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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~  作者: 溝上 良


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第9話 従う訳ねえじゃん

 










「こいつが、あの……」


 フレイヤは小さく呟いた。

 直接顔を合わせたことはなかったが、何なら顔見知り程度より一度も会ったことがないのに情報量は多い男だった。

 それほど、彼の悪名高い噂は、王国中……いや、諸外国にも広まっていた。

 ディオニソス・ホーエンガンプ。

 王国の一貴族、ホーエンガンプ家の嫡男。

 次期領主として将来が約束されており、現在はホーエンガンプの私兵団の頭領であり、軍事を一手に引き受けている男。

 それだけなら、才能豊かな貴族として、そこまで有名にはならなかったかもしれない。

 ただ、この男の場合は……。


「殺戮皇……」


 ディオニソスの異名は、殺戮皇。

 文字通り、敵を一切の容赦なく殲滅するその苛烈さからきている言葉である。

 そもそも、彼は非常に強い。

 単純に戦上手であり、常勝不敗である。

 それだけでも有名になるには十分だが、それ以上に噂として轟いているのが、その残虐性である。

 一度敵対した者は、どのような事情があっても絶対に許さない。

 徹底的に殺しつくす。

 歯向かった当人はもちろんのこと、その家族や親族に至るまで、徹底的にだ。

 そこには、一切の容赦はない。

 その苛烈さは、領民にまで及ぶという。

 そのため、ディオニソスの悪名は轟いていた。


「(……ただ、まったくの無能というわけじゃないんだよな)」


 フレイヤは苦々しく顔を歪める。

 ただ威張り散らし、好き勝手しているだけなら、とっくに罷免されているだろう。

 いくら貴族でも、好き放題何でもできるわけではない。

 確かに王国としての力は落ちているが、逆を言えば、貴族の力は強くなっている。

 周りの貴族が、これ幸いと一気に押しつぶすに違いない。

 内戦のような形になるだろうが、それを咎める力すら、王国にはなかった。

 ともかく、凡人であればとっくに潰されているであろう悪行をしているディオニソスであるが、いまだに健在であり、むしろ畏怖されている。

 そのことから、この男がただの無能ではないことが導き出される。


「何か用か?」

「……っ」


 フレイヤの敵意すらにじんでいる視線を受けて、ディオニソスが目を向けてくる。

 貴族たちは一斉に目をそらした。

 そのどす黒い瞳に、今まで何度も視線を潜り抜けてきた彼女も、ゾクリと背筋が震える。

 恐ろしいのは、ディオニソスが威圧するような意思をまったく持っていないことだろう。

 この眼が、彼の平常運転なのだ。

 それなのに、その通常の眼で見据えられて、勇猛果敢なフレイヤは委縮してしまったのだ。

 そんな自分が情けなく、またそんな状態であることを悟らせないために、彼女は気丈にふるまう。


「いや、別に? ただ、遅れてきたっていうのに、随分と堂々としていると思ってな。これは、褒めているんだぜ?」

「そうか、褒めてもらえて嬉しいよ。誰だか知らんがな」

「……ちっ」


 ディオニソスはフレイヤの皮肉なんてまるで通じなかった。

 むしろ、眼中にないと告げられて、フレイヤの方が嫌な気分になってしまった。

 誰もがディオニソスを恐れ、彼の一挙手一投足を注視していたから気づかなかったが、パトリシアがやけにニコニコとしていたのが印象的である。

 ディオニソスは努めてそちらを見ないようにしながら、空いていた席にドカッと座った。


「あと、別に俺の都合でダラダラしていて遅れたわけじゃねえ。やることやっていたら遅くなっただけだ」

「やることねぇ。いったいそれは何なのさ?」

「弱い者いじめ」

「は……?」


 フレイヤは怪訝そうに顔を歪める。

 そんな彼女を見て、ディオニソスはずっと持っていた袋をプラプラと揺らす。

 その形から、察しの良い者は気づいていた。

 とくに、気づいているのは武人が多かった。


「これ、俺のところに来た賊なんだけど、いる? 遅れた理由にもなると思ったから、こいつだけは何とかぶっ殺したんだ」


 何でもないように言うディオニソスに、場の空気は凍り付いた。

 ここに集まっている貴族は、誰もが前線に立って殺し合いをするわけではない。

 むしろ、フレイヤのようなタイプが珍しい。

 怨嗟の叫びを今にも発しそうな、苦痛に歪んだ生首なんて、見たくもない。

 しかも、悪名高いディオニソス。

 普通に殺しただけでないことは明白だ。

 痛めつけてから殺しているだろうから、その死に顔も壮絶なものだろう。

 いくら何でも、それを喜んで見るような趣味を持つ貴族は、この中にはいなかった。


「殿下にはそれ以上近づかないでください」


 何を思ってかパトリシアに生首を押し付けようとするディオニソス。

 処刑待ったなしである。

 その前に、スイセンが間に入って妨害することに成功した。

 その後ろで、パトリシアがニコニコしていたことに気づいているのは、ディオニソスだけだったが。


「なんだよ。生首なんて見慣れているだろ。なあ?」

「ひぃっ!?」

「…………」


 周りに同意を求めても、誰も同意しない。

 むしろ、ディオニソスに目をつけられないようにと、一斉に視線を逸らす。

 ちょっとイラっとしたディオニソス。

 何人か殺したらこっちを見るようになるのだろうかと思ったが、すぐに気を取り直す。


「あー……まあ、どうでもいいや。ちゃんとした理由があって遅刻したってことは知っておいてくれ。罰とか与えられたら普通に嫌だし」


 同じ立場の貴族から言われてもまったく無視するだろうが、王女であるパトリシアの言葉ならば、さすがに無視できない。

 その時は、ガチの反逆をしなければならない。

 今のところそこまで考えていないので、それは求めるところではないのである。


「で、今何してんの?」

「……今回の作戦の指揮官決定をしております」

「あっそ。で、誰になったんだよ」

「……あたしだ」


 フレイヤが立ち上がる。

 文句でもあるのかと、ギロリとディオニソスを睨みつける。

 じっと品定めをするように、フレイヤを見る。

 何を言われるのかと、びくっと身体を震わせる。

 しかし、嫌な予想は当たらず、ディオニソスはスッと目をそらした。


「おう、よろしく。で、作戦は?」

「おって伝える。言っておくが、勝手な行動はするんじゃねえぞ」

「おう、分かったわかった。好き勝手行動すると、全体の迷惑になるもんな。もちろん、従うよ」

「そ、そうか……」


 想像していなかった言葉に、フレイヤは肩透かしをしてしまう。

 もっと身構えていたのだが、割とまともな言動だ。

 もちろん、今の言葉だけで彼の人間性を評価はできないが、噂に聞いていたほどではないのかもしれないと考えた。


「まあ、適当に頑張ろうや」


 そう言って、ディオニソスはあっさりと天幕を出て行った。

 残された貴族たちは、たった一人の男の乱入で一気に緊張していたこともあってか、散り散りに逃げるように退散していくのであった。

 そして、天幕を出てズカズカと歩いていくディオニソス。


『本当にちゃんとあの子に従うの?』

「従う訳ねえじゃん。笑える」

『えぇ……』




過去作『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』のコミカライズ第6話がニコニコ漫画で公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLや表紙から飛べるので、ぜひご覧ください。

https://manga.nicovideo.jp/comic/73126

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