第56話 あ? 侮辱か?
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「はあ、はあ……。くそ……っ!」
ジーナを抱えながら歩くフロウ。
かなり二人して突出して進んでいたので、仲間たちがいる場所にもたどり着けていない。
早く合流し、撤退をしなければ。
そして、また体制を立て直し、この国に革命をもたらす。
「あ……フロウ……?」
「ジーナ! 大丈夫、すぐに手当てをしてもらうから。それまで、少し我慢してね」
「あいつ、は……?」
目を覚ましたジーナは、痛みに顔を歪めながらも視線をさまよわせていた。
警戒と、恐怖。その二つが混じっている。
フロウは悔しそうに顔を歪める。
「……ディオニソスは、倒せなかった。ごめん、僕がふがいないばかりに……!」
しかし、その言葉はジーナの求めるものではなかった。
「違う、あいつ……シルバー、の方よ……!」
「シルバー? ……分からないんだ。君を人質に取られて、僕はそれを助け出すことにいっぱいで……。今、あの男がディオニソスと相対していると思う。どういう理由かは分からないけど、僕たちを見逃してディオニソスと戦うのであれば、僕たちの敵が潰し合ってくれている。これは、僕たちにとって悪いことじゃ……」
王国騎士団長シルバー・フリムラン。
自分たちが革命軍という敵対組織だから仕方ないかもしれないが、なかなかに悪辣な態度をとる男だった。
本来、騎士団長である彼は、国と王族を守る存在。
現体制と敵対している革命軍を……それも、実行部隊として悪名を轟かせているフロウとジーナを見逃す理由なんてないはずだが……。
理由は分からないが、革命軍にとって脅威である二人が潰し合ってくれるのであれば、それは構わないだろう。
だが、その甘い考えをジーナは否定した。
「違うわ……! あいつ、相当のゴミ野郎よ!」
「ご、ゴミ……?」
もともと口が悪い子だったが、ここまでだったか?
冷や汗を流しながら考えるが、さらにジーナはつづけた。
「それに、むかつくことだけど……」
グッと強くフロウの服を掴み、唸る。
「あいつ、とんでもなく強いわ……!」
◆
ドン、とぶつかり合う音がする。
剣と剣。金属製のそれらがぶつかる音とは、また違う。
「剣を振るう者が卓越した者同士なら、そんな音に違いが出るんですのねぇ」
ほへーっと、磨き上げられた演舞を見るように、他人事のように感想を漏らすダイアナ。
実際、彼女は敵と斬り合うような技術は持ち合わせていないし、門外漢である。
何なら、近衛騎士の剣技を見ても凄いと子供のような感想を出すしかない程度の知識しかない。
それでも、そんな素人である彼女でも、二人……【殺戮皇】ディオニソス・ホーエンガンプと近衛騎士団長シルバー・フリムランの技術は、それらとは一線を画していると思えた。
いつの間にかいなくなっているパトリシアには、気づくこともなく。
「(剣技、か。私も騎士団長まで上り詰めたのは、政治力もあるが戦闘技術の高さもある。それゆえに、騎士団の中では、相当に上の方だろう。その自負はあるし、驕りではない)」
ディオニソスと切り結びながら、シルバーは考える。
今も暴風を身にまといながら迫りくる剣を、卓越した技術でいなす。
傍から見ている素人、ダイアナには、とても息の合った美しい剣舞に見えている。
だが、実態はまったく異なる。
「よくもまあ、そんな力でここまで上り詰めたものだ」
「あ? 侮辱か? 殺すぞ」
『判断が早い!』
さらに苛烈に攻め立ててくるディオニソス。
それをいなし続けるシルバー。
いくつも剣がまじりあい、火花を散らす。
「いいや、違う。私は称賛しているのだよ、ディオニソス殿。今までは貴族というだけで敬称をつけていたが、貴殿の実力に敬意を表したい。ニックとの戦闘でも分かっていたことだが……貴殿は恐ろしく強いな」
「お前に言われなくても分かってるわ」
『自己評価が高い!』
うなりを上げて迫る剣。
今度は打ち払うことなく、受け止める。
「ディオニソス殿。おかしなことを聞くが、誰かから指南を受けたことは?」
「剣の? ないけど?」
「でしょうな」
ふっと笑うシルバー。
バカにしてんのか? といきり立つ。
どっちにしろ殺すつもりだったが、徹底的に痛めつけてから殺さなければわりに合わない。
「ディオニソス殿の剣に技術はない。優れた技、磨き抜かれた術。それらはない」
「よーし、バカにしてんだな。よかったな、ダイアナ。今日は騎士団長の活け造りだ」
「人肉趣味はないですわ……」
「――――――その技術がないのに、騎士団長である私と互角以上」
冷や汗を流す。
強いということは知っていた。
ニックとの戦いを見ていたのだから。
彼もエリート集団である近衛騎士であり、その中でも成長著しいエースである。
手も足も出ずに敗北せしめていた実力は本物であることは理解していたが、こうして相対して直接戦うと、より改めてその力を理解した。
「ディオニソス殿の剣は、ただの暴力だ。しかし、あまりにも圧倒的で、強大な。本来であれば、技術の前には屈するしかない純粋な力だが、ここまで大きいと、その技術すら飲み込む」
ふうっと息を吐く。
「これでは、騎士は形無しだな。日々鍛錬し、教えを乞い、技術を体系化して力をつけている我々からすると、貴殿の存在はそのものが侮辱に映る」
「お前らが雑魚なだけだろ」
つばぜり合いから、形勢がディオニソスに傾く。
圧倒的な力。それが、シルバーを追い詰める。
騎士団に所属して数十年。
凶悪な犯罪者はもちろん、人間をはるかに超えた力を持つ魔物とも戦ってきた。
人食い鬼のオーガや、魔物の象徴ともいえるドラゴンとも。
しかし、この力は……ディオニソスの暴力は、それらのどれよりも強く、重たいものだった。
「がっ!?」
ビッと額が裂ける。
避けたと思ったが、完全には無理だったらしい。
額から血を流すシルバーを、ディオニソスはニヤニヤと笑っていた。
『でも、ディオニソスって誰かから戦う方法や技術を教えられたわけじゃないんだよね? じゃあ、何でそんなに強いの?』
「え、知らん。俺、生まれた時から強かったし。弱いころから強くなるという過程がないんだよな。だから、弱者の気持ちがさっぱり分からん」
「ちなみに、ホラではなくガチですわよ。お兄様、指南役をつけたことはないですし、お父様やお母様からも鍛えられたことはないですわ。この世のバグですわよ」
『ひぇぇ……。なんて悪役らしいんだ……。しゅき』
「殺すぞ」
くっと笑う。
生まれた時から強いなんて、つまらないギャグでしかない。
当たり前だが、人間でそんな存在があるわけがない。
すべての人間は、親やそれ以外の存在から庇護され、導かれ、教えられて成長するものだからだ。
だが……。
「ありえないはずだが、ディオニソス殿なら本当にそうかもしれない。そう思ってしまうな」
「だから、嘘じゃないっての」
「しかし、私も決してあきらめることはできん。私には、夢があるのだ」
「……だいぶ趣味の悪い夢だと思うんだけど」
あの国民から愛されている清廉な王女パトリシアを侍らせる。
そして、その勢いのまま、この国を乗っ取る。
美しい女を手中に収め、国を奪う。
それこそ、男として生まれたからには、必ず実現したい夢である。
そのために、シルバーは鍛錬を積み重ね、ただ努力だけでは上り詰めることのできない騎士団長にまでなった。
夢は、すでに目の前だ。
その前に立ちはだかる愚かな貴族を、今こそ打ち滅ぼす。
「出し惜しみをしている暇はないな。ディオニソス殿、ここで死んでくれ」
今まで使っていた剣を捨てる。
それもまた、名工が作った名剣。
しかし、この程度ではディオニソスを殺せない。
ならば、自分の持つとっておきを披露するしかない。
自分が真にこの地位まで上り詰めることができた力を、今こそ。
「――――――魔剣『リンデロート』」
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『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第34話
https://unicorn.comic-ryu.jp/12473/
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第42話(後編)
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第5話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1002849




