第34話 道連れにした、俺の妹も
むかつく近衛騎士を殺そうとしたら、別の近衛騎士がやってきた。
『いや、だから殺すのはダメだって! イケメンだし!』
この頭の中のボケも殺す方法ってないのかな? マジで。
教えてくれたら、マジで何でも褒美やるのに。
さて、近衛騎士エスペランサか。
近衛二人となると、普通なら相手にするには分が悪いよな。
まあ、俺にはそんな変わらないけど。
別に、一人殺すのも二人殺すのも一緒だ。
とりあえず、パッと見る限り、ニックにとっても想定外のことのよう。
……よし、プライドも高そうだし、バカにしてやろう。
「近衛の同僚を守りに来たか。女に守ってもらうとか、さすが格好いい近衛騎士様だなぁ、ええ? 俺はそんな経験がないから近衛にはなれないんだろうな。残念だわ」
「黙れ! え、エスペランサ! 余計なことはしなくていい! 私は負けていない!」
顔を真っ赤にして怒りを表すニック。
なんだこいつ、面白いな。
想定していた通りに動いてくれる。
本格的に殺し合いになったときも、簡単に殺せそうで何よりだ。
「……色町も王都。そこで近衛が剣を抜いて戦うのは、やりすぎ。しかも、相手は貴族。ニックにとっていいことが何もない」
「くっ……!」
正論をブチ当てられて、ニックも言葉を返すことができていない。
……あれ? おかしいな……。なんかこのまま引き下がるような雰囲気じゃない?
そりゃ、そっちはそれが正解だろうが、俺は別に違うしな。
「いや、そっちはそれでいいかもしれねえけどさ。こっちの都合はどうしてくれるの? いきなり喧嘩売られて、黙って帰れってか? そんな詰まらねえ終わり方、ねえよな?」
「…………」
スッとエスペランサが鋭い目を向けてくる。
お? なんだ? 二対一か?
全然いいぞ。近衛二人くらい、余裕で殺せるし。
俺はもっと挑発してやろうと、剣を構えて……。
「お兄様、そこまでにしておいた方がいいですわ」
「なに?」
俺を止めに入ったダイアナに困惑する。
基本的に、俺たちはそれぞれの楽しみを邪魔することはしない。
相互不可侵というか、お前の邪魔はしないから俺の邪魔はするな、という暗黙の協定みたいなものがある。
俺が嫌いなダイアナでも、その一線は守っていた。
だって、その後俺がこいつの楽しみを全力で邪魔するもんな。
だから、随分と珍しい反応なのだ。
その意味を、ダイアナが説明する。
「ここは色町。その性質上、ある程度暴力も許容できる場所ですが、さすがに殺しはマズイですわ。客足が遠のきますの。そうしたら、お兄様が投資している場所からの回収金額が減ってしまいますわぁ!」
「あー……それはまずいな」
なるほどな、そういうことか。
むしろ、人の死を見たら色々と昂って興奮する奴もいそうだけど……。
そうでない奴も多いか。
というか、やっぱりこいつ金のために行動したな。
我が妹ながら、この守銭奴っぷりには結構引く。
「仕方ねえな。引いてやるか」
俺は剣を収める。
そして、ニックを見て、冷たく言い放った。
「だから、俺に許しを乞えよ、近衛」
「……はっ!?」
ギョッとして俺を凝視するニック。
……いや、別に変なことは言っていないだろ。
「いや、だから謝れって。お前がいきなり突っかかってきたんだろ。たかが騎士が、貴族にさ。でも、お前を殺すのを勘弁してやるって言ってんだ。おら、頭下げろや」
「うわぁ……ゲッスイですわぁ……」
『ゲッスイねぇ……』
なんでこんなに評判が悪いんだ?
謝るだけで許してやるって言ってんのに……優しすぎるくらいだろ。
ちなみに、逆の立場だったら、俺は絶対に謝らない。
そんなみじめなことできるか。
絶対にそいつを殺してやる。
「こ、この野郎……!」
「……その必要はない」
怒りから爆発しそうになっていたニックを抑えるように、エスペランサが前に出てくる。
おいおい、こいつもため口か?
近衛騎士って、貴族に舐めた態度をとることが必須条件なのかよ。
「は? おいおい、必要はないってなんだよ。それを決めるのはお前じゃねえ。俺だ」
「……今日のこと、パトリシア王女に言うし」
「よかったな。今日のところは勘弁しておいてやる。さっさと消えろ、カスども」
まあ? 俺は優しいから? 別に謝らんくても? 許してやるよ。
おら、さっさとどっかに行け。消えろゴミ共。
……パトリシアに告げ口は禁止な。
「さっきと言っていることが真逆ですわ」
「……いざというときは、お前も連れて行くからな」
「さっさと消えなさい、カスども。お兄様が見逃すとおっしゃっているのですから」
ダイアナも同じことを言う。
こいつもパトリシアと面識があるからなあ。しかも、気に入られている。
……今回の謁見、こいつも連れて行こう。
俺一人より、こいつを盾にした方がマシだろ。
「私は……私は認めないぞ、ディオニソス!」
「お前……マジで口の利き方から勉強してこいよ……。俺じゃなかったらマジで殺されているぞ」
ズルズルとエスペランサに引きずられていくニックを見送る。
集まっていた野次馬たちも、血が流れることがなかったためか、それぞれ欲望を発散するために散って行った。
俺の元に、ダイアナが近づいてきて耳元でコソコソと囁く。
おい、近いんだよ。身体当たって気持ち悪いわ。
「……なんとなく分かりますわ。あれ、お兄様にまた絡んできますわよ」
「まっさか。さすがにもうねえよ。褒美貰ったら速攻で帰るし」
「褒美!? その素晴らしいお言葉はなんですの!?」
「うるせえ」
ぎゃんぎゃん叫ぶダイアナから離れて歩き出す。
安心しろよ。お前も道連れにするから。
◆
日が明けてから、俺の姿は王城の大広間にあった。
近衛騎士団が警護をする中、そこにはこの国の中で最も地位の高い男、国王がいた。
そして……ついでとばかりに道連れにした、俺の妹も。
「ディオニソス・ホーエンガンプ卿、ダイアナ・ホーエンガンプ卿、前へ」
「(どうしてわたくしを巻き込んだんですのおおおおおお!?)」
うるせえ。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第3話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg976858




