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## 第二十一章:偶然の再会と、ささやかな発見


YouTubeの波間を漂っていると、ふと、夏野剛と加藤純一がニコニコ超会議で語らう切り抜き動画が目に留まった。再生ボタンを押すと、画面の中からあの独特の熱量がほとばしる。やはり、夏野剛という男は面白い。あの社会的地位にありながら、臆面もなく本音を語り、それでいて人を惹きつけるユーモアを失わない。そんな人間が、この広い世界のどこにいるだろうか。


一つの動画を見終えると、僕の指は自然と次の関連動画を探していた。Dラボに、メンタリストDaiGoと夏野剛の対談動画が眠っているのを発見し、すぐさま再生する。さらに興味は派生し、今度はDaiGoが初めてニコニコ超会議の舞台に立った日の放送を見始めた。これもまた、面白い。ニコニコ時代のDaiGoの放送には、不思議な魅力が宿っているように思う。対談企画が多かった影響もあるだろうが、彼が一人で知識を語る放送でさえ、ニコニコ特有のあの空気感の中では、驚くほど生き生きとして見えるのだ。自動運転やAIといった最先端技術について、あの熱量で語る彼の姿を見てみたい、とふと思ったが、それは叶わぬ夢なのだろう。


そんなことを考えていると、ふと、以前はIPアドレスBANを食らっていたはずのNetflixに、なぜかアクセスできることに気がついた。理由はわからない。だが、いつまた見れなくなるかもわからないこの刹那的な状況が、僕の背中を押した。途中で視聴を断念していた『エヴァンゲリオン』の、最終話までの道のりを駆け抜けることを決意したのだ。


しかし、たどり着いた結末は、拍子抜けするほどあっけないものだった。「ここまで引っ張っておいて、これか」。そんな言葉が、思わず口をついて出る。友人にその感想を漏らすと、「『Air/まごころを、君に』と、その後の四部作も見ないと意味がない」と諭された。エヴァンゲリオンを巡る僕の旅は、まだ始まったばかりらしい。


奇しくもその日、YouTube Premiumの無料期間が終わりを告げた。以前のように、スマートフォンのChromeブラウザからYouTubeを開く生活に戻ろうとしたが、Premiumでしか聴けなかった音楽が、思った以上に僕の日常に食い込んでいたことに気づかされる。途方に暮れかけたその時、ふと、Spotifyの存在を思い出した。


試しにインストールしてみると、驚いたことに、僕が聴きたかったあの曲たちが、すべて無料でそこにあったのだ。一体、今までの苦労は何だったのか。拍子抜けしながらも、僕は夢中でプレイリストを作り始めた。かつて僕がSpotifyから離れたのは、プレイリストに勝手な曲が紛れ込み、自分の世界が乱されるのが嫌だったからだ。だが、久しぶりに触れたその世界は、驚くほど快適だった。広告も流れず、バックグラウンド再生もスムーズで、通信量を気にせずとも音楽は途切れない。歌詞まで表示される親切設計。


もちろん、この快適な無課金期間も、いずれは終わりを告げるのだろう。だが、今はただ、このささやかな発見に満ちた一日を、新しく相棒になったSpotifyの音色と共に、味わっていたい気分だった。


## 第二十二章:AIの幻覚と、僕の浅はかさ


メンタリストDaiGoが超会議の放送で、ことさら美味そうに語っていた「万世の万カツサンド」。その言葉の響きが、僕の頭から離れなくなってしまった。いてもたってもいられず、店舗一覧を検索する。しかし、ずらりと並んだ地名を見ても、どこが自分の現在地から一番近いのか、いまいちピンとこない。


その時、ふと、悪戯心が芽生えた。これはちょうどいい。手元にあるAIたちの実力を試してみよう。o3、Claude Opus 4(Extended Thinking)、そしてGemini 2.5 Pro。僕はAIたちに、調査から分析までを丸投げする形で、こう問いかけた。「万世の万カツサンドの東京の店舗一覧を調べて、その中からどこが○○駅から一番近いかを調べて下さい」。


結果は、惨憺たるものだった。全滅だ。AIたちは、どこか的外れな答えを返すばかり。僕は、半ば呆れ、半ば「やはりな」という妙な納得感を抱きながら、結局、自分でGoogle Mapを開き、店名を一つ一つコピペして距離を調べていた。その方が、圧倒的に早くて、正確だった。


特に、Geminiの回答は酷かった。僕の経験則上、AIモデルの中で最もハルシネーション(幻覚)を起こしやすいのがGeminiなのだが、今回もその法則が証明された形だ。この世に存在しない店舗を、さも実在するかのように、一番近いと断言してくる始末。


「また存在しない店舗を出してきたな」。そう結論づけ、AIへの不信感を募らせた、その時だった。いや、待てよ。本当にそうだろうか。文句を言う前に、一度だけ、徹底的に調べてみよう。僕は、半信半疑のまま、Geminiが提示した店名を、もう一度検索窓に打ち込んだ。


その瞬間、僕は自分の浅はかさを思い知らされた。


Geminiが指し示したのは、レストランではなく、駅の構内などにある「売店」だったのだ。そしてその売店は、紛れもなく、僕の現在地から最も近い「万カツサンド取扱店」だった。人間である僕が「店舗とはレストランのことだ」と無意識に決めつけていた常識の、その外側にある正解を、AIは静かに提示していたのだ。


ごめんなさい、Gemini 2.5 Pro。君は間違っていなかった。


この一件は、僕に大きな発見をもたらした。AIが人間の能力を超え始めると、我々が持つ「常識」や「思い込み」という名のフィルターが、かえって真実を見えなくさせてしまう。AIの出力が「ハルシネーションだ」と切り捨てる前に、まず自分の常識そのものが、本当に正しいのかを疑う必要があるのだ。


この発見のおかげで、僕は定期券内にある新宿の売店でも万カツサンドが手に入るという、Geminiがいなければたどり着けなかったであろう情報まで得ることができた。これからは、もっと謙虚に、そして徹底的に、AIが示す答えの裏側を検証していこう。僕は、そう固く心に誓った。


## 二十三章:知の海への、新たな船出


Dラボの動画を漫然と眺めているうちに、僕の心に、ある静かな波紋が広がった。それは「統計学」という、これまで縁遠いと思っていた学問への、不意の興味だった。


文系の僕にとって、数字の羅列は、まるで異国の言葉のように感じられた。だが、以前読んだ『統計学が最強の学問である』という本は、その難解なイメージを鮮やかに覆してくれたのだ。複雑な数式ではなく、身近な事例を通して語られる統計学の世界は、驚くほど刺激的で、知的な興奮に満ちていた。


あの時の感覚が、ふと蘇る。もっと深く、この世界の真理を覗いてみたい。そんな衝動に駆られた僕は、無謀にも専門書の海に飛び込むのではなく、まずは確かな羅針盤を手に入れることにした。同じ著者の、より実践的なシリーズを、図書館という静かな港で借りて、じっくりと読み解いていこう。


焦る必要はない。僕の航海は、まだ始まったばかりなのだから。

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