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#9

## 第二十七章:サイコロを振るように


昼下がりの気怠い空気の中、僕は一冊の本を手に取った。『QUITTING』――その挑発的なタイトルに惹かれたのだ。夕方からの授業まで、まだ時間はたっぷりある。


プロローグから律儀に読み進めるのは、どうにも性に合わない。途中で飽きて放り出す自分の姿が目に浮かぶようだ。だから、僕は目次を眺め、一番心の琴線に触れた第五章から、物語の海へと漕ぎ出した。


本を読み進めるうち、ふとした考えが頭をよぎる。「マッチングアプリ、始めてみようか」。


そういえば、今年の初めに誓いを立てたんだった。「二十歳の一年は、『幸せと人間関係』に集中する」と。そのタイムリミットも、あと三ヶ月に迫っている。始めるなら、今が潮時なのかもしれない。


しかし、僕の目の前には「会計士予備校経由での就職活動」という、もう一つの現実が横たわっている。そのためには、十一月の簿記二級試験は避けて通れない関門だ。アプリにうつつを抜かしながら、果たして合格できるだろうか。一瞬、そんな打算的な考えが頭をよぎる。


いや、待てよ。そもそも、会計士の勉強をしていた僕だ。一ヶ月もあれば、二級くらいどうにかなるだろう。それに、試験は十一月だけじゃない。来年の二月にもチャンスはある。そう考えると、急に心が軽くなった。


『QUITTING』という本が、僕の背中を押しているのかもしれない。「普通の道」から外れて、先の見えないベンチャー企業に飛び込むような、そんな予測不可能な人生も悪くないのではないか、と。どうせ卒業と同時に人生のエンジンを切ると決めているのだ。ならば残された時間で、予測可能な退屈な道を歩むより、少しばかりスリルのある回り道を選ぶのも、悪くない選択だろう。


そうだ、やってみよう。サイコロを振るように、新しい世界に飛び込んでみよう。バイトのことは、まあ、追々考えればいい。とりあえず、二、三ヶ月。期間を決めて、この新しいゲームに興じてみるのも一興だ。


善は急げ、だ。僕はすぐさまスマートフォンを手に取り、友人へとメッセージを送る。アプリの設定を手伝ってほしい、と。画面には、Pairsとwithの料金プランが並んでいる。三ヶ月プランの料金は、どちらも変わらない。僕の新しい冒険の舞台は、もうすぐそこまで来ている。

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