもいらっしゃらないんだろう。

これだから権力も金もある人は怖い。なるたけ関わり合いになりたくないね。


「でも殿下はそうはお思いにならないんでしょうね。昔からわたくしの事を目の敵にしておられますし」

「んー、あの様子だとある事ない事でっち上げてシエルブリエ様を陥れようとするのでは?」


まぁ悪役令嬢モノのテンプレだよね。

心当たりがあるのか、シエルブリエ様は黙ってしまった。

乗り掛かった船だ。ちょっとだけ手助けしようかな。

それにシエルブリエ様が ”ざまぁ”されるのはあんまり見たくない。


「では明日、同じ時間にまたココに来て頂けますか?俺に考えがあります」





 翌日の昼休み。俺は今日も中庭のベンチで寝そべっている。

でも今日は気配は消していない。


「本当に居たのですね」

「まぁ、自分が言いだした事ですし」


シエルブリエ様が現れた。ただしある程度距離は取っている。

ある事ない事噂されても困るしね。

念の為防音結界をこっそり張る。これで周りからは見えるけど話は聞こえないはずだ。


「それで、考えとは何ですの?」

「まずはこれをお渡ししようと思って」


取り出したのは青い魔石のブローチ。ちなみに俺お手製だ。

風魔法で飛ばしてシエルブリエ様の手にふわりと乗せる。

ソーシャルディスタンスは保ったままの方がいいかと思って。


「今、何を」

「このブローチは映像と音声を記録する魔導具です。

真ん中の魔石部分がダイヤルになってまして、右に回すと録音開始で戻すと停止。左に回すと再生されます」


シエルブリエ様はブローチを手に持ったまま絶句している。

淑女の仮面が剥がれ落ちてるぞ。


「…こんな貴重なもの頂けませんわ」

「そうですか?家に合った素材で俺が作ったんで大したもんじゃないんですけど。

まあ、でもそう仰るなら貸しという事で」


魔石だって俺が獲ってきたやつだし。実質タダ。

令嬢を辞めて冒険者になった姉に連れて行かれて水竜を狩った時にゲットした。

あの時は死ぬかと思った。俺は脳筋の姉と違って武闘派じゃないんだぞ。

そんな姉は”蒼氷のドラゴンスレイヤー”とかいう厨二病みたいな二つ名がついている。氷魔法が得意だから。


「後はそうですね、自分の行動を手帳などに記録しておくとか、なるべく1人にならないようにするとかですかね。

何らかの濡れ衣を着せてくる可能性もありますし、学園にいる間は常にアリバイを作っておいた方が良いかと」

「なるほど、一理ありますわね。冤罪のひとつやふたつ、殿下ならでっちあげてもおかしくないですわ」


シエルブリエ様は頬に手を当てながら溜息を吐いた。心中お察しします。


「とりあえず、それで行きますわ。取り越し苦労になれば良いのですけど…」

「ははは…」

「話を聞いてくださって感謝します。よろしければ、また相談させてくださいませ」

「なんなりと」

「では、ごきげんよう」


そう言ってシエルブリエ様は何事もなかったように立ち去っていった。

一人残された俺は、ベンチにだらしなくもたれかかって大きく息を吐いた。


「はああああ…何でこんな事に…」


まぁ悪役令嬢にされそうなお嬢様を救えたと思えば良かったんだろうか。






 あれから季節は巡り、年の瀬を迎えようとしていた。

その後シエルブリエ様との接触はないが俺のアドバイスは参考にされているらしい。

常に複数人のご令嬢を伴っているのを見かける。

そしてヒロイン(笑)の方は着々と攻略を進めているようで、王太子の側近らのような高位貴族の令息達まで侍らせている。

よりによって俺お気に入りの昼寝スポットで奴らは逢い引きしているのだ。人気が少ないからか?

しかもその中にはシエルブリエ様の弟までいる。こんなのが後継でシエルブリエ家は大丈夫か?

まぁ何かに使えるだろうと全部録画しておいたけど。

 そんなこんなで冬季休暇前の学園主催のパーティーも差し迫った頃。

どうも王太子がそのパーティーで婚約破棄を言い渡そうとしているという情報を掴んでしまった。

なんで俺の目の前で言うんだよ…いや魔法で見えないからだけど。

しかしテンプレにも程がある。そんなにざまぁされたいか。

さすがにこれはシエルブリエ様に報告した方が良いだろうとコンタクトを取ろうとしたら、何故かサロンに招かれた。

学園にはお茶会等をするためのサロンがいくつも造られている。

淑女科の授業でも使うそうだが、申請すれば誰でも利用する事が出来る。

その中でもここは高位貴族用の煌びやかで広々とした防音魔法まで施されている部屋だ。

そんな場違い感甚だしい空間で、俺は今縮こまっている。早く帰りたい。

目の前にはずらりと並んだご令嬢達を従えたシエルブリエ様が優雅に紅茶を飲んでいる。

もはや王者の風格すら漂っている。もうこの人が王太子でいいんじゃない?


「それで、わたくしにお話があるとか?」


音もなくティーカップをソーサーに置き、アルカイックスマイルを浮かべる女王。


「あ、はい。実は…殿下がパーティーでシエルブリエ様に婚約破棄を突きつけるつもりだという情報を小耳に挟みまして…」

「まあ」


証拠として念の為録画しておいた映像を流す。

すると彼女の美しい柳眉が僅かに寄った。すぐに戻ったのはさすが。


「そこまでお馬鹿さんとは思っておりませんでしたわ…本当にお馬鹿さんでしたのね」

「俺もまさかとは思ったんですけど…本人が仰っていたので確実かと。

冤罪をでっち上げて糾弾するおつもりのようです」

「お陰さまでアリバイや証拠は充分に得られておりますけどね。

まぁその時は返り討ちにするだけですわ」


扇子を開いてほほほ、と笑うシエルブリエ様。

目もちゃんと笑ってるところが怖い。

これは王太子終わったな。ザマァ。


「ところで貴方、パーティーでエスコートをする相手はいらっしゃるの?」

「いえ、居ませんが。元々一人で参加する予定だったので」

「丁度良かった。では、わたくしのエスコートをお願いしますね」

「ん???」

「ハァ…色ボケ殿下から『キサマのエスコートなどしないからな!』なんて言われてしまいまして…。

まぁあの方にエスコートされるのも嫌なので別に良いのですけれども」

「何で俺なんですか?!」


説得を試みたものの見事に言いくるめられ、結局当日は屋敷まで迎えに行く事になってしまった。

本当に、何でこんな事になったんだ。






 パーティー当日。死地に赴くような気持ちで公爵家のタウンハウスへと向かう。

エントランスホールには美の化身もかくやという、美しくドレスアップしたシエルブリエ様が待ち受けていた。

光沢のある上質なシルクをご自身の瞳の色に合わせた紫色の美しいグラデーションに染められた生地のドレス。

たっぷりとしたドレープの裾の方には宝石の粒が縫い込まれていてキラキラしている。

豪奢な金髪は縦ロールにしてダイヤの髪飾りで纏められている。

まさしく ”The悪役令嬢”という佇まいだった。

なんかもう格が違う。生きるステージが違いすぎる。

俺の安物のプレタポルテ燕尾服 (貴族としてギリギリのラインのやつ…)が並んで大丈夫か?いや大丈夫じゃないな??

そしてシエルブリエ様も同じ事を思ったらしい。


「ちょっと貴方…その服はない、ないですわー。

見たところわたくしの弟と同じくらいの体格ですし、弟の服なら着られるでしょう。

誰か、こちらの方に見繕って着替えてさしあげて」

「え、ちょ、それはさすがに…!」

「あら、どうせ今後着る機会などないのですから、問題なくってよ」


(一方的に見かけた事がある)弟君よ、君の貴族人生終了のお知らせだぞ。

抵抗虚しく俺はメイドさん達に連行されていった…。







 「あああ…もう始まる前からこんなに疲れるなんて…」


見るからに高価な燕尾服を着せられ、おまけに髪までしっかりセットされ。

公爵家の恐ろしく乗り心地の良い馬車にドナドナされ。(うちの馬車は帰されていた)

俺は精根尽き果てていた。馬車のシートにぐったりともたれかかっている。


「しっかりなさいませ。大丈夫、見栄えは良くなりましたから」

「ええ…?」


ホントかなあ。馬子にも衣装ってやつじゃない?

あっという間に学園に着いてしまい、覚悟を決めてシエルブリエ様をエスコートして会場のホールへと向かう。

入場と共に突き刺さるあいつ誰?って視線と奇異なものを見るような視線。

生きた心地がしない。ああもう帰りたい。

そうこうしているうちに、どうやら舞台の幕は開けてしまったらしい。


「ヴィオラ・シエルブリエ!出て来い!」


声のする方を見ると、バカ王太子と愉快な仲間達がホール奥のステージに勢揃いしていた。


バカ(略)の腕には例の頭ゆるふわ女が纏わりついている。

ふと隣の様子を伺えば、シエルブリエ様の表情が完全に抜け落ちていた。

無だ。もはや完全なる無である。


「ヒェッ」


見なかった事にした。思わず情けない声が出てしまったのは許して欲しい。

周りには分からないくらいの小さな溜息をついてシエルブリエ様は前へと進み出た。

俺の腕を掴んだまま。「絶対に逃さんぞ」という強い意志を感じる。


「何の御用ですの?殿下」


鉄壁の淑女の仮面を被り直し、冷静に対応なさる。

なお俺の腕を掴んだまま。つまりとばっちりで俺も前に出されている。

あ、王太子のそばで弟君が「あれ?その服もしや自分のでは…?」みたいな顔してるな。

すまんな勝手に着てて。俺には止められなかった。


「なっ、誰だその男は!不貞だぞ!」


その発言は完全にブーメランだぞ。婚約者じゃない女侍らせて何言ってんだ。

ほら、シエルブリエ様も溜息ついちゃってるじゃん。


「彼はお一人で参加されると言うので、無理を言ってエスコートをお願いしただけですわ。

誰かさんに断られなければこんな事にはならなかったのですけれど…」

「ぐっ…」


一瞬バツが悪そうな顔をしていたけど、すぐに戻った。意外と切り替え早いな。


「そんな事より!今日こそ貴様の非道な行いを明らかにしてやる!!

公爵令嬢という身分をかさに着てカタリーナを罵り、教科書を破いたり泥水を被せるなどの嫌がらせをし!

あまつさえ階段から突き落として殺そうとしたな!

いくら俺の寵愛がカタリーナにあるからと言って許せる所業ではない!

そのような女は王太子妃に相応しくない!よってこの婚約を破棄する!!

そしてこのカタリーナ・ブルーリバー嬢と婚約する!!!」


わーおホントに婚約破棄しちゃったよこのバカ。

てか自分の不貞を認めたな。バカだな。


「他の事はともかく、婚約破棄に関してだけは承知致しました。

ですが、非道な行いとやらについては断固否定させていただきますわ」

「なんだと?!」

「そもそも、何故わたくしがそこの方を妬むのですか?理由がありませんわ。

それにわたくしと貴方様の婚約は政略によるものです。

そこにわたくしの意向は入りませんし、微塵も好意を抱いておりませんの」


何故か王太子がえっ?て顔をしている。もしや愛されてると思ってたのか?ウソだろ?


「き、貴様!俺を愛するあまり嫉妬に狂っての事ではなかったのか?!」

「いいえ?殿下があまりにも分からず屋の愚か者すぎて、悔し涙を流した事はありますけど」

「あれ悔し涙だったんだ…」


初めて中庭で会った時泣いてたのはそれか…。


「それから…嫌がらせ、でしたっけ?

魔法科と淑女科では校舎も違いますし、わたくし魔法科の棟には入った事がありません。

それにわたくしの周りには常に人がおります。王家からの護衛もついていますし。

そんな中でどのようにわたくしが手を下せますの?」

「それはっ取り巻きにやらせたんだろう!」


王太子が聞く耳を持たないので仕方なく介入する事にした。


「あのー、ちょっといいですか?」

「あら、何ですの?」

「教科書の件に関しては犯人分かりますよ。

俺、魔法科でそこのゆるふわ…じゃなかったブルーリバーさんと同じクラスなんですけど、教室に録画魔道具置いてたんで」


そう言って俺はポケットから録画魔道具を取り出す。

最近小型化に成功した最新モデルだ。

防犯用カメラとして売り出す予定である。


「えっ、ちょ、待っ」


脳みそパヤパヤ女が焦り出したけど無視する。

せっかくだからスクリーン代わりにホールの壁にドーンと映し出してやろう。

ちょっと弄って目的の場面を再生すると、ステージの壁にデカデカと魔法科の教室が映し出される。

無人の教室へとキョロキョロしながらそーっと忍び込むゆるふわ女。何やってんだ。

それから自分の机に向かうと教科書を取り出すと、ビリビリとページを破き始めた。

律儀に一枚ずつ。ヒロインがしてはいけない感じの形相で。

さすがの王太子も引いてるぞ、いいのか?


「…という訳で、ブルーリバーさんの自作自演です」


ゆるふわ女は顔面蒼白、王太子は鯉みたいにパクパクしてて、他の奴は完全に沈黙した。


「そうそう、階段から突き落とす…でしたっけ?

それについても冤罪であるという証拠はございますが」


シエルブリエ様も参戦してくる。

胸元につけていたブローチを取り、ダイヤルをひねって録画を再生し始めた。

ステージの壁には再び映像が映し出される。

今度は廊下らしき場所だ。俺は入った事がないが、淑女科のある棟だろうか。

シエルブリエ様の視点で進む中、階段に差し掛かると、階段の下の方にあの女が居るのが見えた。

こちらの方を見てニヤリと笑ったかと思うと、突然飛び降りた。三段くらいだったけど…。

普通に着地した後何故か倒れ込んだ。そしてつんざくような悲鳴を上げた。


『きゃぁぁぁ!ヴィオラ様がぁぁ!』


その声を聞きつけたのか王太子が駆けつけてきたのが映った。行動早くね?

そこで映像はおわっていた。


「証拠の映像は以上ですが、お分かり頂けたでしょうか?」


シエルブリエ様の冷ややかな声が、しんと静まり返ったホールに響く。

そしてステージ上の全員がオロオロしている。

断罪返しはこれまでかなぁ。

…うーん、いくら恋は盲目とは言えなんかおかしい気がするんだよなぁ。

しょうがない、あれを使ってみるか。


「あの、ずっと気になってた事があるんですけど。ちょっと確認してみていいですか」


そう前置きして俺は眼鏡を取った。紺碧に金色の虹彩が入った瞳が露わになる。

実はこの眼鏡は視力矯正のためではない。魔道具だ。


「あら…貴方、思ったより余白の多いお顔をしてらっしゃるのね」

「え、俺悪口言われてます?…まぁその通りなんですけど」

「いえ、薄味なところが好ましいと思いますわ。

わたくし造形の濃い美形には飽き飽きしておりますの」

「やっぱディスられてる??」


どうせ地味モブ顔だよ!メガネを取ったらイケメンなんてのは二次元に限るんだよ!


「ん゛んっ、俺の顔はともかく…ご覧の通り、俺の目は魔眼です。

俺には魔力の流れやどんな魔法を使ってるか視る事ができます。

それを使えばこの茶番の真実を暴けるんじゃないかと」


魔眼でステージの方をじっと視る。

なるほどね…。やっぱり思った通りだ。


「ブルーリバーさん、魅了魔法を使っているね?」


頭砂糖菓子女がびくりと肩を揺らす。これは自覚ありだな。

魅了に限らず精神に作用する魔法は、この国では特級魔法使いの資格がないと使ってはいけない事になっている。

さらに使用には申請が必要で、破れば罪に問われる。

俺の魔眼で見る限り、ピンク色の魔力が侍らせている男達にねっとりと纏わりついている。

この魔力は魅了魔法によるものだ。

あまり強い魔法ではなさそうだけど、たとえ薄ーい魅了だとしても何度も重ねてかければ強力になる。

多分もう洗脳に近い状態なんじゃなかろうか。

ちなみに術者より魔力が高いとかからない。

うちのクラスのイケメン達は軒並み高魔力保持者で魔法耐性も高いから無事だった。

最年少特級魔法使いとかいるからね。乙女ゲーだったら攻略対象だったかも。

それはともかく。


「ディスペル」


パチンと指を鳴らしてそう唱えると、ピンク色の魔力は瞬く間に霧散した。

少し目が濁っていた奴等がハッと我に返っていく。


「あれ…俺は一体…」

「魅了魔法を解除しました。ちょっとは頭がスッキリしたんじゃないですか?」

「あ…あ…俺は、何を、カタリーナ…」

「あ、アル様?」

「あ゙ああああ!!」


王太子は白目を剥いて倒れてしまった。

イケメンが台無しだな。顔しか取り柄ないのに。

大混乱の中、取り敢えずパーティーは中止になった…。







 結局のところ、婚約破棄自体は成立した。もちろん王太子、いや元王太子の有責で。

あのバカは魅了魔法に掛かっていた事を差し引いてもやらかし過ぎていたので廃嫡された。

個人資産から慰謝料を払わされ、罰として王城の下働きをさせられているらしい。

彼は今ブーブー文句を言いつつ王城の廊下という廊下を掃除しているとかなんとか。

今後弟王子を立太子させる方向で決まったようだ。

まだ十歳ながらしっかり者で頭も良いらしいのでなんとかなるだろう。

あの愉快な仲間たちはあの後魅了魔法が解けて混乱したり発狂したりしたらしいが、何とか落ち着いたようだ。

そして恐ろしい事に半数以上は魅了魔法関係なくガチ恋勢だった事が判明した。

ちなみに元王太子もシエルブリエ様の弟君もだ。奴の手練手管が恐ろしいな。

あの脳みそわたあめ女は魅了魔法の無断使用と王族に魔法を掛けた罪、あとシエルブリエ様への不敬罪で打ち首になった。

自業自得なので同情の余地はない。

処刑される寸前まで「あたしはヒロインなのよ!!」と騒いでいたらしい。

典型的なざまぁされるヒドインだな。というか転生者だったのか。

やっぱりここって乙女ゲー世界なの?


 「あのう…それで、何で俺はここに呼ばれてるんでしょうか…」


俺は今、公爵家のタウンハウスの応接室にてシエルブリエ様と向かい合っている。

その御方に呼び出されたからだ。

相変わらずアルカイックスマイルを浮かべていて何を考えてるのか全く分からない。


「そうですわね、貴方にちょっとお話がありまして。

時に貴方、男爵家を継ぐのはお兄様で宜しいのよね?」

「あ、はい。遠くない内にそうなると思います」


父には爵位は荷が重いらしく、早く譲りたいと前々から言っていた。

ちなみに兄は文官として城の経理課に勤めている。真面目で優秀で自慢の兄だ。


「既にお聞きになっているかもしれませんが、我が家は後継を変更してわたくしが公爵位を継ぐ事になりましたの」

「は、はあ」


知ってます。魅了魔法でアレしましたからね。

風の噂で領地の方で療養中と聞いておりますよ。


「それで、婿入り出来る者を探さなければなりません。

そこで、わたくしとしては是非クロード様にお願いしたいのです」

「は?!」


いやいやいやいやいや、この人何言ってるの?

ビックリして思わず立ち上がってしまった。


「あの、俺は木っ端男爵家の次男ですよ?

領地経営なんて出来ないし魔法位しか取り柄ないし、そもそも家格が全然釣り合わないです」

「お父様からはわたくしの好きに選んで良いと言質を取ってあります。

次は身分よりも能力で決めたいのですわ。

何しろ元婚約者は身分だけはダントツでしたけどアレですからね。

その点貴方は頭の回転も早くて判断力も良い。きちんと見通しも立てられる。

それにその年で特級魔法使いに合格する程の魔法の才をお持ち。

特に魔導具作りに関しては目を瞠るものがありますわ。

爵位の低さを補って余りある能力の高さです。

それらを是非我が領の発展に活かしてほしいものです。

そうそう、領地経営はわたくしがしますから心配いりませんわ」

「なるほど…?」


怒涛のプレゼンにとりあえず相槌を打つしかできない俺。


「男爵にも既に話は通してあります。「息子に任せる」だそうですよ」

「父さん…」


面倒くさがりの父さんらしいっちゃらしいけど。ああ外堀が既に埋められていた…。


「それに、わたくし貴方のお顔はわりと好みですの」


大輪の薔薇が咲くように美しく微笑むシエルブリエ様。

ただし目が猛禽類の如くギラギラしている。完全に捕食者。

もうどう頑張っても逃げられそうにない。

俺は覚悟を決めるしかないのか…。



 そう遠くない未来、俺は悪役令嬢にならなかった彼女に”攻略”されてしまうんだろう。そんな気がする。



end


クロード・アイスバーグ

乙女ゲーっぽい世界に転生してしまった地味メガネくん。

男爵家の次男坊。メガネは魔眼を制御するための魔導具だったりする。

魔法が得意で地味にチート。

髪が青いので冒険者ギルドでは青魔導士という二つ名がついている。

ちなみに本人はちょっと恥ずかしいなって思ってる。

一軍女子っぽいヴィオラに怯えているものの、何だかんだ絆される。



ヴィオラ・シエルブリエ

誇り高き公爵令嬢。悪役令嬢にされかけた。

実は可愛いものと甘いものが好き。

勝負時には縦ロールにする。

どちらかと言うと塩顔がタイプ。クロードの素顔はストライクゾーンだった。

女公爵としてバリバリ働き、夫を尻に敷きつつ夫婦円満な人生を送る。



カタリーナ・ブルーリバー

脳みそ砂糖菓子ヒドイン。実は転生者だった。前世はパパ活女子。

可愛いといっても学年に一人二人はいる程度のビジュアル。

平民ながら特待生として入学したのに男漁りばかりしていた。

処刑間際になっても反省も後悔もなかった。

実は本当にヒロインだった。欲張って逆ハーを狙わずに、かつ穏便に婚約解消してもらっていればバッドエンドにはならなかった。(多分)


アルベンシス

顔だけバカ王子。濃ゆい美形。

周りを優秀な人間で固めればなんとかなるだろうと思われてたけどなんとかならなかった。

今日も元気に廊下掃除をしている。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ