第49話 この状況を
街の中では、怒号と剣戟の音が鳴り響いていた。
王女パトリシアを護衛するために派遣されてきていた近衛騎士団。
そして、王都で好き勝手遊んでウキウキで帰る途中のディオニソス私兵団。
そんな彼らと戦っているのは、革命軍。
この国の変革を、暴力を持って行おうとする集団である。
本来であれば、近衛と私兵団の勝ちはゆるぎなかっただろう。
しかし……。
「おい、邪魔だって! こっち来んな!」
「貴様らが邪魔だ! 私たちの邪魔をするな!」
この両者、恐ろしいほどに息が合わなかった。
もともと、人間性が正反対なのが、この両者である。
清廉で高潔な、王族と王国に対する忠誠心の高い近衛騎士団。
粗雑で乱暴な、忠誠心ってなに? 食べれるの? みたいな精神で自分のことしか考えない私兵団。
彼らが息を合わせて行動することなんて、できるはずもなかった。
ましてや、戦闘においての協力は、日ごろから鍛錬を積み重ねてお互いのことを知っていなければ不可能である。
そのため、二つの集団は普段の実力をまるで発揮できないまま、革命軍に押されまくっていた。
また、今回の襲撃に参加しているのは、革命軍の中でも精鋭の者たち。
そのおかげで、深く浸透することができていた。
「ぐっ!? 革命軍だ! こんなところにまで……!」
「殿下には、指一本触れさせんぞ!」
「どけぇ!」
激突は激しいが、組織だった戦いができていないこともあって、個々の戦いのようになっていた。
一対一の戦いが、そこかしこで発生している。
その間をすり抜けるように走るフロウ。
彼に気づいた近衛が立ちはだかろうとして、その前に何かに撃たれたように弾き飛ばされた。
地面を転がる近衛は、たったの一撃で気を失っていた。
それは、フロウの傍に駆け寄ってきた、ジーナの力によるものだった。
「フロウ! やっぱり、さすが近衛というところね。かなり硬いわ」
「それはそうだろうね。王国の最精鋭。王族を守る唯一の盾だから、そんなに柔いと、むしろ心配になるくらいさ。それに、ディオニソスの私兵団もかなりの実力者ぞろいだ。彼らがまともな感性を持っていてくれたらと、これほど思ったことはないよ」
「どうする? 完全に勝つには、こっちも犠牲を考えないといけないけど……」
連携がまるで取れていないが、それでも不意打ち奇襲を仕掛けてきた精鋭の革命軍と五分の戦いを繰り広げている近衛と私兵団。
彼らが完全に連携を取ることができていれば、すでに革命軍はすりつぶされていたかもしれない。
それほどの力だった。
心配そうにジーナが問いかけてきて、少し逡巡しながらフロウは答えた。
「彼らを全滅させるならそうかもしれないけどね。ただ、今回の目的はそうじゃない。隙をついて突破するだけでいいよ。あとは、自分も死なないように足止めをしてもらって、僕たちでディオニソスを討つ」
「ええ、そうね!」
目的は、近衛騎士団やディオニソス私兵団を全滅させることではなく、ディオニソス単体の暗殺である。
そのためには、今革命軍が取っている戦法。一対一の状況を作り出し、足止めをしつつ時間を稼ぐ。これが肝要である。
二人は目的の人物であるディオニソスを探そうと動き出し……。
「好き勝手するのは、そこまでにしてもらおうか」
「っ!?」
重々しい声に、足を止めさせられる。
それを無視して動けば、自分の首が斬り落とされていたと確信できた。
二人の前に立ちはだかった、鎧姿の偉丈夫。
彼を見て、ジーナは苦々しそうに顔を歪ませた。
「シルバー・フリムラン……!」
「革命軍、か。まったく、困ったものだ。君たちが暴れることによって、それがまわりまわって多くの民を傷つけることにつながっていると、なぜ気づかない?」
スラリと剣を抜く。
騎士団長である彼が扱う剣は、もちろん名刀である。
そして、シルバーから漂う強烈な戦意。
何度も修羅場を潜り抜けてきたフロウたちでさえも、汗をタラリと流すほどだった。
「あたしたちの行動は、多くの人を救っているわ! 今の体制の犬である、あんたとは違ってね!」
「今のこの街もそうだが、暴れ終わった後はどうする? お前たちがやってきて、復興するのか? しないだろう。革命軍が破壊した街は、税から修繕される。そして、その税は民が絞り出したものだ。お前たちが暴れなければ、無駄に吸い取られることもなかった。それを、民のためになっていると言えるのか?」
「言える」
「ほう?」
言葉を詰まらせたジーナと違い、即答で頷いたフロウに興味を抱くシルバー。
どう言葉を紡ぐのか、楽しみだった。
「確かに、そういった面があることも事実だ。だけど、僕たちが行動を起こすことで、多くの貴族がわが身を省みるようになった。革命軍に目をつけられて、殺されたくないために。そのおかげで、民に対する姿勢も変わり、税率も見直すところが多くなってきた。それは、僕たちが今回のように、貴族を襲うことをしてきたからだ。自分たちが襲われない対象になろうと、貴族たちがわが身を省みることになった。そのおかげで、多くの人々が、以前よりも良い生活を送ることができている」
フロウの言っていることにも一理あった。
将来的に少しでも豊かな日常を送るために、今苦しんでいるのだ。
少しずつ、少しずつ変革が起きている。
その火を途中で消したりしないように管理は必須。
誰にでも優しい世界をつくるために。
「そのためには、この街の住人は苦しんでもいいと?」
「必ず後で助ける。今の苦しみが、必ず将来報われる。僕たちが危険な戦闘を担う代わりに、その苦しみは許容してもらう。代償なしに何かを得られることはないからね」
「随分と好き勝手な言い草だ。民を守るべき騎士としては、認められないな」
やれやれと首を横に振るシルバー。
本性はともかく、表向きは優しい騎士団長。
誰かを犠牲にすることを前提に話をされても、彼が答えられるはずもなかった。
「退いてくれ。ターゲットは君じゃない。今、君と戦って傷つけるつもりはないからね」
「そうはいかん。その先には、私の守るべきお方もいらっしゃるのでな」
そんな会話をしていると、前に一歩出てくるのはジーナだ。
「フロウ、先に行って。こいつはあたしが足止めする」
「……任せてもいいのかい?」
「誰に聞いているのよ。あたしがあんな筋肉ゴリラに負けるとでも?」
「分かった。ありがとう」
そう返事をすると、すぐに駆け出した。
一歩一歩の間隔が長く、瞬く間に消えていく。
近接戦闘が得意ではないジーナでもギリギリ目で追いかけることができるほどの速度だったが、シルバーは完全に捉えていた。
その目がしっかりとフロウを掴んでいた。
しかし、自分の横を通り過ぎる彼の前に立ちはだかることはなく、背中を見送った。
「あら、すんなり行かせるのね?」
「ああ、構わん。お前も油断ならない実力者であることは理解しているから、隙を見せるわけにもいくまい。それに……」
目で見えるほどに魔力を溢れさせるジーナ。
そんな彼女の問いかけに応える。
「私も、この状況を利用させてもらおうと思ってな」
「……何を言って?」
ギラリと剣を光らせて、獰猛な笑みを浮かべるシルバー。
その姿は、誰にでも優しく勇ましい騎士団長の普段のそれとは、明確に異なっていた。
ゾクリと背筋を凍り付かせるジーナ。
「理解する必要はない。適切に時間を見て行動する。もちろん、その時には、お前は死んでもらうがね」
「っ!?」
「さあ、始めよう」
次の瞬間、ジーナの眼前には大上段に剣を構えるシルバーがいて……。
鋭い剣筋で、振るわれた。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話
https://magcomi.com/episode/2551460909829488747
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第4話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg991556
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第33話
https://unicorn.comic-ryu.jp/12028/




