第45話 ふざけんな
玉座。
王国で最も位の高い者しか座ることの許されない、高貴な椅子。
悪ふざけという動機でも、貴族という一般よりも高い地位にある者でも、そんなことをすれば即座に処刑されても不思議ではない。
そんな場所を、王国騎士団団長であるシルバー・フリムランがふんぞり返って座っていた。
いくら騎士団長とはいえ、決して許されない暴挙だ。
だが、それを咎める者は誰もいない。
なぜなら、すでにこの国はシルバーのものだから。
王国は、この男に簒奪されたのだ。
シルバーが座るその玉座の間に、一人の女が連れられてくる。
彼女は、王女パトリシア・レッドフォード。
引っ立てられる彼女に傷はついていないが、手を拘束されていた。
王女である彼女には、ありえない対応である。
だが、すでに王権を奪われた状態の王族。
このように扱われるのも、当然と言えた。
「さてと、お久しぶりですな、王女殿下。いえ、今はパトリシアとお呼びさせていただいてもよろしいですか? もはや、主従関係はありませんし」
「……シルバー・フリムラン」
キッとシルバーを睨みつける。
当然、気安く名を呼ぶことなんて許すはずもなかった。
その鋭い目で睨まれて、シルバーはやれやれと首を横に振る。
「よくもその顔を平然と私の前にさらせたものです。簒奪者は常識すら理解できないようですね」
「随分とお怒りのようだ。あなたを長く側で見てきましたが、このような言動はされたことがないのでは? 私は初めての男ということでしょうか? 大変光栄です」
「気持ち悪いですね」
彼女が王族でなければ、唾でも吐いていただろう。
それだけの怒りを覚えていたが、それを見るシルバーは、本来であれば自分の上に立つ女を見下ろすことができることに、強く興奮していた。
「それで、何用ですか。私の処刑日でも固まりましたか?」
「まさか。そのようなことはしませんとも。こう申し上げてもなんですが、大して力を持っていない王族を殺しても生かしても、どちらでもいいのですよ」
「たとえ力がなくとも、殺しておいた方がいいでしょう。私にその力はなくとも、私を神輿にしてあなたに反する勢力を作ろうとする者はいるでしょうから」
「おや、私のことを心配してくださっているのですかな? 父君や母君を殺害した、この私を」
無論、そんなわけはない。
パトリシアの目は、視線だけで相手を殺せると錯覚できるほどのものだった。
だが、そんな目は戦場で戦っていたら何度でも拝むものだ。
シルバーの腰を引けさせることはできなかった。
「勘違いしないでください。あなたのことは、とても恨んでいますとも。そんなあなたに情けをかけて生かされるくらいなら、死んだ方がマシだということです」
「なるほどなるほど。殿下のお気持ちは理解しました。しかし……私はあなたを殺しませんよ」
「……なぜ?」
ニヤリと、嗜虐的に笑う。
まだこの女は理解していないようだ。
自分が、どうしてここまで大層なことをやったのか。
無論、国を奪い一国一城の主になりたいという気持ちはある。
男なら当然だ。
だが、それ以上に自分が欲したのは、この美しい王女なのだ。
「理由はとても簡単ですよ。古来より、女が悪辣な男に捕らえられた際は、どうなるかご存じでしょう?」
「……ゲスが!」
その強烈な敵意も、シルバーを興奮させるだけのスパイスに過ぎない。
「おお、恐ろしい。私のような卑小な身には、御身の怒りはとても怖い。ですから、色々と楽しむために、準備もしてきたのですよ」
「ひっ……!?」
ジャラジャラと、見るに堪えない玩具が自慢げに披露される。
当然、それらはすべてパトリシアに利用される。
とてもじゃないが、それらをすべて受けて五体満足でいられまい。
少なくとも、シルバーが満足するころには廃人……あるいは、命を落としていても不思議ではない。
もはや、拷問道具のそれだった。
「おお、素晴らしい。そんな顔ができるのですね。私もますます興奮してきましたよ」
恐怖に顔を引きつらせるパトリシアを見て、シルバーはゲラゲラと笑う。
良心などは存在しないため、まったく彼女に対する仕打ちを再考することはなかった。
「そのまま、私を全力で楽しませ続けてくださいね」
「今のうちに、せいぜい楽しめばいいです。あなたは、必ずあの人が倒します!」
「あの人……? ああ、それは殿下がご執心の、あの男ですか?」
強く睨みつけてくるパトリシアに、ふと思い出す。
そう言えば、この王女の周りを、最近ちょろちょろとしている身の程知らずの男がいた。
重要な貴族でもないから、このクーデターが起きた王国で、今何をしているのやら。
積極的に殺すつもりはなかったが、この王城にいれば、おおよそ死んでいることだろう。
王城で、シルバー率いるクーデター軍は大暴れし、多くを殺したのだから。
倒すと言われても、不可能だろう。
「よくありませんよ。どこの馬の骨とも知れない男に心を許すのは。私のように出自がしっかりとしている、そういう男でなければ。名前は何と言ったか……そう、オオトリか」
「セイヤ……信じていますよ……」
そうして、パトリシアは心を通わせたオオトリ セイヤのことを考えながら、自分にシルバーの魔の手が届くことを待った。
◆
『で、その後は絶対に主人公が助けられず、パトリシアは徹底的に弄ばれて死ぬんだよね。その殺され方もえぐくて……遺体を平気で見せつけてくるゲーム会社はクソだと思った。いくら女はどうでもよくても、死体を見たいわけじゃないし。で、その後はオオトリ……主人公を使って弔い合戦。シルバーを倒して終わりという話が原作だよ』
なるほどなるほど。そういう素晴らしい未来が、俺を待っているということか。
王国を簒奪するというのは認められないことだが、パトリシアに関係することについては全面的に応援する。
何か俺の知っているパトリシアの性格とはまったく違う言動をしていたようだが、もう気にしない。
「で、そのクーデターはいつだよ。完全に成功させるわけにはいかないが、途中までは支援するぞ」
『教えない』
は? 何だこのクソ。
お前の良い所なんて、それしかないだろうが。
あとは価値ないぞ、お前。
そんなことを考えていると、部屋に飛び込んできたダイアナ。
「大変ですわ、お兄様!」
「あ? なに? 金でもなくしたか?」
「だとしたら、地面をはいつくばってでも探していますわ!」
這いつくばるなよ。お前、一応貴族だろ。
市中で貴族が這いつくばってお金を探していたらどうだよ。
父上、発狂するかもしれん。
……ちょっと面白いから、それはそれでいいか。
「で、何だよ?」
「わ、わたくしたちが帰ると知った王女殿下が……」
ダイアナの言葉が止まる。
それは、奴が部屋に入ってきたからだ。
つい先ほど暗殺計画を持ち上げられていた張本人は、薄く笑って俺を見下ろした。
「私、また公務で別の貴族の領地に行くんです。途中まで一緒ですから、一緒に行きましょう」
「ふざけんな」
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第7話
https://kimicomi.com/series/eb41931417e85
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第32話
https://unicorn.comic-ryu.jp/11707/




