第58話 勇ましく戦ってくれよ
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「なん、だ……それは……」
ディオニソスが取り出した魔剣『アドリア』。
それは、シルバーの持つ魔剣『リンデロート』と違い、何かしらの力を出しているものではなかった。
一見すると、ただの剣である。
魔力が溢れ出しているわけでもなければ、魔物が生み出されるわけでもない。
ディオニソスが普通の剣を、魔剣と騙っているだけのようにすら思える。
だとしたら、どれほど面白いことか。
シルバーも腹を抱えて笑ったことだろう。
そもそも、ディオニソスが魔剣を保持しているなんて情報は、一切なかった。
だというのに、笑うことができなかったのは、シルバーの目が、あの剣を魔剣だと認めていたから。
ただの武器でないことを、優れた能力を持つシルバー自身が本能的に悟ってしまったからである。
「……ディオニソス殿が魔剣を持っていたとは。知りませんでしたな」
「それはそうだろうな。だって、これを抜いた時、相手は全員殺しているし。情報が洩れることがないんだよな」
トントンと肩で跳ねさせる。
情報は非常に重要だ。
事前にそれを知ることができれば、対策を立てることができる。
無論、その程度で敗北することなんてありえないが、面倒くさいのは面倒くさい。
強くあるためには、余計な情報を漏らさないことが肝要である。
ディオニソスはそれを実践していた。
「ご存じですかな? 魔剣はすべて王国に報告し、管理を任せなければならないと。私が持っている『リンデロート』も、グスタフ王からお預かりしているだけだ」
「なんで俺が国王なんかが決めたことに従わないといけないんだよ……?」
『この国の貴族だからでは?』
「うっせー。知らねー」
とぼけているわけではなく、本当に理解できないという様子のディオニソスに、シルバーはちょっと引く。
プレイヤーの正論も何のその。
王族への忠誠心なんてかけらも持ち合わせていないこの男が、ちゃんとルールを守るはずもなかった。
「まあ、どうでもいいだろ。ここでお前も死ぬ。また俺の魔剣所持を知る者は誰もいなくなるわけだし」
「私も魔剣を所有している。魔剣所有者同士の殺し合いだ。どちらが勝つかなんて、分かったものではないだろう。貴殿が死ぬこともありうるが?」
「それはないな。素の力でも俺の方が強いし。それに……」
シルバーの強さは、うぬぼれでは決してない。
政治闘争はもちろんあったが、それに勝つだけで騎士団長にまではなれない。
それに見合うだけの戦闘能力があり、魔剣『リンデロート』の力も十全に振るうことができる彼は、間違いなく有数の強者である。
それを切り捨てるのがディオニソスである。
たとえ、魔剣がなくとも、このまま潰すことだってできる。
そこらにある粗悪品の武器でも、シルバーを縊り殺すことができる。
「この魔剣を相手に、普通に、自分の力を完全に発揮して戦えるのか? 俺は、今までそんな奴は見たことないな」
「なに、を……」
理由を問いただそうとしたところで、言葉が詰まる。
ディオニソスの背後に、龍や巨人が現れたからである。
自分が生み出したはずの魔物を、ディオニソスが従えている……?
いや、そうではない。
魔物たちの目は、苦痛と恐怖、怯え、憎悪に満ちていて、それらはすべて自分ではなくディオニソスに向けられているから。
そもそも、それらは実体を持っていない。
まるで、幽霊のようだ。
「私の龍や巨人が……? どういうことだ? 確かに貴殿が斬り殺したはずで……」
「なんでだろうな……と、普段の俺だったら言うだろう。戦っている相手にからくりを教えるなんて馬鹿のすることだ。だけど、この魔剣に関しては違うんだよな。ネタ晴らしをした方が、俺にとって都合がよくなる」
『うわぁ、これは悪役だぁ……』
ニヤニヤと嗜虐的に笑うディオニソス。
原作通りの悪辣ぶりに、プレイヤーは声を震わせる。
そんな声を完全に無視し、見せびらかすように魔剣を掲げる。
「これ、魔剣『アドリア』っていうんだ。結構昔から使っている、俺の愛剣。いつでもどこでも取り出すことができるから便利なんだ」
『絶対にそれだけじゃないよね』
「で、効果なんだけど、二つある。一つは、これで斬った相手は、死の呪いがかけられる。優れた魔法使いの解呪などがされたら話は別かもしれないが、まあ大抵死ぬ。斬られたのが致命傷でなくとも死ぬから、超便利。俺は好き」
目を見張るべき能力だ。
シルバーの持つ魔剣『リンデロート』は、一気に強力な魔物を複数召喚することができるという、まさに国崩しをするにうってつけの魔剣である。
対して、ディオニソスが持つ魔剣『アドリア』は、個人戦では敵なしの能力だ。
どれほどの傷を負えばその呪いが発動するかは分からないが、ディオニソスを相手に無傷で勝利を得なければ死ぬのである。
無理ゲーにもほどがあった。
直接戦闘してそれが理解できているシルバーは、冷や汗を流す。
「……魔剣らしい、非常に強力な武器だな。それで、もう一つの効果は?」
「ああ、こっちが本命だよ。俺、これがあるから気に入っているんだ。ぶっちゃけ、斬ったら殺す程度の魔剣なら、そんなに使っていなかったかもしれない。呪いの効果が出る前に、俺が斬ったらだいたい致命傷になるし」
死の呪いを使わなくとも、たいてい相手は死ぬ。
先程のシルバーが生み出した魔物たちが分かりやすい。
あれは、呪いが発動する前にディオニソスによって輪切りにされているので、とっくに死んでいる。
この能力だけなら、彼にとってはあまり有益とは言えず、愛剣と呼ぶほどには利用していなかっただろう。
気に入ったのは、もう一つの能力だ。
「なあ、輪廻転生って知っているか?」
「……死んだら、また何かの生物に生まれ変わるというものか?」
「ああ、そんな認識でいいと思うぞ。俺も詳しいわけじゃないし」
ニヤニヤ笑いをさらに深め、ディオニソスは自慢するように言った。
「この魔剣『アドリア』は、それをさせない」
「……どういうことだ?」
「どういうこともこういうこともなく、そのままの意味だよ。この魔剣に斬られて死んだ奴は、転生できなくなるんだ。つまり」
口が裂けんばかりに歪む。
「――――――死後も成仏することなく、永遠に死の苦痛に苛まれながら、これに囚われ続けることになる」
「…………ッ!!」
「えっぐ……。わたくしはそれで斬らないでくださいまし……」
顔を青ざめさせるシルバー。
自分の欲望のために行動し、遂には今回の蛮行にも及んだ。
恐怖というリミッターがそもそも存在していなかった彼が、今明確に怯えた。
ダイアナが小さく何かを言っているが無視である。
「これを言うと、皆今まで通り、普通に戦えなくなるんだよ。そりゃ嫌だよなあ? 殺されるだけじゃなく、死んだ後も永遠に苦しみ続けることになるなんてさ。まあ、『アドリア』の本当の力の意味は、もっと先にあるんだが……それは、お前が気にすることじゃない」
死ぬのは恐ろしいことだ。
それが一般的な評価となっているのは、死後どうなるのか、生きている者は誰も分からないからだ。
死んだ後にどうなるか分かっていれば、それに対して準備をする。覚悟をする。
そんな世界だったら、今ほど死に対して恐怖を抱く者は多くなかっただろう。
そう考えると、魔剣『アドリア』に斬られることは、死後どうなるか分かっているから、未知に対する恐怖はないかもしれない。
しかし、待ち受けている末路があまりにも凄惨だ。
必ず苦しむことになる、死んだ後も。
それが分かっていて、勇猛果敢にディオニソスに勝負を挑めるものが、どれほどいるだろうか?
そもそも、彼が取るに足らない雑魚ならば、これほど悩むことはない。
だが、ディオニソスは恐ろしく強い。
それこそ、死を覚悟するほどに。
「どれほど戦いに慣れた戦士でも、勇者と呼べるほど勇ましい者でも……いや、傷を負うことを恐れないからこそ、この魔剣の力を知れば、誰もが怯えてまともに身動きが取れなくなる。なにせ、斬られたら死ぬんだからな。多少の傷を負うことすら避けなければならないんだ」
そして、無傷でディオニソスに勝利することなんて、不可能だ。
誰がそんなことができるのだろうか?
確かに世の中には想像を絶する強者もいるが……少なくとも、この場にはいない。
「ほら、お前が生み出した魔物は、とっくに囚われたぞ。今度は、お前の番だ」
「…………ッ!」
魔剣『リンデロート』を持つ手が震える。
足がすくんで身動きが取れない。
そんなシルバーを見て、ディオニソスは悪役らしく、嗜虐的に笑った。
「格好よく、勇ましく戦ってくれよ」
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
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下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第5話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1002849
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第35話
https://unicorn.comic-ryu.jp/12775/
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第42話
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://magcomi.com/episode/2551460910063227225




