第63話 よくもまあそんな矛盾した言葉を吐けますわね……!
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揺れる馬車の中、ディオニソスはげっそりしていた。
その日の気分次第だが、彼は基本的には馬に乗って移動するのが好きだ。
馬車を使うときは、よほど疲れているときか、やる気が出ないとき。
今日に至っては、前者であった。
馬車の周りの警戒はマリエッタたち私兵に任せ、自分は馬車の中でダイアナと共にぼーっとしていた。
何なら、ダイアナはディオニソスの膝の上に頭をのせていた。
逆じゃないかと思われるだろうが、たまにこういうときもあるのである。
「……疲れたわ」
「確かに、とんでもない出来事でしたわね。革命軍に襲われるわ、騎士団長が裏切って攻撃を仕掛けてくるわ、殿下が一瞬行方不明になるわ……」
『さすがにディオニソスでも、疲れ知らずというわけではないんだねぇ。原作でもなかったほどのイベント目白押しだったし、当然と言えば当然だと思うけど』
当たり前だろ殺すぞ、と口にしなかったディオニソスは偉い。
今回起きたイベントは、一度でも発生すれば命を落としかねないものである。
と言っても、別に命を狙われて襲われるのはいいのだ。
どうせ負けないし、相手はズタボロにして楽しんでから殺すし。弱い者いじめは楽しい。
ただ、やはり問題はパトリシアである。
貴族であり、他人のことなんてそこらに転がっている石ころとの違いが分からないレベルのディオニソスであるが、この国の王女である彼女は、さすがに気軽に殺せる相手ではない。
唯一気軽に害することができない存在である。
そんな彼女は、やけにディオニソスに執着している。
やり返すことができないちょっかいを何度もかけられる相手だ。
怒りと疲労感が凄まじいことになるのは、言うまでもなかった。
『でも、凄いよ! パトリシアを大体殺していたシルバーを倒したから、あの悲惨な未来も回避することができたんじゃないかな!?』
「最悪じゃん……」
『喜ぶべきことでは……? まあ、シルバーが生きていたら、また襲撃があるかもしれないけど』
死んでくれていたら良かったのに……。
というか、プレイヤーの知っている世界ではすべからく死んでいる彼女が、どうしてこの世界線だけ生き残ってしまうのか。これが分からない。
絶望するディオニソス。
「というか、そもそもパトリシアを生かしておいて、何か得でもあんの?」
「王女に向かってとんでもないことを言いやがりますわね、このお兄様。言っておきますけど、無礼討ちされるのであれば、おひとりでお願いしますわね。わたくしも巻き込まれたら、たまったものではありませんもの」
ディオニソスの膝の上から呆れた目を向けてくるダイアナ。
ふざけたことを言いやがるので、思わず頭を落としてやろうかと思ったが、逆にギュッと優しく抱きしめた。
怪訝そうな顔をしつつ、ダイアナはなんとなく抱き返す。
お互いの体温や体臭をしっかりと感じられる距離で密着しあう。
そんな彼女の耳元で、優しくささやいた。
「俺とお前は一蓮托生、比翼連理。俺が死ぬときはお前が死ぬときだし、お前が死ぬときはお前だけが死ぬときだ」
「よくもまあそんな矛盾した言葉を吐けますわね……!」
逃げ出そうとジタバタ暴れるダイアナだが、ぎゅっと抱きしめたままだ。
膂力は計り知れないほどの差があるので、まったく逃げることができていなかった。
『でも、確かにどうなるんだろう……。パトリシアって、原作だと必ず死んでいたキャラだから、彼女が生き残ることでこれからどうなるかさっぱり分からないや。……まあ、もう色々と原作とは違うことが起きすぎているから、今更だろうけど』
「なんで確実に死ぬはずのあいつが、この世界だけ生き残るんだよ……。つらいわ……。シルバーくん、どうして……」
「自分で殺した相手のことをめそめそ言うのはやめてくださいまし。キモイですわ」
プレイヤーの知っている世界では、間違いなくなくなっている。
これからどんな風に世界が進むのか。ディオニソスに待ち受けている運命はどのようなものなのか。
もはや、想像することすらできなかった。
なお、そんな当人はシルバーを殺してしまったこと……というよりも、死んでしまったことに対してひどく落ち込んでいた。
今すぐアンデッドとして蘇り、パトリシアをぶっ殺してほしい。
そんなグズグズ言っているディオニソスを、鼻で笑いながらヨシヨシと頭を撫でるダイアナ。
そんな二人の兄妹を見て、ポツリとプレイヤーが呟く。
『……原作と言えば、君たちの関係も違うんだよねぇ』
「関係?」
『なんというか……こんなにべったりするような関係ではなかった』
それを聞いて、ディオニソスとダイアナは至近距離で顔を見つめ合う。
しばらくしてから、小首をかしげて……。
「べったり? どこが?」
『自覚がない、だと……?』
だいたい距離感的にはこんな感じである。
それは、物心ついた時からそうなので、今更距離が近いとか言われても、まったく心当たりがなかった。
なお、それでもお互いのことは嫌いと主張しあう模様。
「ところで、あなたの知っているわたくしたちは、どういう関係でしたの?」
『めっちゃ険悪だったよ。何だったら、最後はマリエッタと一緒にオオトリの味方をしてディオニソスを追い込んでいたし。……あ、これ言ったら疑心暗鬼になるやつかな? 忘れてもらえたりする?』
「いや、普通のことだろ。こいつ、いざとなれば全然俺を裏切って殺しにかかってくるだろ。今更だから、別にあえて言われても何とも思わんわ」
プレイヤーの知っている原作では、ダイアナは悪辣な貴族ホーエンガンプ家の一員として登場するが、その後主人公であるオオトリと交流を深め、彼の優しさに触れて優しい心を取り戻す。
最後には、悪辣なディオニソスと戦うオオトリを助けるべく、家族を裏切って兄に大きなダメージを与える。
マリエッタと共に悪辣なディオニソスの魔の手から逃れ、主人公に協力した二人のキャラクターは、とても人気があるのだが……。
おかしい。プレイヤーが見ている限り、マリエッタはともかく、ダイアナはむしろ原作主人公に誅されるべき悪辣な性格をしているように見える。
あと、この距離感ガバガバな兄を裏切るとは、とてもじゃないが思えなかったが……。
「確かに。わたくしも自分でそういうこともあるだろうなと思ってしまいますわ。……というか、あのマリエッタがお兄様を裏切りますの? マジで? もう人なんて信じられませんわ……。お金こそマネー」
「何言ってんだお前」
ダイアナからすれば、マリエッタが兄を裏切るとは到底思えなかった。
あんなにしっぽを振って、好き好きアピールをしまくっているというのに……。
やはり、人間なんてクソ。お金こそ至高。
ダイアナのお金至上主義が、さらに固まった瞬間だった。
なお、この世界とプレイヤーがいた創作世界では明らかに異なっているのだが、それを指摘する者は誰もいなかった。
「とりあえず、しばらくは領内で大人しくするか……。そもそも、今回も全部パトリシアが動かしてきたせいなんだけど」
「もとはと言えば、殿下にバンディット討伐のために呼びだされたんですものね。それが、いつの間にか王国騎士団長殺害に切り替わっているのですから、人生って分からないものですわ」
『そんな言葉で済ませられる問題じゃないんだよなあ……』
膝の上で広がるふわふわとした黒髪を弄りながら、ため息をつくディオニソス。
人をいじめるのも好きだし、他人を殺すことも楽しいが、しかしそれにパトリシアが関わるだけでこんなにも疲労する。
しばらくは言うことを聞いてやったので、黙って引きこもっていても文句は言われまい。
『でも、これでディオニソスの死の運命を少しは変えられたかも! 後は原作主人公のオオトリに媚びを売っていこうね!』
「死んだ方がマシ」
「お兄様が媚びを売っている姿なんて見たら、わたくし死にますわ」
『えぇ……? 変な所で愛が重い……』
ダイアナの中でのお兄様像があるようで、それに反すると強烈なショックを受けるらしい。
今の状態といい、こいつら仲いいだろ、と思うプレイヤー。
「帰ろう、俺たちの家に……」
「めちゃくちゃ重たくて響く言葉ですわね……」
『激重感情が込められているね……』
傷心したディオニソスを引き連れ、馬車はホーエンガンプ領に戻っていくのであった。
少ししてから、王室から『王女パトリシアを鬼畜シルバーから救い出した英雄』として王城に招待されることになるのだが、それは余談である。
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://magcomi.com/episode/2551460910063227225
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第8話
https://kimicomi.com/episodes/9f9f3e77bda4a
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第36話
https://unicorn.comic-ryu.jp/13165/
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第7話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1007534
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第8話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1007531




