第35話 夢見るクソバカ男か……
前に呼び出された俺とダイアナは、礼儀正しく跪いた。
そりゃそうだ。力の大部分を失っている国王ではあるが、いまだにこの国のトップであることは間違いない。
この国の象徴であり、いまだに敬意と忠誠を向ける者は多い。
……俺は違うけど。
ただ、こんな場所で、『おいおっさん!』とかは当然言わない。
なんかそんな奴が過去にいたらしいけど、そいつバカなのだろうか?
ちなみに、そいつらは無事処刑されたらしい。
そりゃそうだろう。
「……ディオニソス・ホーエンガンプ」
「はっ」
俺は跪きながら、適当に答える。
だいたい国王を相手にするときは、『はっ』と言っておけばいい。
あとは勝手にあっちが都合のいいように解釈するから。
むしろ、変に意見とか言っちゃうと、また王族に取り入ろうとしているだとか色々と言われる。
取り入るつもりは微塵もないので、そんな噂を流されたら面倒極まりない。
ニックのようなバカが増えるとなると、さすがに俺も疲れるぞ。
「貴公の活躍、ワシの耳にも届いた。見事であった」
「ありがとうございます」
そう言うのは、この国のトップ、グスタフ・レッドフォード。
かなり老齢の男で、今にも死んでしまいそうなほどに痩せている。
誰か毒でも飲ませているんじゃないかと思うが、何十年も前からこんな感じだ。
ただ、普通の死にかけの男とは思えないほど、目がギラギラと輝いている。
あれは、強烈な欲望を抱えている奴の、欲深い目だ。
ただ、金や女という低俗なものを求めている目ではない。
もっと大きなものを求めている目だ。
やせぎすの、今にも死にそうなほど老いた男が、目をギラギラと欲望に輝かせている姿は異様ともいえる。
これが国王というのだから、この国もヤベエな。
『よかったね。王に褒められて』
別にこいつに褒められても嬉しくねえけど。
活躍って言ってもなあ……。適当に調子に乗っている賊をぶっ殺しただけだし。
もうちょっと動くのを遅らせればよかったと毎日後悔しているが。
パトリシアを殺してほしかった……!
「とくに、此度はワシの大切な娘であるパトリシアの危機もあったと聞く。それを見事救い出してくれたディオニソスには、感謝を」
「…………」
助けたくて助けたんじゃねえよ、クソジジイ。
返事を無視した、とは捉えられないだろうが、普通に嫌だったので答えなかった。
パトリシアがあの戦いで死んでいてくれたら……!
俺はどれほど幸せだったろうか。
まあ、近衛も詰めていたから無理だろうけど。
賊とはいえ、元普通の民に近衛が負けるとも思えないし。
「褒美については、パトリシアからも便宜を図るように言われておる。楽しみにしておくように」
「……はっ」
……え。パトリシアの介入が……?
いや、そもそも今回の褒美がどうのこうのというのは、パトリシアが言い出したことだ。
そりゃ介入しているよな。
……ろくでもないものを褒美として渡してきそう。
憂鬱になってきたわ。
「それでは、ディオニソス・ホーエンガンプ、ダイアナ・ホーエンガンプ両名の謁見を終える。続いて、このまま別の者の謁見があるため、退出するように」
王族との謁見なんてこんなものだ。
基本的には一瞬で終わる。
よほどのことをしたら話も長くなるのだろうが……。
特定の個人が象徴的存在である国王と長く接しているというのも、具合が悪いんだろうな。
そんなことを考えながら、さっさと帰ろうと俺とダイアナが立ち上がり、広間から抜け出そうとすると……。
「ディオニソス」
国王グスタフに呼び止められる。
何だよ、もういいだろ。
そんな気持ちは一切表に出さないようにしながら振り返ると、ギラギラと輝く目を向けてきていた。
キモイ。
「これからも、国家と王家に尽くしてくれるな?」
「はっ」
そう言って頭を下げる。
適当に言っておこう。はっ、と言っておけばいいだろ。
『ちなみに、国家と王家に尽くすつもりは……?』
あるわけねえだろ、バカ。
なんで俺が赤の他人に滅私奉公しないといけないんだ。やるわけねえ。
「ディオニソスにそう言ってもらえると、ワシも安心だ」
そんな口ぶりだが、表情は硬い無表情のままだ。
グスタフも結構分かりづらいなあ……。
こういう王だから、いまだにどこかの貴族に潰されていないのかもしれない。
頭を下げながら、広間を出た。
そんな俺のすぐ後ろに駆け寄ってくるダイアナ。
おい、背中におぶさってくるな。歩くのを面倒くさがるな。
重たいんだよ。
「で、尽くすんですの?」
「んなわけねえだろ」
「ですわよね!」
ニコニコと笑うダイアナ。
こういうところは考えが似ているから楽だ。
これでダイアナが王家に忠誠を! とか言い出したら地獄だ。
そんな時、ふと彼女が気づいたように囁いた。
「……ところで、褒美って何だったんですの?」
「……さあ?」
こんなところにまで来た主目的、忘れてた!
◆
「よかったですわね。ちゃんとパトリシア王女から褒美が出るようですわよ。まあ、あの方の私室に呼び出しされているわけですけれど。じゃ、お兄様。後はすべて任せましたわ。お金、たくさん稼いできてくださいまし」
ペラペラと一気に話しぬいたダイアナは、そう言うとビシッと手を上げて背中を向けた。
はっはっはっ、どこへ行こうというのかね。
「待て」
「ぎゃっ!?」
首を掴んで引き留める。
これ以上歩くというのであれば、息の根を止める。
そんな強い意志を込めていたのが伝わったのか、顔を青くしてダイアナは振り返った。
それでいいんだよ。ヨシ!
「なんですの!? もうわたくしは色町からお金を回収したから、早く領地に戻ってぐへぐへ言いながらお金を数えたいのですけれど!」
お前の趣味、控えめに言ってクソだな。
しかも、その金は俺が投資して稼いだ金だろうが! 返せ!
「安心しろ。パトリシアには、お前も呼ばれている。よかったな」
というか、呼ばれてなくても道連れである。
俺だけ辛いとかありえないから。
「…………腹痛が凄いので」
「漏らせ」
「かわいい妹になんてことを言いやがるんですの!」
「かわいいと思ったことねえよ!」
組ついてくるダイアナ。
なんだ、やんのか!?
いつも金の勘定しかしていないお前に、前線でバリバリ弱い者いじめしている俺が負けるわけねえだろ!
頭をわしづかみにして頭蓋骨を破砕させようとしていると……。
「あっ」
「あぁん?」
今の俺を見ていたら、特に悪いことしていなくとも処刑するぞ。気が立っているからな。
そんな感じで振り返れば、相手も俺を睨みつけていた。
「ディオニソス・ホーエンガンプ……!」
フルネーム……。
えーと……名前、何だっけ、こいつ。
「夢見るクソバカ男か……」
「どういう蔑称!?」
そのままだろうが。
俺を見てギョッとするオオトリに向かって、深くため息をつくのであった。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第3話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg976858




