第4話 あー、はいはい
『き、きついって何さ!?』
ありえないとばかりに声を強くするプレイヤー。
何さって……。こっちのセリフだわ。
「いや、きついだろ……。顔も知らない初対面の人間(?)に、いきなり告白されても……。ぶっちゃけ、キツイ……」
『……いや、まあそれはそうかもだけど』
顔も知らない初対面の人間が好きだと言って、お前のために手助けすると言う。
……それを信じてありがとうと答えるバカがどこにいる?
いや、世の中にはいるかもしれないが、かなりの少数派だろう。
受け入れる奴は本当に愚か者だ。警戒心のかけらもない。
それが悪い奴なら、骨までしゃぶられて殺されることだろう。
まっ、俺は関係ないからどうでもいいけど!
「そもそも、お前の助けなんか必要ないから、さっさと出て行けよ。実体があるんだったら教えてくれ」
見つけ出して殺すから、とは言わないでおく。
そう言われて教えるバカなんていないと思うし。
しかし、プレイヤーは期待していた返答をしてくれなかった。
『うん、それ無理』
「…………は? どっちが?」
出て行くことか? それとも実体の居場所を教えることか?
後者ならまだいい。部下とか使って探し出すから。
でも、前者だったら……。
どうしよう。自分の頭蓋を切り開いてしまうかもしれない。
『出て行くことも、実体を教えることも。というか、実体とかないし、僕』
「…………出て行くことができないっていうのは?」
『こっちの世界に送ってくれた神様? 的な存在に、基本的には一方通行だって言われたから。だから、無理』
「……はあああああああああああ!?」
何だその神!? ぶっ殺すぞ! 神殺しするぞ!
ふざけんなよマジでさあ!
俺は一瞬たりとも許可したことないのに、当たり前のように居座ってくるとか質悪すぎるだろ!
「じゃあ、今すぐ自決しろ! 俺に迷惑をかけるな!」
『ははっ。実体もないのにどう死ねと? 笑える』
「何が面白いんだテメエ!!」
笑える要素がどこにもねえんだよ!
「出て行け!!」
『いや、無理』
そんな言い合い……というか、一方的に怒鳴りつける声が響き続けるのであった。
傍から見たら、俺が一人で大騒ぎしているだけになるので、まったく許容していないが、その場でプレイヤーを叩き出すことは諦める他なかった。
◆
「はあ……」
嫌なことを思い出してしまった……。気が滅入るわ……。
自由気ままに生きていけると思っていたのに、たった一つの存在のせいで台無しである。
その俺を落ち込ませる張本人は、のんきにも声をかけてくる。喋るな、二度と。
『どうしたの? 君がため息をつくなんて珍しいね』
「いや、最低の過去を思い出してな……」
『えっ、君にもそんなものがあるの!? 興味あるなあ、教えてよ』
「お前と出会った時の記憶だよ」
『ひどくない!?』
お前の存在の方がひどいわ。早く消滅しろ。
『それにしても、最近は賊の活動も激しいね』
このまま話を続けるのは具合が悪いと判断したのか、プレイヤーは話題転換を試みる。
まあ、こいつを痛めつけても何も解決しないから、話に乗ってやることにした。
「俺たちの領地にも来ているくらいだからなあ。今まではほとんど来なかったのに……。なんでだろう?」
『君が一人残らずズタボロにしていたからじゃない?』
弱いものいじめは好きだから、全然俺の領地に来てくれてもよかったのに……。
ただ、荒らしたら殺す。
まあ、賊なんだから当然暴れまわるんだけどな。
だから、全員害虫のように押しつぶしているのだが。
「まあ、何人かだけ生き残らせて、逃がしていたからな。別の賊の集団に合流した時にそのことを話すから、賊もビビったんだろ」
『あ、なるほど。賊を皆殺しにしなかった理由って、そういう……』
こうして賊をビビらせて畏怖させることによって、領地に手を出させないこともできるのだ。
そのおかげで、うちの領地は他の領地と比べて賊の被害が著しく低い。
出た瞬間に俺と私兵が出向いてぶち殺して回っていることも大きいだろうが。
しかし、今の賊はかなり強大で組織化されており、それぞれの集団が好き勝手しているというわけでもない。
先程押しつぶした連中も、その強大な組織の一端である。
賊がこんなにいて組織化までされているとか、この国本当に終わっているな。
なにせ、賊にならざるを得ないくらい国民が追い詰められているということだもんな。
「最近はお前が邪魔するから、なかなか殺せないんだけどな」
『カルマ値を少しでも善に偏らせるんだ。そうすれば、主人公との衝突も避けられるかもしれないからね!』
「あー、はいはい」
またカルマ値とか意味わからんこと言いやがって。
主人公くんとの戦闘を避けると言われても、あっちから突っかかってきたらやるしかないだろ。
俺は負けて殺されるらしいが……。さて、どうなるんだろうな。
「閣下!」
「あ?」
てててっと駆け寄ってくる部下の一人。
何が楽しいのか、ニコニコしながら駆け寄ってくる。
走ることを純粋に楽しんでいるようにすら思える。俺には分からん。
真っ黒な髪を二つのお団子のようにまとめている女は、マリエッタ。
犬のよう……というか、実際に獣耳としっぽがわさわさと動いている。
そんな彼女は、俺の目の前ギリギリで立ち止まると、ニコニコしながら報告してきた。
「領主様がお呼びっすよ!」
「え、マジ? 何だろ、好き勝手させてくれているのに。とりあえず、行くか。ついてこい、ワンコ」
「はいっす!」
俺はマリエッタを引き連れて歩き出す。
さすがに領主様に呼ばれたら、断るわけにはいかない。
『……君とゲームだと掘り下げられなかったその子の関係性も気になるところだけど、領主っていうのはやっぱり』
「ああ、俺の父親」
過去作『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』のコミカライズ第6話がニコニコ漫画で公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや表紙から飛べるので、ぜひご覧ください。
https://manga.nicovideo.jp/comic/73126




