第46話 そんな必要はないし、方法もない
馬車の中でゆられながら、俺は酷く不機嫌だった。
ホーエンガンプ家の馬車はかなり豪奢だ。
父上がそういうの好きだからな。
それに比べると、今乗っている馬車は質素である。
それでも、庶民が一生乗ることができない程度のものだが。
これは、王家が所有している馬車。俺が一切かかわり合いたくない奴のものである。
パトリシアもグスタフも、どっちも本当にかかわりたくないな。
だというのに、俺の目の前でニコニコと微笑んでいるパトリシアに無理やり引きずり込まれてしまった。
無論、ダイアナは道連れである。
俺の隣でめちゃくちゃ不機嫌になっていた。笑える。
「なんだよ、公務って」
「私たち王族の力は、この国ではあってないようなものですから。こうして悪い貴族に媚びを売って、何とか潰されないようにしているのです。およよ……」
「どうして本人を目の前にして悪い貴族とか言えるの? お前が王族じゃなかったらマジで殺せるのに……」
まあ、要はこうして時々人気のある王族を地方に送って、貴族のご機嫌を伺うということだ。
民は王族が来て嬉しいし、連れて来てくれた領主にも感謝する。
それに、王族から気にかけてもらえるということも、貴族からすると嬉しいものだ。
それでガス抜きをして、反抗させないようにしているのだろう。
まあ、俺はこいつの本性を知っているし、全然反抗したいけど。
ただ、さすがにむかつくから殺すというのを、王族にやるのは具合が悪い。
民にはできるんだけど……。
「あら。さすがの殺戮皇も、その辺りは気にするんですね」
「え、気にしなくていい?」
「はい」
……あれ? 許可を貰えたら、もういいのでは?
いくら王族と言えども、人気のある王女と言えども、本人が殺していいと言っているのであれば、殺しても無罪だろ。
しかし、それに待ったをかけるのが、不機嫌だったダイアナである。
「ちょっと! さすがに王族を弑するのはダメですわ! 戦争はお金がかかりますもの!」
金がかからなければやってもいいような口ぶりだぞ、お前。
パトリシアがちょっと頭おかしいからセーフだが、普通ならアウトだからな。
「うまくやったら、戦争で金を稼げる可能性もあるぞ」
「…………お父様やお母様とも、しっかり相談しましょう」
ホーエンガンプ家、王家に反旗を翻す。
そうなったら、大変だろうなあ……。
『なんで他人事なの……? 武力担当の君が一番大変なことになると思うけど』
あんな雑魚がエースと言われている近衛しかいないのが王族の武力だぞ。
余裕で潰せるわ。
『君の私兵はそのエースにやられていなかったっけ?』
あいつは私兵の中でも最弱……。
というか、お前に言われて思い出したわ。
あいつ、殺さなきゃ……。
『何言っているんだ! 貴重な男を!』
「私の前でそういうことを言えるのは、ホーエンガンプ家の美点ですよね」
ニコニコと笑うパトリシア。
笑っている場合じゃないと思うんですけど……。
そこはちゃんと対応した方がいいだろ……。
「それで、こんなにぞろぞろと近衛を連れてきているわけだな」
窓の外には、王家の護衛である近衛騎士たちがいる。
しかも、今回はなんと団長であるシルバーも来ていた。
あいつはいつも通りだが、他の近衛騎士は、以前までとは俺に対する態度が違っていた。
王家の敵、いけ好かない貴族。
そんな感じで、言葉にはしないが明確な敵意を向けてきていた騎士たちであったが、今では俺と目を合わせようとしない。
はっきり言うと、ビビっていた。
なんでだよ。別にニックのように絡んでこなかったら、こっちから意味もなくいじめることなんてない……こともないんだけど。
しかし、王族の守護者たる近衛がこんなのでいいものか。
まあ、王族が苦しもうが潰れようがどうでもいいから、俺は何も言わないけど。
「王族が持ちうる数少ない武力ですから。まあ、私にそこまでの価値があるかと問われると、難しいですね」
「ないんじゃね?」
「うわー……我が兄ながら最低ですわ……。連座で処刑とかされたくないので、お兄様だけ殺して差し上げてくださいまし」
「大丈夫ですよ。私、そういうの好きですから」
どういうのが好きなの? 意味わからん……。
「で、お前はいつまで俺たちと一緒に行動するの? ぶっちゃけ、このまま一緒に動いていると、俺の私兵と近衛が衝突しそうだ」
「次の街で一泊したら、そこでお別れですね。とても残念ですが……。一緒についてきてくださっても構いませんよ?」
「お前のわがままに散々付き合ったんだから、もういいだろ。俺も領地に戻って仕事があるし。そんなに空けられないしな」
「まあ、お兄様は抑止力としてはとんでもなく力を持っていますからね。お父様がうまくやっているでしょうけど、あまり長期間空けていると、また革命軍が暴れますわ」
革命軍ねぇ……。
本当、この国ってもはや国としての体裁をほとんどなしていないよな。
王族に力はないし、各地で貴族が割と好き勝手しているし、革命軍なんていう反体制派が結構な規模でできているし。
力のない人間が恐ろしく生きにくい国だろう。
まあ、そういう奴らが革命軍とかに流れていくわけだが。
ちなみに、ホーエンガンプ領は税金は恐ろしく高いが、その分安全安心を保証されるから、割と領民も多い。
その分、俺らの懐も潤うというわけだ。
最高だな、わはは!
「賊みたいに民から財物を奪うのは、その前にすりつぶさないといけないが、革命軍みたいなのは多少遊ばせておいた方がいいけどな。もちろん、俺たちの体制に文句があるらしいから、全員殺すのは確定しているけど」
「どうしてですの? さっさと潰しておいた方が、金の節約になりますわ」
「ちまちま潰している方が金がかかるぞ。それなら、ある程度の規模に膨らませてから皆殺しにした方がいいだろ」
小さい騒動が起きるたびに私兵を動かしていたら、随分と金がかかる。
兵隊を動かすのって、金が本当にかかるんだよなあ……。
こういうところで出し渋りしていると、いざというとき動かんようになるし。
まあ、俺の場合は最悪恐怖で縛り付けて無理やり動かすこともできるが、大事なところで裏切られても面倒だしな。
困るとは言っていない。潰せるから。
そんな俺を怪しい目で見つめるダイアナ。
「本音は?」
「ちょっとうまくいって調子に乗っている奴らを叩き潰すのが一番楽しい」
「見てください、殿下。これが我が王国が誇る悪徳貴族ですわ。一刻も早く殺した方が世のためになります」
実の兄を処刑させるように仕向けるな。
そんな俺たちを見たパトリシアは、楽しそうに笑った。
何が面白いの?
「ふふ、楽しいですね。こういう日が長く続けばいいと思うのですが……。そのためには、私がディオニソス様の近くに居続ける必要がありますね。どうしたらいいと思います?」
「そんな必要はないし、方法もない」
「まあまあ、そうおっしゃらず。ほら、街につきましたよ」
パトリシアの示す通り、一日泊まる街が近づいてきた。
……その前にダイアナ。お前、お仕置きな。
ちょっと今から馬車降りて街まで走ってついてこい。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第32話
https://unicorn.comic-ryu.jp/11707/




