第47話 人間ダーツするぞー
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話
https://magcomi.com/episode/2551460909829488747
王女パトリシアの滞在する街を見下ろすことができる場所に、二人が立っていた。
「あそこに、パトリシア王女がいるのか……」
「なに? 王女に興味があるの?」
男が呟けば、女がギロリと睨む。
まさかそんな刺々しい反応が返ってくるとは思っていなかった彼は、目を丸くした。
「え? いや、興味って……別に異性のそれとかではないよ? でも、興味はあるかな。ほら、僕たちみたいな庶民って、一生関わり合いのない人だからさ」
「だったら、騎士にでもなった方がよかったんじゃない? あんたの力なら騎士にもなれたでしょうに。今みたいに、逆に敵対するような立場になるよりは、よっぽどいいと思うけどね」
その言葉を受けて苦笑いする。
「今更だよね、それ……。それに、騎士になって王女には会えるかもしれないけど、その立場だったらこの国を変えることはできないと思う。だから、僕は今ここにいるのは、間違いなんかじゃないと思っているよ」
「ふーん。まあ、今更揺れるようなら、叩いてでも戻してあげようと思っていたけど」
「うん、ありがとう。いつも頼りにしているよ」
「……そういうのを、簡単に言わないでよ」
女は頬を染めてそっぽを向く。
そのおかげで、鈍い男は何も気づかなかった。
仲間からは、早くくっつけよ、と言われている二人であるが、その道のりは険しそうである。
強くて性格もいい男なので人気が高いことは知っている。
女も焦りは覚えているのだが、どうしても素直になれなかった。
「それで、どうするの? まさかだけど、王女には手を出さないでよね」
「もちろん。正直、それをするメリットがないんだよね。王族はこの国では力を持たないし、パトリシア王女が悪辣な人で民を傷つけるようなことをしているわけでもないし。むしろ、逆のことをしてくれているらしい」
慈善事業、と言えるほど大々的にはできていないが、パトリシアはその数少ない私財をなげうって民に還元している。
数少ない王族直轄地の公共事業や孤児院への献金などがそうだ。
そういうことが知られているから、人気も高い。
そんな彼女を攻撃すれば、せっかく支持基盤が固まってきた自分たちの立場が危ぶまれるようになる。
愚行とはっきり分かることはしない。
「それに、シルバー・フリムランも厄介だ。王国の騎士団長。コネや血筋でその場所にいるわけじゃない。実力でのし上がった、現場主義者だ」
彼らからしても、シルバーは高く評価されている。
実力がないくせにその立場にいるわけではない。
むしろ、団長に相応しい力を持っている。
だから、正面から戦うのは得策ではない。
「それでも、あんたが勝つでしょ」
「うん。そう言ってもらえるのは嬉しいよ。僕も負けるつもりはないけど……できれば戦いたくない相手かな」
「将来は絶対に戦う相手になるんだから、ビビらないでよね」
「もちろん」
薄く微笑む男。
信頼を向けられるのは嬉しい限りだ。
それも、小さなころから一緒にいる幼なじみから向けられるもの。
絶対に裏切ってはならないと思う。
「今回も、できる限りシルバーとの接敵は避けたい。何とか足止めをしているうちに、僕たちは……」
鋭い目を、明るい街の中に向ける。
「あの悪逆非道の貴族、ディオニソス・ホーエンガンプを討つ」
「ディオニソス、ね。一家全員が非人道的なことを平然とする、あたしたち革命軍の中でも筆頭暗殺対象であるホーエンガンプ家の嫡男。そいつを殺すことができれば、多くの民が救われることになるし、ホーエンガンプ家にも大きな打撃を与えることができるわ」
ホーエンガンプ家というのは、王国でも屈指の悪徳貴族であることは、言うまでもない事実として知られている。
過大な税率、敵対者への苛烈な攻撃、私財の不正貯蓄。
考えうる限り、悪い貴族のやることをすべてしているのがホーエンガンプ家だ。
それは、暗黙の了解となっている。
彼らが表立って糾弾されないのは、ホーエンガンプ領の民から窮状を訴える陳情がまるでないことが大きい。
外部の人間が訴えたところで、信ぴょう性は薄く、またそんなものをいちいち力のない国家が対応できるはずもない。
被害者当人から大きな声が上がれば話は別だが、それがない。
また、過去に一度だけ外部からの訴えが大きく無視できなくなった国家が調査に入ったことがあるが、不正をしている証拠は一切見つからなかった。
不正をしている証拠をそのままにしているバカなんているわけないだろ、というのがホーエンガンプ家の総意である。
「でも、侮ったらだめよ。伊達に殺戮皇なんて呼ばれていない。バンディット討伐戦だと劣勢だった戦況を一気に逆転させているし、王国近衛のニックも倒したという噂よ」
「僕たちの同志から報告があったから、それも事実だろうね。でも、今がチャンスだと思うんだ。ディオニソスを囲んでいる私兵の数も少ない。この機を逃せば、次にいつチャンスが来るか分からない」
近衛騎士団のニックは、敵対する立場である彼らからも知られた存在だ。
苦汁を飲まされたことも何度もある、強敵である。
それを、ディオニソスは打ち倒している。
遠くから偵察する限り、大きなけがもしていない様子。
ほとんど無傷であのニックを倒したということは、ディオニソスの力の強大さを物語っている。
だから、決して油断はしない。
しかし、決して引くわけにもいかない。
「未来の民のために、優しい国をつくるために、彼を殺さないといけない」
ディオニソス・ホーエンガンプ。
彼ら革命軍の、筆頭暗殺対象。
革命が成った後の世界に、彼は必要ない。
「……まあ、最後まで付き合ってあげるわよ。腐れ縁だしね」
「ありがとう。本当に頼りにしているよ」
「……っ。でも、あいつの情報を信頼してもいいの? もしかしたら、私兵の数も違うかもしれないし……。領民の避難もできているのかしら」
顔を赤くしながら、女は懸念を語る。
民のためを標榜している彼ら革命軍の最も気をつけなければいけないことは、民を危険なことに巻き込まないことである。
今回も、戦闘が起こるだろう。
それに、無実の民を巻き込んで死なせてしまっては、革命軍の支持基盤を失うことになる。
本末転倒だ。民を救うために行動しているのに、その民を傷つけては意味がない。
「避難に関しては大丈夫だよ。もちろん、僕たちがそんなことをすれば、今から事を起こすと宣言しているようなものだから、絶対にできないけどね。王女がやってくるから、警備安全のために、一時的に領民は離れた場所に移動させられている」
すでに、街の長が自発的に領民を遠ざけることをしている。
無論、それは革命軍のためではなく、王女警備のためだが。
しかし、そうして舞台は整えられている。
それをうまく利用し、ディオニソスを暗殺するのだ。
「それに、彼女は信頼できる仲間だよ。敵地に潜入して情報を流してくれている、危険な任務をしているんだから」
「……あっそ! じゃ、さっさとやるわよ!」
「う、うん……?」
不機嫌になった女――――ジーナに首を傾げる男。
後で理由を聞かなければ、と思いつつ、街の明かりを見下ろした。
「ディオニソス・ホーエンガンプ。直接的に君に恨みはないけど……ここで死んでもらう」
革命軍実行部隊のリーダー、フロウはそう宣言するのであった。
◆
一方、街の中では。
「おーし、じゃあ今から近衛騎士程度に負けた奴で人間ダーツするぞー。優勝賞品は金だ」
「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」
「むぐー!?」
「ちょっと! お金はあげませんわよ!?」
『だからそういうの止めろぉ! またお腹痛くしてやるから!』
「(あ、ちょっと待て……ふぐうううう!?)」
第2章終了です!
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