第59話 バカな奴だな
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「そ、それだけの力を持つ魔剣だ。代償も相当なものだろう。そんな代物を使用し続けてもいいのか?」
「あ?」
何とか絞り出した言葉だった。
強大な力には、それ相応の代償が伴う。
大きな魔法を使おうとすれば、応分の魔力の消耗が。
魔剣『アドリア』のような能力ならば、より重たく、よりおぞましい代償があるはずだ。
『確かに、それは気になるね。僕のディオニソスに何かあったら大変だ』
「お前のじゃない」
「お兄様に代償……? ちょっとワクワクしてきましたわ」
「あー……まあ、一応あるな」
もう面倒くさくなったディオニソスは、ダイアナは無視して話し始める。
別に好きな兄ではないが、無視されるのはちょっと違うと、ダイアナは不満顔である。
「まず、死の呪いを使うと寿命が吸い取られる。使用者にもよるが、早ければ数回使っただけで20代でも老衰で死ぬ。まあ、複数人を殺せたら十分だろうが」
『おっも!』
そうだろうと、シルバーは頷いた。
でなければ、この魔剣『アドリア』は、もっと猛威を振るっていたことだろう。
それこそ、歴史に名を残し、危険武具として封印指定されるほどの。
それがないということは、そもそも猛威を振るう前に今までの使用者は死亡したということである。
「もう一つは、使用者は死んだ後に、斬った相手と同じように輪廻転生できなくなる。ちなみに、『アドリア』で斬られて囚われた奴は、その当時の使用者が死ねば代わりに解放されるみたいだな。ただ、使用者は永遠に囚われ続ける。二度と解放されないみたいだ」
サラッと言ってのけるディオニソスだが、それを聞いていた者たちは言葉を失った。
あまりにも重たい。
死後、永遠に苦しみ続け、囚われる。
それが、どれほどのものか。
今まで魔剣『アドリア』の使用者がどれほどいたのかは知らないが、今もなお苦しんでいるということになる。
目をこらせば、ディオニソスの背後にうっすらと現れている。
過去の使用者の、怨嗟と絶望に満ちた顔が。
「めちゃくちゃデメリット大きいですけれど、何で平然とそれを使って愛剣にしていますの? お兄様って、もともとバカですけれど、さらに振り切れたバカになったんですの?」
「お前、もう俺の投資先からお金回収するの禁止な」
「ッ!?」
縋り付く妹と蹴散らそうとする兄。
シルバーは冷や汗を垂らしながら口を開く。
「そのような代償がある中で、まだ魔剣を? あまりお勧めしませんな。斬った相手よりも、よほどつらい未来が待っているじゃないか。まさか、今が楽しければそれでいいと、思考停止している愚か者たちと同じではないだろう?」
「ん? 今話したのは、『アドリア』の使用する際の代償だよ。俺の代償じゃない」
「……どういうことだ?」
ディオニソスは何でもないように言った。
「だから、そのままだよ。普通、『アドリア』を使ったらその代償を支払う羽目になるんだが、俺は無理やり屈服させたから、その代償がないんだよ」
「…………は?」
唖然とする。
つまり、ディオニソスはあれだけ強力な能力を、何の対価も支払わずに何度でも使用することができるというのか?
そんなことは、あまりにも……。
「えぇ……? 魔剣を屈服って……どうしますの……?」
「なんかこう……ぎゅって……」
『全然可愛らしい擬音なのに、君が言うと恐ろしく感じるのはなんでだろう?』
魔剣を屈服。
そんなことができるのか?
自身も魔剣を扱うが、そのようなことは一度も考えたことがなかった。
「まあ、どうでもいいだろ。俺が愛剣を使うも使わないも、お前には関係ないし。ほら、さっさとかかってこい」
「…………ッ!」
ちょいちょいと手招きをされる。
しかし、シルバーの足は動かなかった。
『アドリア』の能力を聞かされて、先ほどまでと同じように戦闘ができるはずもない。
そんな彼を見て、ディオニソスは失望したようにため息をつく。
「なんだ。お前もビビるのか。偉そうに騎士団長とかしていても、しょせん雑魚だな」
「わ、私を愚弄するなと……」
「まあ、お前から戦わないんだったら、いいや。ほら、逃げていいぞ」
「――――――」
興味を失ったように背中を向けた。
それを受けて、愕然とした。
戦いのさなかに、背中を向ける。
あまりにも致命的な隙だ。誰でも絶対にやらないような、愚かな行動。
それを、ディオニソスはやった。
すなわち、それが意味するのは、もはや自分のことは敵としてすら見ていないということで……。
「え、いいんですの?」
「いいよ、別に。俺、殺すのも好きだけど、弱い奴がみじめな思いをしているのを見るのも好きだし」
もう完全に興味は失せたと。
シルバーを一人の敵、一人の男として見ず、そこらに転がっている石ころと同じだと。
口には出さないものの、言外にそう告げていた。
最後に、ちらりと一瞥をくれた。
「じゃあな、負け犬」
「――――――おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
咆哮。
それは、恐怖を打ち払うための、戦士の覚悟。
彼の夢はあまりにもアレなものだが、しかしそこに上り詰めるまでに行った努力や実績は本物。
騎士団長シルバー・フリムラン。
巨悪である殺戮皇ディオニソス・ホーエンガンプに斬りかかる。
「私を、私を下に見るなああああああああ!!」
「せっかく逃がしてやるって言ったのに……」
見事な一撃だった。
魔剣『リンデロート』を振るうその姿は、まさに騎士の中の騎士。
教本の題材にされるべき、美しい一振りだった。
「バカな奴だな」
そんなシルバーを、ディオニソスは斬った。
振り下ろされた魔剣『リンデロート』をもへし折った。
それだけでなく、シルバーの身体に、大きな傷をつける。
血が噴き出し、地面が濡れる。
『……原作主人公、どうやってこれに勝ったんだっけ』
プレイヤーが呆然と呟いた。
王国騎士団長シルバー・フリムラン。
殺戮皇ディオニソス・ホーエンガンプに切り捨てられ、地面に倒れるのであった。
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下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第5話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1002849
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第35話
https://unicorn.comic-ryu.jp/12775/
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第42話
https://www.comic-ryu.jp/36413/
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://magcomi.com/episode/2551460910063227225




