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## 第十三章:認知の歪みと、心の平穏


昨日の僕は「ネガティブ・ケイパビリティ」という、それ自体が試練のような本と格闘していた。性急に答えを求めない能力について書かれた本を読むために、まさにその「性急に答えを求めない能力」が要るという皮肉。正直に言って、退屈だった。だが、その退屈な時間の中で、ふと最近見ていなかったあるYouTuberのラジオ番組を思い出し、チャンネル登録を済ませることができたのは、思わぬ収穫だった。しかしそれは別として、僕は早々に見切りをつけ、朝の通学電車で読み終えるとその足で図書館に返し、代わりに『認知バイアス』という本を手に取った。小難しい理屈より、純粋な読み物としての面白さをそこに見出したからだ。


そんな知的好奇心とは裏腹に、大学では些細な、しかし面倒な問題が持ち上がる。とある授業のGoogle Classroomに、僕が参加していないという事実が発覚したのだ。確認すると、そこには既に二つも課題が溜まっている。途端に、現実の重力が思考を鈍らせるような、あの嫌な感覚が蘇る。


だが、幸いなことに、僕には明日の「集中講義」という名の、ある種の空白時間が与えられている。土曜日だというのに、なぜ、とは思う。しかし、この時間を逆手に取ればいい。この数時間で、大学に関する全ての「やるべきこと」を片付けてしまおう。そう決めると、心は少しだけ軽くなった。


そんな中、以前参加した「就活」という茶番の中でも、特に無意味とされるグループディスカッションで一緒だったメンバーから、不意にLINEが届いた。そういえば、あの日、AIの話で妙に盛り上がったのを思い出す。その流れだろうか 、「エンジニアが集まる緩い飲み会があるんだけど、来ない?」との誘い。これは僥倖だ。文系の僕が混じっていいものかとは思うが、断る理由もない。過度な期待はせず、ただその場の出会いと会話を楽しんでみようと思う。


そんなこんなで、家に着いた。ここからは、自由な時間が僕を待っている。今日は、溜まっていたアニメ『ギルティクラウン』を最終話まで見届け、その余韻に浸りながら夜の散歩に出かけた。新しい本も少し読んだ。やるべきことを的確に処理し、やりたいことで満たす。今日の僕は、時間の使い方がとても上手だったように思う。


そして、もう一つ、確信に近い気づきがあった。


やはり、愚かな人間とは関わらないに限る。彼らと距離を置けば置くほど、精神は驚くほど穏やかになる。彼らの言動に心を乱されるのは、時間の無駄でしかない。冷たいようだが、そういう相手には、意識的に雑に接するくらいが、自分の心の平穏を保つ上では丁度いいのだ。これは処世術というより、もはや自己防衛に近い。


## 第十四章:王の器と、真の言葉


『ギルティクラウン』の物語を見届けた後、僕は一つの現実に直面していた。目の前には、もうすぐ無料期間が終わってしまうdアニメストアという、デジタルの大海原が広がっている。何か一つでも面白い作品を釣り上げようと網を投げてみるものの、僕の食指を動かすような一匹は、なかなか見つからない。


そこから、どういう思考の飛躍があったのか自分でもよく分からないまま、僕はいつの間にか、Fateシリーズに登場する「ギルガメッシュ」という王の名言を巡る、あてのない旅に出ていた。


旅の始まりは、とあるMAD動画で見た『Fate/stay night』の一つのセリフだった。「英雄とは、己が視界に入る全ての人間を背負うもの。この世の全てなど、とうの昔に背負っている。」――その言葉に、僕は確かに心を掴まれたのだ。しかし、友人のアドバイスに従って本編の該当シーンだけを抜き出して見てみると、どうにも印象が違う。音楽のせいか、文脈のせいか、あれほど荘厳に響いたはずの言葉が、ひどく陳腐に聞こえてしまった。


がっかりした僕は、しかし諦めきれない。本当に心震える名言は、別のシリーズにあったはずだ。記憶を頼りにYouTubeで彼の名前を検索し、確信する。僕が求めていたのは『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』の彼だったのだ。


以前一度は通して見たはずの物語を、今回は名言が飛び出すシーンだけを狙い撃ちにする、なんとも贅沢で、罰当たりな「つまみ食い」を敢行する。


いやはや、これだ。これだった。ウルクの民を前にした彼の演説は、まさに圧巻の一言に尽きる。「血を介さぬ知性の継承」によって「時代を繋ぐ」のだと語るその姿は、単なる暴君ではない、人類の未来そのものを見据える賢王そのものだ。


極め付けは、深手を負った彼に向けられる、身を案じる声に対しての、あのセリフだ。彼は平然と「気にするな。致命傷だ。」と言ってのける。そして続くやり取りの後、「では俺もいよいよ本気を出すとしよう。まあ始めから全力だが、見栄という奴だ。」と嘯くのだ。絶体絶命の状況ですら失われない、その圧倒的な王者の風格と、ほんの少しの人間臭さ。そのアンバランスな魅力に、僕は完全に心を奪われてしまった。


やはり僕は、このギルガメッシュという王が大好きなのである。思えば、僕が彼の登場するFateシリーズを追いかけるのは、これが初めてではない。かつて『Fate/Zero』を観たのも、『Fate/Grand Order』の物語を追ったのも、全てはこの黄金の王の姿を拝むためだったのだから。その事実に改めて気づき、僕は一人、静かに納得していた。

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