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## 第七十一章:百人のフォロワーと、ロンドンの空
まどろみの中から意識が浮上したのは、昼の光が部屋に満ちる正午過ぎだった。昨夜、というより今朝と言うべきか、眠りについたのは時計の短針が四時を回る頃。不規則な生活リズムは、もはや僕の日常に深く根を張ってしまっている。
ベッドから這い出し、手にしたスマートフォンでいつものようにX(旧Twitter)のタイムラインをなぞる。AIという名の、尽きることのない興味の海を漂い、何か新しい発見はないかと網を投じるが、今日の海は凪いでいた。心を沸き立たせるようなニュースの波は、どこにも見当たらない。
そんな退屈な午後に、小さな、しかし僕にとっては大きな変化の兆しが訪れた。あるDiscordサーバーへの参加条件、それは「百人のフォロワー」という、僕の前にそびえ立つささやかな壁だった。その壁を越えるため、地道な努力を続けていたのだが、今日、その壁に一筋の光が差し込んだのだ。
サーバーの運営者が、気まぐれのように「彼をフォローしてやってくれ」と、僕のアカウントを指し示してくれた。その一言が呼び水となり、僕のフォロワー数は、まるで乾いた大地が水を吸い込むように、あっという間に八十四人まで膨れ上がった。そこからは、まるで祭りのような騒ぎだった。旧友に声をかけ、あるいは時間差で僕の存在に気づいた人たちが、次々と温かい手を差し伸べてくれる。画面に表示される数字が一つ、また一つと増えていくたびに、僕の心は小さく、しかし確かに高揚していく。九十七人。目標まで、あとわずか三人の距離だ。明日には、どんな泥臭い方法を使ってでも、この百人という頂きに立ってみせる。そんな決意を固めた。
祭りの後の静けさが訪れると、僕はふと我に返り、机に積まれた本の一冊を手に取った。『ロンドン・アドベンチャー通信』。遠い異国の地で暮らす人の日常が描かれたエッセイ漫画だ。ページをめくるたびに、ロンドンの曇り空や、街の喧騒がインクの匂いと共に立ち上ってくるような気がした。その世界にもっと浸りたくて、リスニング強化と称して、覚えたての英語をぶつぶつとシャドーイングしてみる。
そうこうしているうちに、窓の外は夕暮れの色に染まり、時計は十九時半を指していた。僕は吸い寄せられるように本屋へ向かい、あの漫画の中で紹介されていた、もう一冊のロンドンを舞台にした物語を手に取っていた。同じ空の下で紡がれる、違う誰かの日常。それを知るのが、今の僕のささやかな喜びだった。
一日を振り返れば、結局のところ、僕は今日、何一つ生産的なことはしていないのかもしれない。ただ、画面の数字と、遠い国の物語に心を揺さぶられていただけだ。
ならば明日は、今日手に入れたこの新しい物語の世界に、一日中浸ってみることにしよう。読書三昧の一日。それもまた、悪くない。




