第62話 娘が怖い
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王国騎士団長シルバー・フリムランの死亡は、王国中に強烈な衝撃を与えた。
パトリシアのように民と深く接点があるわけではないので、民からの反応はそれほど大きくはなかった。
騎士の中でも偉い人が死んだ。その程度の認識である。
しかし、守護されていた王族や貴族……特に王族に近い立場の貴族たちにとっては、とてつもなく大きなニュースであった。
何せ、ほとんど力を持たない王族が持ちうる、最大戦力がシルバーだった。
それは名目上だけではなく、実際に彼の戦力も立派なもの。
魔剣『リンデロート』を振るうシルバーは、それこそ近隣諸国にも名が知られている世界でも有数の騎士であった。
そんな彼が死んだ。しかも、王女パトリシアの護衛中にである。
「バカな!? どうしてこんなことになっている!」
ダン! と強く玉座に拳を叩きつけるのは、唯一この場所に座ることが許されている、国王グスタフである。
老齢とは思えないほど、その怒りには迫力があった。
側近がいれば、恐れおののいていたことだろう。
しかし、この場所はすでに人払いがされており、彼の護衛は部屋の外で警戒を続けている。
部屋の中にいるのは、グスタフ以外にはもう一人。
彼の実子である、パトリシア・レッドフォードだけである。
彼女はその怒りをまき散らすグスタフを見ても、ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべ続けるのみ。
盲目であるからこそ、その怒りを軽減して受け止めることができているのか。
はたまた、たとえ目が見えていたとしても、何ら恐怖を抱かないか。
それは、彼女にしか分からないことだった。
「シルバー。ワシに仕えてくれていた騎士。王族に権力を復活させるために、使い勝手のいい駒だったのだが……。これで、ワシの計画が大幅に変更を余儀なくされた……!」
言葉の節々から、シルバーを真に信頼していたというわけではないことが伝わってくる。
自分の父親もなかなか外道だな、と思うのはパトリシアである。
まあ、シルバーの方もろくに忠誠をグスタフに誓っていたわけではないので、似た者主従だったということだ。
「その原因が、ディオニソス・ホーエンガンプ。殺戮皇と称される大貴族の嫡男。どうしてまたあんな者が我が国に生まれ、好き放題するのか……。いくらか罰を与えたいものだが……」
「今のお父様がホーエンガンプ家に明確に敵対することは止めた方がいいと思いますが。メリットよりも、デメリットの方がはるかに大きいですよ。下手をすれば、潰されます」
ディオニソスのことが話題に上がったことで、パトリシアも口をはさむ。
ぶっちゃけ、好きな男に多少ちょっかいをかけるのは楽しいからいいのだが、本気で敵対関係になるのは困るのである。
ディオニソスが、その方が燃えるというのであればやぶさかではないが、あれはそういう面倒くさいことは嫌いだろう。
というか、そうなったら嬉々として殺しにかかってきそうだ。
悦んでいる姿を見るのはいいが、それで殺されるのは、まだ困る。
それに、シルバー亡き今、王族の抱える戦力は大きく減った。
その状態で、ホーエンガンプ家と敵対するのは非常にマズイ。
ホーエンガンプ家の武力担当であるディオニソスを筆頭に、あそこの一族はどいつもこいつもぶっ飛んでいる。
無論、貴族の中には王家への忠誠を誓っている者もおり、いざとなればその力を借りることはできるだろうが、それ以上にホーエンガンプ家の悪名の方がとどろいている。
何せ、ディオニソスは敵対した者を串刺しにしたり拷問にかけたりしたうえで皆殺しにしている。
徹底的に痛めつけられる恐怖から、敵対する気概すら失わせてくる。
いざというとき、実際に王家に味方する者がどれほどいるのか、未知数であった。
「王族を潰す、か。他国では考えられないことだな。そのことを聞くと、よりワシは目的にまい進せねばならんと思うよ」
「今の他国は知りませんが、歴史では貴族や民の反乱、革命によって倒れた王朝はいくつもありますが」
王家の復権。
それこそが、グスタフの望み。
今のようなかりそめの力ではなく、確かに王国を支配する力を。
それを窘めつつ、パトリシアは続ける。
「それに、申し上げたじゃないですか。ディオニソス様は、シルバーと革命軍から、私を守ってくれたんです」
「……それもまたにわかには信じがたい。なぜ革命軍がパトリシアの行動を読んでいたのか。それに、シルバーが王族を裏切るなんて……」
だいたい全部パトリシアのせいである……が、もちろんグスタフにそれを知るすべはない。
彼女の本性を知っているのは、シルバーが死んだ今、ディオニソスくらいだからだ。
「何より、あのディオニソス・ホーエンガンプが王族を助けるだと……? パトリシアに価値を見出しているのか?」
悩むしぐさを見せるグスタフに、ニコニコとするパトリシア。
自分の考えている通りに誘導されてくれて、嬉しい限りだ。
「だとしたら、ホーエンガンプ家を取り込むために……。いや、さすがにお前の前でする話ではなかったな」
「いえ、私は大丈夫ですよ。それに、ディオニソス様のこと、私はそんなに嫌ではありませんよ」
「ふむ……」
ばつが悪そうに眉を顰めるグスタフだが、ディオニソスのことならパトリシアは何ら問題ない。
自分のことを王家復権のための道具としか思っていないように聞こえるが、それもどうでもいい。
ディオニソスのお嫁さんになれるのであれば、何でもいいのだ。
今、グスタフの中では、パトリシアを使った婚姻外交で結びつきを強めるべき先として、諸外国のほかにホーエンガンプ家が急上昇している。
もともと、外国との連携は苦渋の決断だったのだ。
外国と結びつきを強めて力を借りるということは、内政に干渉させるということ。
それは悪手ではあるのだが、そうでなければ復権できないと考えていた。
しかし、ホーエンガンプ家の力はすさまじい。
武力はもちろん、財力や政治力も王国随一だろう。
それを味方に組み入れることができれば……とは思うのだが、あの一家と手を結ぶのは、諸外国と手を結ぶよりも具合が悪そうに見える。
うんうんと頭を悩ませていると……。
「――――――へー、そうなの? ディオニソス・ホーエンガンプってやばい奴だって聞いていたけど、お姉さまが手を出されていないって、そんなに悪い奴じゃないのかな?」
楽し気な女の声が響く。
無論、王と王女しかいないこの場所に、許可もなくのこのこと侵入してくることは、本来不可能だ。
そんなことは許されないし、そもそも周りを警戒している護衛に捕まることだろう。
つまり、ここに侵入してきているというのは、護衛たちが見逃さざるを得ず、国王からも処罰が下されないような人物で……。
そんな彼女は、ニコニコと楽しそうに笑っていた。
柔らかな笑顔はパトリシアと似ているが、どちらかというともっと若く、楽しいことを求めているような、そんな笑顔だった。
パトリシアの笑顔が少し硬く、怖くなることには、誰も気づいていない。
「ニューイリス……」
ニューイリス・レッドフォード。
王家に連なる一人であり、パトリシアの妹である。
彼女と血のつながりを感じさせる銀色の髪は、姉と違って長い。
腰のあたりまで伸びているそれは、毎日丹念に手入れをされているため、ふわふわとウェーブがかっている。
その長さほどではないが前髪も長く、目は隠れてしまっている。
しかし、口元は愉快そうにゆがんでおり、目が見えずともニマニマと楽しそうに笑っていることは明白だった。
そして、特徴的なのはその胸部である。
パトリシアも豊かな方だが、妹のそれは姉のそれをもしのいでいた。
姉と違って目もしっかり見えているため、グスタフにとっては婚姻外交の重要な一人であると認識する娘であった。
「ニューイリス。お前にはやるべきことがあるはずだが……」
「ちゃんと全部終わらせてきたよー。僕がお父様の言うことを無視するわけないじゃんか」
「うむ……」
媚びてくるように言うニューイリスに頷く。
彼女はどうにも生き方が上手い。
強者と敵対するようなことはせず、しかし自分の楽しいことも追及する。
やることをやっていたら怒ることもできないので、今だってそうだろう。
そんな彼女は、パトリシアにスリスリと寄っていた。
「それで、ディオニソス・ホーエンガンプの話をしていなかった? 王国一やばい貴族らしいし、前から興味があったんだよね。近づいただけで殺されるような奴だったらさすがに近寄りたくないけど、お姉さまが無事だったら僕でも大丈夫そう」
ディオニソス・ホーエンガンプ。
ニューイリスにとって、非常に興味深い男である。
殺戮皇という悍ましい二つ名をつけられ、悪名がとどろいている大貴族の嫡男。
だというのに、いまだに貴族としての立場にあり、恨みを持つ者から復讐されていないということは、それだけ有能で力を持っているということだろう。
しょせん、この世は力がすべてだ。
傍若無人なふるまいをしても、力があれば、その間は自由に謳歌することができる。
ディオニソスは、それが恐ろしく強いため、今もまだ健在なのだろう。
目につく女をすべて犯し、殺すような人格破綻者なら近づくことすらままならないが、パトリシアという盲目の儚い美女相手にそれがないということは、少なくとも王族という立場である自分もいきなり殺されることはないだろう。
ならば、暇つぶしに少し話をしたい。
そう考えていたのだが……。
「あなたには関係のない話ですよ。自分の部屋に戻ったらどうですか?」
「…………」
ビシッと跳ねのけるのはパトリシアである。
彼女がこんなにも強く、明確に拒絶の意思を見せることなんて初めてのことで、グスタフは少々唖然としてしまっていた。
その反応をどこか楽しそうに見ていたニューイリスは、それでも引き下がらない。
「んー……。どうしてもだめ? お姉さま、とても弱いから、そんな人に手を出していないってことは、安全ってことだと思うんだけど」
「ダメですよ。お父様からもちゃんと言ってください」
「う、うむ、ダメだぞ、ニューイリス。これから取り込むことは検討するが、王族を二人も近づけることはまかりならん。危険な男であることは、間違いないのだからな」
父親グスタフ、初めて娘がちょっと怖いと思った。
パトリシアの笑顔は、まさに笑っているが笑っていないと表現するにふさわしいものだった。
それをじっと見ていたニューイリスは……。
「……はーい。僕、ちゃんと言うこと聞くよー」
そう言うと、ニューイリスはひょこひょこと部屋を出て行った。
パトリシアの言葉を受け入れ、従順に従っているように見えるが……。
「隠れて会いに行こっと」
まったく聞いていなかった。
むしろ、今までほとんどのことに執着しなかったパトリシアが、固執しているように見えるディオニソスに、さらなる興味がわいてくる。
ウキウキで彼にちょっかいをかけるのも、時間の問題だった。
「…………」
出て行ったニューイリスを見るパトリシア。
その顔は能面のようで、グスタフは冷や汗を流した。
「ぱ、パトリシア?」
「なんですか、お父様?」
「い、いや……」
娘が怖い。
今まで道具としか見ていなかったパトリシアのご機嫌を伺うようになったのは、この時からであった。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第42話
https://www.comic-ryu.jp/36413/
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://magcomi.com/episode/2551460910063227225
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第8話
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『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第36話
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『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第7話
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『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第8話
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