第44話 二度と俺の目の前に出てこないでください
御前試合が終わって翌日の夜。
王女の私室で絡まれて怒声を上げているディオニソスがいたころ、シルバーの私室にはエスペランサがやってきていた。
無論、男女の甘いことではなく、報告のためだが。
「エスペランサ、ニックの容体はどうだ?」
「……重傷です。しばらく安静にしないといけません。それに、少しリハビリの時間も必要とのこと。現場復帰できるのは、本人次第だそうです」
「ふむ……。身体の怪我もそうだが、何よりも精神的な方だな。あれだけ啖呵を切って、大勢の同僚の前……そして、奴が崇敬している王族の前であのようなみじめな姿をさらせば、よほど面の皮が厚くなければ顔を出すことはできないだろう」
医者から聞いたことをそのまま伝えると、シルバーは皮肉気に笑った。
自分を慕ってくれている部下に対してあまりにもな態度であるが、彼の本性を知っていれば何ら不思議には思わない。
「……団長のメンツも潰れましたか?」
「まさか。私のメンツはこれくらいで潰れる程度ではない。今までの積み重ねがある。……まあ、まったく影響がないわけではなかったがな。しかし、それは私だけではなく、近衛全体の問題だろう」
今回の御前試合をするように王女パトリシアに進言したのは自分だ。
そんな進言した部下が手も足も出ずに敗北したら、やはり多少はシルバーの評判に関わる。
しかし、幸いだったことは、ニックが近衛騎士の代表として立ち居振る舞いし、敗北したということである。
そのおかげで、シルバー個人の評価よりも、騎士団全体の評価に関わることとなった。
そうすると、勝手なことをしたとニックの立場が危ぶまれるのだが、少なくともあの試合を直接見ていた騎士の中で、彼を侮辱するような者は出てこなかった。
『相手が悪かった』。
多くの観客が、そう答えることだろう。
ディオニソスの力を目の当たりにして、あれに勝てると胸を張って宣言できる騎士は、誰一人として存在しなかった。
「とりあえず、ニックには無理せず療養するように伝えておけ。クビにすることもないともな」
「……分かりました」
「いや、しかし……ディオニソス・ホーエンガンプ。噂にたがわぬ……いや、それ以上の男だったな。まさか、ニックを打ち倒すとは。それも、無傷で」
自分の目的のためにニックを利用したとはいえ、彼の実力を認めていたのもまた事実。
ディオニソスを倒せると思ったからこそこのようなことを用意したのだが……。
「貴族というのは例外も存在するが、基本的には戦場に出られない雑魚だ。後ろでふんぞり返ることしか能のない連中だ。だが、ディオニソス・ホーエンガンプはそれらの常識には当てはまらんようだ。多少痛い目に合わせてやろうと思って今回のことにつなげたが……むしろ、逆効果だったな」
「……団長にとっても、あまりよくない傾向?」
「そうだな。パトリシアが、さらに好感を持ってしまったようだからな。単純に正攻法であいつを奪うのは、もはや無理かもしれんな。まあ、私としては、あの女を手に入れられるのであれば、過程はどうでもいいが」
今回のことも、単なる嫌がらせに過ぎない。
パトリシアがディオニソスをさらに気に入ろうが、どうでもいい。
最終的には、無理やり自分のものにしてしまえばいいのだから。
「それに、ディオニソス・ホーエンガンプ。あの男と私、戦えばどちらが強いかな? くくっ、久しく忘れていた感情を思い出させられたよ」
男として、やはり強さというものには一定の信仰を向けている。
そして、強さを競い合いたくなるのも男だ。
シルバーは獰猛な笑みを浮かべていた。
「いずれ衝突することになるだろうが……その時が、楽しみでならないな」
「…………」
そんなシルバーを、エスペランサはじっと見つめていた。
◆
シルバーとエスペランサがそんな会話をしているころ、某王女の私室では……。
「とても素晴らしい催しでした。私は大満足です。だから、何でも言っていいですよ? 私にできることなら、何でもします。本当です。本当に、何でも」
「ふっ……」
頬を薄く赤らめ、潤んだ瞳を向けるパトリシア。
王国で最も人気のある美しい王女から、誘惑ともとれる言葉を投げかけられた男、ディオニソスはニヒルに笑い……。
「じゃあ、二度と俺の目の前に出てこないでください」
「却下です」
「っ!?」
『懲りないなぁ、君たちは……』
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『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第7話
https://kimicomi.com/series/eb41931417e85
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第32話
https://unicorn.comic-ryu.jp/11707/




