第69話 見てくれていましたか? 母の雄姿を
最終章です!
最後までお付き合いお願いします!
ガタガタと馬車に揺られながら、俺はぼーっとしていた。
それなりに揺れるが、ケツとかが痛くなることはない。
ホーエンガンプ家所有の馬車だからな。
領民から搾り取った税金で、かなり良いものを作らせているのだ。
同じ馬車の中にいるのは、母であるユーフィリア・ホーエンガンプである。
今ではあまり外に出ることはないため、久しぶりの外出にニコニコとしていた。
一応、今から魔物の討伐なんだけどな……。
全然そんな雰囲気を感じさせない。
さすがだ……。
『えーと……。え、どういう展開……?』
脳内でプレイヤーが困惑している。キモイ。
どういう展開も何も……。
魔物が暴れているから、それの討伐をするってだけだろ。
まあ、普通は私兵がさっさと片付けておかないといけなかったんだろうが、どうにも特異個体みたいだからなあ……。
また訓練で痛めつけ……もとい、鍛えなおすことはするか。
『ちょっと。あまりやりすぎないようにね。逆恨みされて殺されることだってあるんだから。原作だと、横暴な君の味方をする人なんて、それこそグレイだけだったんだよ』
その原作っていうのが何なのかは知らんし知りたくもないが、結局裏切られる程度で殺される奴が悪いんだよ。
弱い奴が食い物にされて死ぬのは当然だろうが。
そのお前が見ていたっていう世界の俺は、随分と弱者だったようだな。
死んで当然だ、そんな奴。
『自分に対しても厳し……』
「しかし、ディオニソスと一緒に仕事なんて、随分と久しぶりですね。本当に初期の初期、わたくしの仕事を引き継ぐ時くらいでしょう? 愛する息子と一緒に仕事ができるなんて、とても幸せ者です」
ニコニコと俺の正面で嬉しそうにほほ笑む母。
たぶん、こんな柔らかい感じが誰に対してもされていれば、とてつもなく人気があったんだろうな。
ただ、基本的にこれほどの愛情を見せてくれるのは家族に対してだけで、領民などの他人には普通に厳しいので、がっつり恐れられている。
「いや……。俺だけでも十分だと思うんですけど」
「息子と一緒の時間を過ごしたいと思うのは、母として当然ですよ。一緒に頑張りましょうね、ディオニソス」
「っす……」
俺も乗り気な母親を追い散らすようなことはできない。
正直、泣かれると勝てないし……。
おそらく、俺に対して唯一泣き落としが通用するのが母だろう。
ダイアナとかに泣き落としされても、まったく効かない自信がある。ノーダメである。
『さすがの君も母親には勝てないんだねぇ……。こんなほんわかタイプだとは思ってもいなかったけど』
別に勝負してねえよ。
あと、ほんわかタイプってなんだ。
この人のこと、何も知らねえんだな。
『え?』
困惑したプレイヤーを差し置き、馬車が止まる。
御者を務めていた私兵が顔をのぞかせてきた。
「閣下、つきましたよ。結構被害あるっぽいですね」
「マジかよ。ここを担当していた私兵は後で特別鍛錬だって伝えておけ」
「うっわぁ……かわいそ。伝えておきまーす」
扉を開けて俺たちを外に出しながら、私兵がへらへらと笑う。
ちなみに、俺に対してそういう態度だが、母に対してはガッチガチになっていた。
俺以上に恐れられているの、凄いな……。
降りた場所は、その特異個体の魔物の襲撃場所だった。
小さな村だが、それがボロボロになっている。
幸い、領民にけが人はいるものの、死者は出ていないようだ。
良かった……。
同じことを母も考えたようで、眉をひそめながら口を開いた。
「ひどいですね……。わたくしたちに入ってくる税が減るじゃないですか……」
『え、そこ……?』
そこ以外に何もないぞ。
愕然としているプレイヤーに呆れていると……。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
耳を切り裂くような大きな怒声が響き渡る。
人間のそれではないことは、誰でも分かることだった。
周りにあった瓦礫を蹴散らしながら現れたのは、人型の魔物。
しかし、人間よりもはっきりと身長が高い。
それは、俺も何度か殺したことのある魔物だった。
「うわっ! また出たぞ、オーガだ!!」
『オーガ! 強力な魔物だね……!』
プレイヤーの言う通り、オーガという魔物はなかなかに強い。
俺はともかく、鍛えられた軍人でも油断するべきではなく、ましてや一人で戦うことなんてありえない。
小隊、あるいは中隊規模の軍隊が出張るような魔物だ。俺は一人だけど。
しかも、あれは特異個体だから、さらに強いみたいだぞ。
体表の色も違うし、あれは確かに私兵だと手に余るかな……。
本来、オーガは怒りに震えるような真っ赤な皮膚を持っているが、あれは黒い皮膚だった。
概して特異個体の魔物は、普通の魔物と違って何倍、何十倍もの力を持つ。
うーん……そう考えると、さすがに私兵数人程度だと厳しかったか……。
まあ、それでも討伐に失敗した私兵は後で痛めつけることは確定しているが。
「さて、じゃあ俺が……」
適当に剣を抜いて暴れる特異オーガを殺そうとしたときだった。
スッと手を挙げたのは、母だった。
「母がやりましょう」
「えっ……」
『えっ……』
やる……やるの……?
「わたくしもずっと何もしなければ身体が衰えていく一方ですし。それに、息子に格好いい母の姿を見せたいので」
むん、と力こぶを作って見せる母。
作れてないですよ、母上。
見た目たおやかな女がそんなことを言うので、事情を知らないプレイヤーや歴の浅い私兵はぎょっとしているが……。
俺はすんなりと受け入れた。
「え、あー……。じゃあ、お願いします」
「はい」
『えぇっ!? い、いやいやいや! 絶対に任せたらダメでしょ! あんな強そうな魔物に、お母さんを差し出すの!?』
ウキウキと笑みを浮かべながら俺の前に出る母上。
プレイヤーが驚きの声を脳内で発している。うるせえ。
別に差し出してねえよ。
というか、お前本当に知らねえんだな。
『何が!?』
視線の先では、近づいてくる母に気づいた黒いオーガが張り裂けそうな雄たけびを上げる。
そして、軽く振るだけで人の骨をへし折れる屈強な腕を、全力で振るった。
それを薄い笑みを浮かべて母上は見ていて……。
「俺の母親が、あんな雑魚に負けるわけねえだろ」
「えい♡」
俺の言葉と同時に、母が拳を振るった。
それは、拳と拳がぶつかり合うようなことになって……オーガの腕が消し飛んだ。
それと同時に防ぎきれなかった衝撃がさらにオーガを襲い、心臓のある胸や太い血管の通っている首をもろともに消し飛ばした。
『――――――』
脳内のプレイヤーが絶句している。
そして、俺や古参の私兵以外も唖然としていた。
言ってなかったな。
あの人、俺の前任の、ホーエンガンプ領の抑止力だよ。
「ディオニソス、見てくれていましたか? 母の雄姿を。あとでいっぱい褒めてくださいね」
返り血のついた顔でニコニコと微笑みながら、嬉しそうに俺を見てくる母上。
覚えておけよ、プレイヤー。
ちなみに、二つ名は【殺戮女王】な。
『えぇ……』
ひどく困惑した声が、脳内に残るのであった。
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下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第10話
https://magcomi.com/episode/12207421983410855800
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第38話
https://unicorn.comic-ryu.jp/14156/




