第37話 却下しろ
今年最後の更新です。
ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします!
「そうですか。どうしてそのようなことを仰っておられるのか分かりませんが、少し悲しいです。私たち、とても仲良しさんだと思っていたのですが……」
シュンと落ち込んで見せるパトリシア。
クソ演技だろうな。
ただ、それが分かるのはこいつと遺憾ながら関わる機会の多い俺やダイアナであって、この城の使用人やら近衛騎士やらは気づくことはないだろう。
単純に、ダイアナが王女を悲しませていると取るはずだ。
もともと他人からの評価なんて微塵も気にしない彼女だが、敵を多くつくることは本意ではない。
冷や汗を大量に流しながら、回避を試みる。
「もちろんですわ、殿下。わたくしも殿下のことは、かけがえのない大切なお友達だと思っていますの。でも、あなたの周囲にいる人からすると、わたくしの評判はあまりよろしくないようで……。それが、怖いと言っていたのですわ」
『わぁ。すっごい言い訳うまぁい』
……うまいか?
「そうですか。よかったです。大切な友人であるダイアナさんに拒絶されたら、とても悲しいですから」
ニッコリと笑ったパトリシア。
こいつ、分かっていて言っているな。
彼女は振り返り、自分に付き従っていた巨漢を見た。
「では、護衛はここまでで結構です。あとは、ディオニソス様が守ってくださりますから」
「いや、守らないが?」
暗殺者が来たら、自動的に通すが?
むしろ、後方支援を担当するかもしれん。
「はっ、承知しました」
そう言った後、護衛を務めていた男は俺を見た。
「ディオニソス・ホーエンガンプ殿。殿下のこと、よろしくお願いいたします」
「あ? スイセンとかがしっかり護衛するから大丈夫だ。俺は知らんけど」
「ええ。しっかりと私の警護をお願いしますね?」
「話聞いてた? 耳遠いの?」
俺の腕を取って柔らかく笑うパトリシア。
腹パンするぞ、そんなに近づいてきたら。
「それでは」
そう言って、男は離れて行った。
おい、お前も騎士だろ。パトリシアの暴挙を止めろや。
『まさか……いや、ここにいるのは当然か。シルバーは、王国騎士団の団長だもんね』
プレイヤーがどこか緊張した声で呟く。
なんだ、知っているのか。
『あいつは、原作の敵キャラ。多くのルートでパトリシアを殺害した、序盤のボスキャラだよ』
支援してくる!!
『何を!?』
◆
パトリシアの私室に連れ込まれた俺とダイアナ。
もう何度目になるか分からないくらいだから、今更である。
何とも思うことはない。
『王女の私室に引き入れられて何も思わないのは、男としてどうなの……?』
だって、俺こいつのこと好きじゃないし……。
むしろ、早く解放してくれとしか思っていないし……。
そんなことよりも、さっきのいかした男さんのことについて教えてくれ。
俺をこの地獄から救ってくれる救世主かもしれないのだから。
『いや、めっちゃ喋りたくないんだけど……。まあ、いいや。注意喚起もできるし』
そう言うと、プレイヤーは話し始めた。
『シルバー・フリムラン。王国騎士団の団長を務める猛者。戦闘能力は当然のごとく高いけど、その騎士道精神あふれる言動から、部下や王族からも信頼が厚い。まさに、騎士の中の騎士と称される男だ』
いや、それはいいんだよ。もう知っているし。
さすがに俺も騎士団長くらいは知っている。
俺の道の妨げになるかもしれない男だしな。
俺が聞きたいのは、パトリシアをぶっ殺すというところだ。
ここ、とても大事。俺、とても興味ある。
『けど、原作だとそれは本性を隠しているだけで、その実態は野心家であり外道。この国を手中に収めようと行動し、主人公であるオオトリと必ず対立していたよ。結構自由度高いゲームだから、ルートによっては敵キャラも味方になっていたりするんだけど、シルバーとディオニソスは少なくともずっと敵だったね』
なんか俺の名前も出てきた気がするが、今はどうでもいい。
ルートとかはいまいちよくわからないが、とにかくシルバーは、パトリシア絶対殺すマンということでいいのか?
『うん、まあ……』
なおのこと支援しなきゃ……。
『敵キャラの支援なんてばれたら、原作主人公からのヘイトが凄いことになるだろ! 認めないぞ!』
……そういえば、鬱陶しいことにオオトリもここに来ているな。
原作とやらが、すでに始まっているのだろうか?
オオトリから嫌われるのは心の底からどうでもいいが……。
しかし、シルバーの奴がそんなに野心家だったとはな。
俺の目的のためには結構邪魔だが、まあパトリシアを殺させて、その後シルバーを俺が殺せばいいか。
そんなことを考えながら、ダイアナと褒美について話をしていたパトリシアに問いかける。
「あいつとは結構仲が親密なのか?」
「そういうわけではありませんよ。彼は王国の騎士団長ですから、むしろ父との方が仲良しです。たまに、ああやって守っていただくことはありますが」
確かに、騎士を統率するあの男が、護衛に付きっ切りというわけにもいかないだろうし、あれだけの格になれば、王族のトップである国王を守る仕事をするだろう。
ちっ、じゃああまり接点はないということか。
どういう風にパトリシアを殺してくれるんだ?
そう心配している俺に対して、彼女がニッコリと嬉しそうにほほ笑んだ。
「私が彼に心を寄せているという心配でしょうか?」
「違う」
「ご安心ください。私の心は、すでにディオニソス様のものですから」
「違う」
「結婚式、呼んでくださいまし」
「はっはっはっ」
便乗してニヤニヤしながら俺を陥れようとするダイアナ。
とても面白いことを言う奴だ。気に入った。
「ふぎゃあああああああああ!? 頭が割れますわああああああああ!?」
小さな頭をわしづかみにして、全力で握りつぶそうとする。
多分、その気になれば頭蓋骨を破砕することもできるだろう。
ギリギリそうならない程度の激痛を与えていると、ピクピクと痙攣して静かになった。
……なんか知らんけどヨシ!
「そうかそうか。なら、もっと仲良くしておいた方がいいんじゃないか? ほら、騎士団長ともなれば強いだろうし、お前をしっかりと守ってくれるだろ。仲良くしておいて損はない」
『こ、こいつ……。殺す相手だと分かっていてこんなことをよくも……』
パトリシアとシルバーをもっと近づけよう。
シルバーがどういう方法で殺してくれるのかは知らないが、接点は多ければ多いほどいいだろう。
俺は全力でアシストする。とどめはシルバー、お前に任せた。
なお、パトリシアを殺した後は用済みなので、俺が殺す。
そんな俺の提案を受けて、彼女はコクコクと頷いた。
「なるほど、そうですね。もちろん、仲良くしておいた方がいいでしょう。でしたら、彼から希望をいただいたことも、受け入れてあげるしかありませんね」
「おー、いいじゃん。やってあげろやってあげろ。そういう積み重ねが大事よ」
「分かりました。当事者の同意も得られたので、進めていきたいと思います」
「おう、頑張れよ。…………当事者?」
なんだかおかしな言葉が飛び出してきたものだから、思わず硬直してしまう。
当事者? 同意? 何を言っているんだこいつは?
俺の聞き間違いか、あるいは幻聴か。
確認のために復活したダイアナを見る。
「言っていましたわ」
言っていた? マジ?
「先ほど、シルバーさんからお願いされていたんです」
ニコニコと、本当に楽しそうに笑うパトリシアには、悍ましさしか感じない。
「近衛騎士団のエース、ニックと殺戮皇ディオニソス様の御前試合を開いてほしいと」
「却下しろ」
「却下しろという提案を却下します」
どおおおおしてだよおおおおおおお!!
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第3話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg976858
『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第31話
https://unicorn.comic-ryu.jp/11327/
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第7話
https://magcomi.com/episode/2551460909829488747




