第70話 これがあたしの全力です
特異個体のオーガを母上があっさりと撲殺して、すぐに屋敷に戻った。
後始末はオーガをどうにかできなかった私兵に任せてある。
これで何とか汚名返上というわけだ。
俺も痛めつけるけど、母上に見咎められると大変だからな……。
マジで殺されるし。拷問されてから。
どうせ死ぬなら、俺の役に立ってから死んでほしいので、まだ生かすつもりだった。
「あー……いい感じだなあ……」
ということで、仕事の後始末という一番面倒くさいことを押し付けてきた俺は、さっそく実家の風呂に入っていた。
その前には、母上の機嫌もしっかりと取っている。
息子に褒められてキャッキャッと楽しそうにしていたのは、母上の若々しい見た目と相まってとても微笑ましかった。
なお、特異個体のオーガを殴り殺している模様。
『めちゃくちゃ広いお風呂だね……。さっすがお金持ち』
まあ、全部領民の税金と愚かにも襲撃してきた賊の財産から作られたものだけどな。
だいたい、2:8くらいの割合。
あまりにもあまりにもな強奪手法が広まりすぎてしまった結果、ほとんど賊が出てくれなくなったけど……。
バンディット、美味しかったなぁ……。
『ちなみに、その賊の皆さんは?』
もう誰もこの世にいないぞ。
『……ちなみに、その賊が持っていた財産って、たぶん領民の人たちが持っていたものだと思うけど、それを返してあげたりは……』
うちの領民というより、他所の領民のものだろうがな。
基本的に、それだけの財産を積み上げられる前に、俺にぶっ殺されるから。
むろん、返さないが。
『ああ……だよねぇ……』
当たり前だろ。結局、誰のものなのか分からんし、そんなものをわざわざ返してやる義理もないし。
他の領地の人間のことなんか知らん。
生きていようが死んでいようが、俺には関係ないしな。
「お背中お流しします、ご主人様」
そんなことを考えていたら、風呂場に入ってくる一人の少女。
相変わらず肌の露出が一切ないかったいメイド服を着ている、グレイだった。
……よく風呂場でそんな恰好ができるな、お前。
「おー……。お前、力弱いから別にいらねえな」
「またまた、そんなことをおっしゃらず。かわいい女の子に背中を流してもらえてうれしいじゃないですか」
「可愛い……? どこ……?」
「……ちょっとむっとしました」
「主人にむっとしてんじゃねえ」
まあいいか、と思いつつ風呂から上がり、椅子に座る。
そんな俺の背中に陣取って、泡をこね始めるグレイ。
『ディオニソス、ダメだよ! こんな幼い女の子にも手を出そうだなんて! 胸は背丈にしては発達しているけど、まだ子供だよ!?』
お前、マジで鬱陶しいな……。
こいつのせいで、風呂という一番リラックスできる空間が台無しになっている。
本当に脳内がピンクすぎる。
だいたい、手を出すわけねえだろ。
お前、その原作とやらの知識で分からねえのか?
「おっと、無防備にお背中をあたしに向けていいんですか? その首、かき切っちゃいますよ?」
くっくっくっ、と無表情で器用にほくそ笑むグレイ。
この言動からも分かるだろう。
普通のメイドが、首を斬るとか言うはずがない。
そして、俺はこいつの本職を知っている。
こいつ、元暗殺者だぞ?
『あ、そうだった……』
どうやら、その情報は持ち合わせていたらしい。
俺の家族くらいしか知らないことなのに、よく知っているな……。
そう、このグレイというメスガキ、一度俺の暗殺未遂を起こしている。
だから、母上って結構グレイに対してあたりキツイんだよな。
まあ、完全に自業自得だよな。殺されないだけ感謝してほしい。
『というか、そんな相手なのに、よく普通に雇えるね。自分の命を狙ってきたわけでしょ? 怖くないの?』
命を懸けた戦いなんて日常茶飯事だし、それくらいでは何とも思わねえなあ……。
今まで俺にどれほどの暗殺者が差し向けられたと思っているのか。
両手の指では数えきれないくらいである。
もちろん、俺が生きているということは、それらはすべて返り討ちにしたということだ。
それに……。
俺は振り返ってグレイを見る。
「お前、まだ俺の命狙ってんの? にしては全然暗殺されそうになったことないんだけど」
「見えないところでいっぱい暗殺を試みていますよ。ご主人様は悪い貴族ですからね。あたしがやっつけて、人々のヒーローになるんです」
「そうかよ」
それだけ聞いて、俺はまた前を向く。
ごしごしと背中をこすられている。
うーむ……まあ、自分でやるよりはいいか。
『いや、これ甘えているだけじゃない……? 原作でも最後まで裏切らなかった理由って、ディオニソスが子供として甘やかしてくれたからって言っていたし……。最後の最後まで付き従ったのは、涙が出ちゃうところだったよ……。まあ、君はそれすら踏みにじったわけだけど』
だから、知らない世界線の話をされても何も言えんわ。
まあ、グレイが俺に甘えているというのは事実だろな。
実際、俺以外にはこんな応対しないし。
母上や父上はまあ割と怖い人たちだから分かるが、あの守銭奴ダイアナにさえも、グレイはかなりしっかりとした対応をする。
それをせず、俺にあんな構って欲しがっているような言動をするのだから、甘えと言って差し支えないだろう。
俺も、忙しかったり切羽詰まっていたりするときにされたら腹立たしいが、こういう何もない時なら別に甘えられても何とも思わない。
構わないときの方が多いし。
そして、万が一グレイが再び俺を暗殺しようと襲い掛かってきたときは、まあ適当にぶっ飛ばすだけだ。
俺がこいつに負けるはずないし。
ということで、俺は大人しくグレイに背中を流させることにした。
「あー。もうちょっと強くこすってもいいぞ」
「これがあたしの全力です」
「お前……」
やっぱ、今後こいつに背中を流させるのやめよう……。
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『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第38話
https://unicorn.comic-ryu.jp/14156/




