第11話 誰かこいつぶっ殺してくれ
盲目の王女を引き連れて歩く。
何だろう……この人さらいをしているような感じは……。
頼まれてもこいつは貰いたくないんだけど。
俺は後から遅れてきたため、パトリシアの天幕より離れた外周部に陣をしいてあった。
普通に歩くだけならまだしも、視界を遮られている中だとかなりしんどい道程となるはずなのに、パトリシアは息をまったく乱さずに俺の腕を取って楽しそうに歩いていた。
鼻歌まで歌っていやがる……。
「…………」
俺はじっと腕を取っているパトリシアを見下ろす。
王女というだけあって、銀色のボブカットの髪はキラキラと輝くように手入れが行き届いている。
病人ともとれるほど真っ白な肌は、何かしらのケアをされているのか。
あるいは、そもそも日の当たる場所にほとんど出ないということもあるかもしれない。
栄養状態がいいからだろう、身体の起伏も豊かに富んでいる。
盲目という先天性の障害があるから、儚さを相手に印象付ける。
男女問わず庇護欲を掻き立てるような、そんな見た目と雰囲気だった。
静々とした話し方も、それを助長させる一因である。
……だから、どいつもこいつも表面上のものに騙されるんだ。
これのどこが薄幸の王女だ。
そんなことを考えていると、俺の天幕にたどり着いた。
私兵たちは興味深そうにこっちを見てくる。
これ以上見ていると殺すぞと睨むと、そそくさと逃げて行ったが。
「で、俺の天幕まで来やがったけど、何の用だ」
天幕の中に入ると、さっそく用件を聞く。
もちろん、すぐに腕は話した。
甘ったるい匂いがして、なんだか気持ち悪くなるのだ。
そんな俺の問いかけを受けて、パトリシアは……。
「ここがディオニソス様の……。くん、くんくん」
匂いを嗅いでいた。
……なにしてんだこいつ。
そもそも、さっき建てたばかりなのに、俺の匂いもくそもないだろうに。
そんな俺を見て、蠱惑的にほほ笑む。
「ふふっ、臭いですね」
「殺されたいの?」
「私は嫌いではないですよ?」
「お前の好みとか知らねえよ」
匂いを嗅いで嫌いじゃないとか、変態じゃねえか。
国民から愛されている盲目の王女が、匂いフェチの変態だと知ったら、周りはどんな反応をするのか。
……あんまり興味ないな。
『ちょ、ちょっと。そんなに強い言葉を使っても大丈夫なの? 王女だよね? 不敬罪で処刑とかされない?』
知らね。
プレイヤーは心配しているようだが、そんなのパトリシアの気持ち次第だ。
全然悪いことをしていなかったとしても、気に食わなければ処刑。
それができるほどの権力を持っているのがパトリシアだ。
俺もホーエンガンプ家の嫡男だから、かなり好き勝手出来る権力を持っているが、さすがに王族に対して何でもかんでもできるような力はない。
いちいち怯えていてもどうなるか分からないんだったら、自分の気持ちのままに行動すればいいのだ。
『本当、メンタルクソ強いよね……。悪役だけど』
「用は?」
「いえ、単純にお話をしようと思っただけですよ。全然手紙も書いてくれないですから、さみしかったんです」
シュンと落ち込むしぐさを見せるが、実際はどうなのか。
「手紙なんて書いたら検閲されて俺がマズイ立場になるだろうが。ふざけんな」
貴族が直接王族に手紙なんて送ろうものなら、何を考えているのかと周りの目がとんでもないことになるだろう。
王族に取り入ろうとしているのかと、そんな邪推をされかねない。
死の直前になってもパトリシアを頼ることはありえないというのに……。
そんな俺を見て、彼女はニッコリと笑う。
「それも面白いでしょう?」
「張り倒されたいの?」
「ディオニソス様なら、構いませんが?」
「なんだこいつ……」
張り倒してやりたい……。
というか、首をすっ飛ばしてやりたい……。
しかし、もちろんそんなことをすれば、俺の立場が危うくなる。
好き勝手しているが、まださすがに王族を弑することは尚早である。
『……タイミングさえそろえばやるって言っているように聞こえるけど?』
その通りだよ。
「それに、お前護衛はどうしたよ。一人か?」
「スイセンには黙ってこっちに来たので。ディオニソス様のことを話すと、絶対に反対されるでしょうから」
『盲目なのに、よくここまで来られたね……』
そこはそうだよな。
常人とはまったく異なる。
他の盲目の人間がこの距離を歩くのは、かなりしんどいのではないだろうか。
俺もエスコートとか言っているけど、別に気を遣って移動していたわけじゃないし。
むしろ、転げろ、とか思って歩いていたから雑だっただろう。
だが、どこかにつまずくようなこともなく、平然とここまでついてきた。
普段から運動もしていないだろうに、だ。
……こいつ、絶対に何か隠しているぞ。
「はあ……。じゃあ、話も終わったし、さっさと帰れや。あの女貴族がトップに立って、バンディットを潰すんだろ?」
「そうですね。でも、絶対に失敗すると思いますが」
「は? なんでそう言いきれるんだよ」
あっさりと言うものだから、俺は思わず問いかけてしまう。
自分が招集した討伐隊が負けると、笑って言うのはおかしいだろ。
そんな俺を見て(盲目だから実際に見ているわけではないだろうが)、パトリシアは講義をするように話す。
「まず、ディオニソス様が協力しないからです。この中で一番強いのはあなたの軍ですから。それが参戦しないとなると、当然力は落ちます」
『……あ、あれ? ディオニソスって、王女にフレイヤの指示を無視するって伝えたっけ?』
……伝えていない。
何なんだよこいつ。怖いわ。
何も言っていないのに、確信した様子で話すんだもん。
「それはあまり関係ないだろ。あの貴族もそこそこやれるようだったし。それに、数だって絶望的なほど差があるわけじゃないんだろ? じゃあ、大丈夫じゃねえか?」
ちなみに、全部適当である。
だって、あの女貴族の実力とか知らないし……。
そんなことを考えながら無責任なことを言うと、パトリシアは少し考え込む。
そして、俺を見てニッコリと笑った。
「……じゃあ、賭けをしましょう」
「嫌だ」
「あなたが勝つ。つまり、あなたの力なしでバンディットを討伐することができれば、私はディオニソス様の奴隷になります。何を命令してくださっても、全力でお応えします」
「いらない」
「ただ、私が勝ったら、私の言うことを聞いていただきます」
「断る」
「決まりですね」
「何が!? 全部断っただろうがぁ!」
無敵か!?
人の話を聞けよ!!
一度も途中で賛同の意を示したことはないだろうが!
どんだけ自分のやりたいことをごり押ししてくるんだよ、こいつ……!
しかも、俺にメリットがひとかけらもない……!
『王女を奴隷にできるって凄いメリットじゃない? このゲームだと割とあることだけど』
全然メリットじゃないし、王族が奴隷に落とされることが割とある世界ってどうなってんだ。
四六時中他国間で戦争が起きているのか?
「だいたい、お前の言うことってなんだよ。どうせろくでもないことなんだろうけど」
「……それは、内緒です」
薄く笑うパトリシア。
不気味で仕方ない。
本当、何でこいつが国民から人気があるんだ。
まあ、この本性が知れ渡っていないだけだろうけど。
さっきの天幕での会議のように、公の場では話すことすらめったにないからな。
「久しぶりにディオニソス様とお話できて楽しかったです。また一緒にお話しましょうね?」
「しない」
拒絶した俺に、パトリシアはニコニコと笑いながら腕を伸ばしてくる。
「では、エスコートお願いします」
「…………」
誰かこいつぶっ殺してくれ。
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