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## 第五十一章:バベルの塔の住人たち


レベルの低い人間と関わる時間は、可能な限り最小限に圧縮するべきだ。僕がこれまでの人生で、経験的に、そして半ば諦念と共に築き上げてきたこの法則が、今日という一日を通して、冷たく、そして明確に立証されてしまった。


大学の授業で行われたディスカッションは、その名に値しない代物だった。議題の趣旨から外れた感情論が、まるで正当な意見であるかのようにまき散らされ、議論の土台そのものが存在しない。そこにあったのは、対話の形をした独り言の応酬だけだ。僕は早々に口を閉ざし、ただその不毛な時間が過ぎ去るのを待った。


週に一度、単位取得のためだけに籍を置くプロジェクトの定例会議もまた、僕の精神を静かに蝕む。そこでは「進捗報告」という名の、旧態依然とした儀式が延々と一時間も続くのだ。生産性という概念が存在しないその空間で、ただ人生という貴重なリソースが浪費されていく。滑稽なことに、彼らはこの無益な集会を、わざわざオフラインで開催しようと画策し始めた。その提案を聞いた時、僕は呆れて声も出なかった。もちろん、会議中の僕は別の作業に没頭することで、この無為な時間から自分の魂を守っているのだが。


僕が所属する、会社と呼ぶにはあまりに拙いその組織は「生成AI×教育」というテーマを掲げている。そのため「AIを学びたい」という熱意だけはありそうな人々が集まってくるのだが、彼らの持つ知性のレベルに、僕は辟易させられる。これはAIに関する知識量の話ではない。学びに対する、根本的な態度の話だ。


彼らは、まるで巣の中で口を開けて待つ雛鳥のように、ただ「教えてほしい」と繰り返すばかり。自ら情報を探し、手を動かし、試行錯誤するという、学びの第一歩を踏み出そうとしない。Twitterで検索するでもなく、情報の集め方を聞くでもない。僕が書いている初心者向けのnote記事に目を通した人間など、おそらく一人もいないだろう。その怠惰な姿勢が、日夜AIの探求に励むエンジニアたちからどれほど軽蔑されるか、彼らは想像すらしないのだろうか。その思考回路は、僕にとって理解不能な、一種の奇跡のようにすら思える。


一瞬、この淀んだ空気に対して苦言を呈そうかという考えが、脳裏をよぎった。だが、すぐに思い直す。よくよく考えれば、僕はここで経理業務とnoteの執筆という最低限の役割さえ果たせば、あとは自由に過ごすことが許されている。それどころか、ChatGPTとClaudeの有料版という、強力な武器まで与えられているのだ。このぬるま湯の中で、あえて波風を立てるのは筋違いというものだろう。


彼らのレベルが低いままであろうと、僕の知ったことではない。僕がすべきことは、彼らと物理的にも精神的にも距離を置き、関わりを断つことだけだ。僕は僕の部屋で、彼らとは違う言語で、思考の塔を築き上げる。そう、僕はバベルの塔の住人なのだ。


今日、オフラインの集まりには一切参加しないという決意が、確固たるものになった。それが、この不毛な一日における、唯一の収穫だった。



## 第五十二章:制限付きの盤上で踊る


つい先日、僕の日常に新たなゲームが舞い込んできた。Gensparkという企業が仕掛けた、ささやかで、しかし実に興味深い挑戦状だ。新しく発表されたChatGPTエージェントが生成するスライドと、自社製品であるGensparkのスライド、どちらが優れているかをGeminiに判定させる。そして、もしChatGPTに軍配が上がれば、挑戦者に100ドルを贈呈するという。


一見すると、自社製品への絶対的な自信の表れか、あるいは気前の良いマーケティング戦略のように映る。だが「ChatGPTのスライド生成機能は、まだ発展途上だ」という使用者たちの声が聞こえてくる現状を踏まえれば、この勝負の裏には、したたかな計算が隠されているようにも思える。少しばかり、せこいやり方じゃないか。そんな冷めた感想を抱きつつも、僕の心は確かに高揚していた。


この盤上で、工夫を凝らしてGensparkを打ち負かすことができたなら。それは、AI活用の領域において、自分が決して浅瀬で遊んでいるわけではないという、ささやかな証明になるのではないか。そう思うと、俄然面白くなってきた。


もちろん、このゲームには厳しい制約がある。僕の切り札であるChatGPTエージェントは、週に40回という使用制限付き。Gensparkのクレジットも、一日に一度のスライド生成が限界だ。限られたリソース、限られた試行回数。この縛りの中で、いかにして最高のパフォーマンスを引き出すか。知恵と工夫だけが求められるこの戦いに、僕はこれまで味わったことのない種類の興奮を覚えていた。今週末の集中講義ですら、この挑戦のための思考時間として活用してやろう。決意は、静かに、しかし固く胸の中で形作られていった。


そんな闘争心とは裏腹に、明日の予定は実に穏やかだ。国立国会図書館へ赴き、『種の起源』やケインズの経済学を漫画で学ぶ。知の巨人が遺した思想の森を、最も手軽な方法で散策するのだ。そして、今日偶然知ったのだが、明日は僕が愛してやまないライトノベル『ようこそ実力至上主義の教室へ』の新刊発売日でもあるらしい。知的好奇心とささやかな娯楽。明日という日は、僕にとって輝かしい宝箱のようなものだ。


もちろん、小さな失敗もあった。『ヒルビリー・エレジー』を買い忘れたのは、少しばかり痛手だったかもしれない。だが、今読んでいる本がまだ手元にあることを思えば、致命傷ではない。


その本の名は『知の挑戦』。正直に言って、この本が最終的にどこへ向かおうとしているのか、僕にはまだ掴みきれていない。ただ、その序盤で語られる「啓蒙思想」という概念だけは、妙に頭に残った。この世界の森羅万象を支配するごく少数の普遍的な法則、その統一理論を、人文科学、社会科学、自然科学といったあらゆる学問を統合することで見つけ出そうとする、壮大な試み。それが啓蒙思想なのだと、本は語っていた。


文章を追うこと自体は苦痛ではない。だが、数ページも読み進めると、ふと「あれ、今まで何の話をしていたんだっけ」と、来た道を引き返す羽目になる。文字が、意味を伴わずに脳の表面を滑っていくような感覚。もしかしたら、これは単なる寝不足のせいかもしれない。僕の個人的な感覚では、この現象の原因の八割は、睡眠負債が占めている気がする。


まあ、その答え合わせは、また明日すればいいことだ。

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